ふたりだけの謝罪会見
「ふはっ……ふははははは……ハァーハッハッハッ!」
容姿端麗、学業優秀で通っていた姉ちゃんが実は天然女子高生だった。そんなことがあるはずがない。俺は笑い飛ばすことで考えを振り払った。
それにしても、
(あのとき――か)
俺は、姉ちゃんが口にした言葉を反芻した。なぜ姉ちゃんが死ぬことになったのかを思い出していた。
あの世で姉ちゃんに逢うことがあったら言おうと心に決めていた言葉があった。ちょうど今がそのときかもしれない。それは俺の中でもっと先になる予定だったけど、ちょっぴり予定が早まっただけのことだ。
ごくりと唾を飲み込み、俺は覚悟を決めた。
「姉ちゃん、話があります」
俺は神妙な面持ちで、正座して姿勢を正すと、姉ちゃんと向かい合った。
「どうしたの改まって?」
俺のかもし出すただならぬ雰囲気を感じ取ってくれたのだろう。姉ちゃんは話を聞く体勢をとった。
空気が張りつめる。一瞬の静寂。
俺は両手を床について勢いよくふせた。
「姉ちゃん、ごめっぐぅ!」
緊張のあまり勢いをつけすぎて、頭をしこたま床にぶつけた。痛い。額が割れたんじゃないかと思うぐらい、ものすっごく痛い。
「ごめっぐぅ? ……けいちゃん、今すっごい音がしたけど大丈夫?」
姉ちゃんが腰を浮かし立ち上がる気配がした。俺は土下座の格好をしたまま、右手だけをあげて制止した。待った、と言おうとしたが痛みで声にならない。代わりに全身をぴくぴく痙攣させ、モールス信号を送るようにして意思を伝えた。衣擦れの音がして彼女は座りなおした。どうやら試みは成功したらしい。
「謝って済む問題じゃないけど、姉ちゃんごめん!」
「んみー? なんのこと?」
俺は額を床に擦りつけたまま、
「だからさ……川に流されて溺れた俺を助けたせいで、姉ちゃんが代わりに死んでしまったことだよ」
「…………あっ」
姉ちゃんはさも意外とばかりに驚きの声をあげた。
「あ、あのことは、べ、別にいいんだよ。お姉ちゃん、全然ッ気にしてないし。だからけいちゃんも頭をあげて、ねっ」
なぜだ? 表情はわからないが、姉ちゃんが激しく狼狽している様子が伝わってきた。意外すぎる反応に俺の方が戸惑う。