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VACILIA COUNTY

 慌てて俺は席を立つと二人の間に割ってはいるようにして立った。

「やくい……じゃなくて、さ、山王君は気分が悪いみたい。も、もうーしょうがないなあ。俺……あたし委員長だし、保健室に連れていってあげるよ。だから桜坂は……桜坂さんは心配しないで。さっ行きましょ山王くん」

 ぐいいっ。俺はうつむく警吾の袖を引っぱると無理やり外に連れ出した。ちらりと振り返ると呆気にとられて緋恵が突っ立っている。あいつとはこれぐらいでどうにかなるような仲じゃないが、あとからフォローを入れるぐらいはしておいた方がいいだろう。


 行く当てもなく結局バカ正直に保健室に来てしまった。幸いなことに人は誰も居なかった。保険医は昼食にでもでかけているのか留守だ。

 俺は小さな溜息をついてその辺のベッドにぽすりと腰をおろした。スカートがふわりと舞いあがる。

「いったいどうしたんだよ」

「……」

「黙っててもわかんねーぞ?」

 警吾はぼそりぼそりと喋り出した。

「いきなり話しかけられて混乱しただけよ」

「あーまあ多少は、な。特にあいつはテンション高いから仕方ないかもな」

「いったい誰なのあの娘」

「あいつの名前は桜坂緋恵。オナ中のともだ――いやちがうな、ただの物好きだ」

 話していて余裕を取り戻したのか警吾がふふんと鼻で笑う。

「へー驚いた。あんたみたいなゴリラ属にも人の友達が居たんだ。あの娘、飼育日記をつける趣味でもあるのかしら」

 シートン動物記の先生に謝れこの野郎。本当にこいつ二人きりになると人が変わったみたいに口が悪いな。

「ふー。ともかくだ、俺の姿でいる限りちょいちょい付き合っていかなきゃいけないから上手くあわせろよ」

 警吾は露骨に嫌な顔をした。第一印象から苦手意識をもったようだ。

「ところでさ、そういうお前には一緒に昼飯を食う友達とかいないわけ? そういうのいたら教えてもらわなきゃならないんだけど」

「……」

 警吾は哀しそうにまつげをふせた。そしてぽつりと言った。

「いない」

「……え?」

「だからそんなの居ないって言っているのよ。お昼ごはんは校庭のベンチでパンを食べるか、たまに学食で食べるかのどちらかよ。よかったわね、余計な気を使う必要がなくって!」

 俺は瞠目して声も出せなかった。遅刻してきたのに誰も話しかけてこないクラスメイト、誰も誘いに来ない昼休み、薄々察してはいたがまさかのぼっちだったとは……。実際の性格に多少の問題はあるが、容姿抜群というイージモードーではじめておきながらなぜナイトメアモードを選ぶ。まったく理解し難い。

「話はこれで終わり? じゃああたしはもう行くね」

「あ、おい。財布はズボンのポケットにあるから適当に使ってなんか食えよな」

 警吾は背中でこくりと頷くと出口の戸に手をかけた。

「……?」

 しばらく立ち止まったあとに顔だけ少し後ろを向いて警吾は小さな声で言った。

「さっきはありがと」

 さっと顔を赤らめると、乱暴にドアを開けて出て行ってしまった。

 俺は一人取り残されて今の言葉を反芻した。ありがとだって。そして思わず吹き出した。

「素直なのかなんなのかわけわかんねー奴。あーしかし腹減ったなあ」

 俺はスカートのポケットから財布を見つけると、購買部でパンを買い、適当に昼食を済ませた。

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