Hello 31337
警吾は両手で顔をおおった。
「これから先、どんな顔してライカ君と話せばいいのよ。ばかぁ……」
「俺とライカは友達だから、その姿のまま普通に話せばいいんじゃね?」
「ちがう。それじゃあ意味がない」
「?」
警吾のいう意味の中身がわからなかった。ただ、とても落ち込んでいるらしいということだけは理解できた。
俺は話題を変えることで場の空気を変えようとした。
「お前の席ってどこだったかな? 廊下側だったけ?」
警吾は一瞬驚いた表情をみせたかと思うと、目をふせた。さらに空気が重くなったような気がして、あわてて俺は続けた。
「あっ、ちなみに俺の、つまりお前の座る席は窓際の後ろから二番目の席な。最高の立地条件だろ?」
警吾はぽつりと漏らした。
「知ってる……」
「えっ? なんで?」
虚を突かれて俺はぽかんとなった。今までろくに話をしたこともないのに、警吾が俺の席を知っていたことが純粋に不思議だったからだ。委員長だからクラスメイトの席の位置ぐらい把握しているのか?
「だってわたしの席はライカ君の隣だもん……」
謎の答えを明かされてから、俺は自分の迂闊さを呪った。すぐに自分がどれほど無神経な質問を浴びせてしまったのかを悔いた。
警吾の席はライカの前であり、つまり委員長の席からは斜め前となる。裏を返せば、今まで蒼流の存在を気にもしてなかったということだ。
あたりを気まずい沈黙が支配した。俺は沈黙に耐え切れなくなって、気がつけば苦笑いを浮かべていた。
「あは……あははっ。も、もちろん知っていたぞ。斜め後ろの席のやつを知らないなんてありえないもんな。ただの事実確認だ」
自然と言い訳がましい口調になってしまうのが苦しい。警吾は自嘲気味に笑った。
「嘘つかなくていいよ。わたし、教室じゃ影うすいもんね。背もちっちゃいし。取り柄といえば容姿が他よりちょっぴりすぐれているぐらいしかないし」
いや背は関係ないだろ、つーかどんだけ自分の容姿に自信があるんだお前はっ、とツッコミを入れようとしたが、やめた。今はとてもそんな軽口を叩ける雰囲気ではない。
警吾はひとりで教室を出て行こうとする。かけていたスライド式の鍵をはずし、扉を開け放った。
「おいっ、どこへ行くんだ?」
ばかげた質問だと思っても声をかけずにはいられなかった。
広い背中がいった。
「先に教室行くから、少し遅れて入ってきなさいよね。いっしょに入ったらなんといわれるかわからないし」 警吾は振り返らずに付け加えた。「教室では話しかけてこないで」
扉がぴしゃりと閉められて、俺は呆然と立ち尽くした。
「……ったく何やってんだ俺は」




