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魂の在り処

 警吾に教えてもらった部屋に入った。目に飛び込んで来たのは、中央に位置するダブルベッドだった。

「えいやっ」

 俺は空中で半回転して仰向けになりベッドに飛び込んだ。ぼよーんとスプリングで跳ね返ると思っていたが、予想に反してふんわりと、身体が触れた部分だけが沈んだ。

「すっごい。すっごいふかふかだ……!」

 手足を広げ大の字のポーズをとってみる。ベッドから手足がはみでない。広い! つい今朝まで山王警吾だった図体では、寝るだけでぎゅうぎゅうに狭かったベッドとは何もかもちがう。寝そべったまま頭だけをあげ、正面を見る。壁を背にして台の上に薄型テレビがある。リビングに鎮座していた大画面の薄型テレビに比べると小さいが、それでも結構な大きさだ。こんなテレビとベッドが部屋にあったらと前から思っていた。それが今目の前にある。

 よっ、と。俺は勢いよく上半身を起き上がらせ、テレビの電源を入れるべくリモコンを探そうとした。

 そのとき、黒のパネルに映る顔なじみのない少女と目が合った。

「本当に俺、委員長になっちまったんだよな……」

 ふいに薬院蒼流と入れ替わった事実と向かい合わされたような気がした。はしゃいでいた気持ちは潮が引くように冷めていった。

 ため息をつき、ふたたび寝そべり天井を見る。地獄で見たときと同じで、また見知らぬ天井だ。室内灯に向かって手をかざす。頼りない小さい手のひらの影ができる。

「地獄……か」

 思い当たることがあって俺はパジャマのポケットをごそごそと探った。目当てのものを取り出し両手持ちでかかげる。黒く冷たい輝きを放つ携帯電話のモニタの中に姉ちゃんの姿をさがす。けれど映るのは、知り合ったばかりのあどけない瞳だけ。ためしにまばたきをしてみる。モニタの中の彼女と見事にシンクロした。

「うー」

 俺は頭を抱えて左右にごろごろと転がった。やがてぴたりと動きを止めた。

 一度死んで、三途の川でライフセイヴァーをしている姉ちゃんとあって、ロリ声のおっかない閻魔大王と会話して――姉ちゃんと過ごした一連の出来事が鮮明によみがえる。

 まったく何の冗談だ。厄日だ。今日は厄日にちがいない。

 他人に話したら正気をうたがわれるようなことばかりだ。

 でも――。

 今手にしている携帯電話こそが、姉ちゃんとの出会いと別れを示す決定的な証だ。みちびきだされる結論はひとつ。

「俺の魂が美少女と交換されたのは地獄の姉ちゃんのせい」

 なんだよなあ……。考えれば考えるほど、なぜこうなったのかわけがわからない。しかし、一見天然ボケの塊のような姉ちゃんでも聡いところもある。わざと現世に落としていったということは考えられないだろうか?

 携帯に電源が入らないものかといじってみたが、うんともすんともいわない。最悪、落下した衝撃で壊れてしまったのかもしれない。こまった。

 そうこうしている内に強烈な睡魔が襲ってきた。俺は携帯を枕のそばに放り投げた。

「あーもう、めんどくせえ! なるようになりやがれ、こんちきしょう!」

 俺は睡魔に身をゆだね、眠りにおちた。

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