大見解
「だめね。壊れているみたい。だから捨ててあったのよ」
諦めて投げ捨てられようとしたケータイを俺は空中でつかんだ。電源が入らないかと俺もためしてみたが、何をやっても画面は黒曜石のように冷たく真っ暗なままだった。とりあえず制服のポケットにしまっておくことにした。
「ねぇ、そんなことよりこれからどうなるのかな、わたしたち」
不安な表情を隠さずに薬院が問いかけてくる。
「そうだなぁ……」
姉ちゃんのドジはさておき、現実として魂が入れ替わってしまったのは事実だ。
問題は女の姿でこの先どうやって生きていくかだ。これからの生活に様々な影響がでてくることは容易に想像できた。俺は頭を抱えてうずくまった。
……。しかし待てよ、と思った。
一度は死んだと思った命。助かっただけでも幸運といえる。しかも、容姿だけは抜群にかわいいい女の姿でという特典付での復活。考えようによっては最高じゃないか。
俺はすくっと立ち上がった。
「そうか! そうだったのか! やっと真理にたどりついたぜ」
難解な数学の問題が解けたような晴れやかな気分だった。
突然叫びだした俺にたじろいで、
「ひゃっ! い、いきなりなによ?」
「俺さ、ずっと、ずっと中学の頃から思っていたんだよな。姉ちゃんが生きられなかった分もしっかり生きなきゃいけないって」
「姉ちゃん? あんたにお姉さんが居たとして、それが今のわたしたちに関係あるわけ?」
「大ありさ!」
俺は小さな掌でついさっきまで自身の身体だった男の胸を拳で軽く小突いた。
「俺さ、死んだ姉ちゃんができなかったこともがんばろうと思って同じ高校に入ったんだけど、勉強も人付き合いも全然ッ上手くいかなかったんだ。なぜだと思う」
「そんなの知るかっ。さっきから何の話をしてんのよ?」
「まあ最後まで話しは聞けって」俺は勝利を確信したかのように言い放つ。
「そう! 俺が女じゃなかったからだめだったんだ!」
「はいい?」
可愛らしい小動物のように首を傾げる薬院。絶望的なほど気色悪い。
「男の俺が姉ちゃんのまねごとをすることに根本的な無理があったんだよ」
「ねぇ……ちょっと、本当に頭を打っておかし――」
「決めた。今から俺はこの身体で生きていくぞォ!」
「え? え? えぇぇぇぇぇッー!? どうしてそうなるのよォ!?」
「今から俺が薬院蒼流で、お前が山王警吾だ。俺のことはこれからは蒼流と呼んでくれ。よろしくな、警吾!」
「よろしく! ……じゃなーい!」




