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記憶

 そのとき、きらりと足元から眩しい光が目に入った。黒い金属の板が太陽の光を反射して転がっていた。

「何よそれ?」

「さぁ?」

 なんとなく気になって俺はそれを拾い上げた。

 その直後、

「うおおおおおっっっ!」

 頭のてっぺんから足の爪先までびりびりと電流が貫くような感覚が俺を襲った。

「一瞬骨が透けて見えたけど大丈夫? ねぇ?」

 薬院が心配して何か言っているようだが俺の耳には全然聞こえていなかった。

 俺は片方の手で顔を覆い目を見開き固まった。

 ――全てを思い出した。あれは断じて夢なんかじゃない。姉ちゃんと地獄で逢ったことは現実だった。

 事実確認するようにもう一度ケータイを見る。

 持ち主のセンスを疑いたくなるような趣味の悪い髑髏の形をしたストラップがついていた。見覚えのある髑髏がケタケタケタケタと不気味な音を鳴らす。俺は確信を深めた。このケータイが現実と地獄を結ぶなによりの証だ。

 俺たち二人はここで死にかけていたところを姉ちゃんによって救われた。うん、そこまではいい。合っている。問題はなぜ魂が入れ替わっているかだ。

 ついさっきまでの地獄でのやり取りを思い出す。時間にすればわずかだったがはっきりとわかったことが二つある。姉ちゃんは美人で、そして超ドレッドノート級の天然だということだ。

 俺は両手を握って、たまらず空に向かって叫んだ。

「ドジりやがったな、姉ちゃぁぁぁぁぁあああんッッ!」

「!? 何よ、いきなり大声をあげて。びっくりするじゃない」

 横で俺の顔をして驚きの表情を浮かべる薬院を眺める。こいつも姉ちゃんのドジの被害者なんだよなあ。そう思うと居たたまれない気持ちになった。

「その牧場から市場へ売られていくかわいそうな子牛を見るような目をやめて。そんなことより、ちょっとわたしにもみせなさいよ、そのケータイ」

「あっ……ちょっ……やめっ」

 不意をつかれてあっさりケータイを奪われてしまった。

 薬院に真実を知られてはまずい。俺は大いに焦ったが手遅れだった。「返せ、返せよう」取り戻そうとジャンプしても手が届かない。なんて背が低い身体なんだ。

「みたことない機種ね。電源はどうやって入れるのかしら」

 薬院は俺の手を左右にひらりとかわしながら、カチャカチャとケータイをいじり倒している。

「お前なんともないの?」

「え? 何が?」

 てっきり俺みたいに地獄の記憶を思い出すと考えていたから、薬院が平然としているのは驚いた。

 ――あっ。そうか。薬院は地獄に落ちたわけではないので、元から記憶などあるはずがないのだ。先ほど殴られすぎたせいもあり、まだ頭が混乱しているようだ。

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