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崇高なるミッション

「お前なあ、本人目の前にして最悪とかいうかふつー? だいたいなんだよ、そのけいゴリっていうのはさ」

 あら、自覚なかったのかしら? とでもいいたげに薬院は鼻で笑った。

「あんたはクラスの女子からけいゴリって呼ばれているのよ。なぜかあんたはイケメンのライカ君と仲がいいから、美女と野獣なんて呼ぶ子もいるわね」

 ぐっ……。俺は爪が食い込むほどに両方の拳を握りしめ、血が出るほどに奥歯をぎりぎりと噛んだ。コンビニ常連客が店員から自然と授けられるような精神をえぐるひどいあだ名が、俺の知らない間に浸透していたなんて全然気づかなかった。

 ライカが美女扱いされているというのに、この待遇の差はなんだ。そもそも、ライカは男なのに。世界は間違いだらけだ。

「あーあ。どうせ入れ替わるならライカ君だったらよかったのになあ」

「……」

 俺の憂鬱など薬院は知る由もなかった。

 うん、そうだ。これはさっき見ていた夢の続きにちがいない。

 古典的だが俺はほっぺをつねってみた。肌はやわらかくすべすべで、思っていたよりもずっと、うにゅーっと伸びた。

「痛ひ」

 大変遺憾ながら夢ではなく現実のようだ。

 小さな掌をひらいて、とじて感触を確かめる。ぷにぷにと弾力があり、自分の身体の一部でないような変な感じがした。続いて胸元に目を移すと、夏のセーラー服の下に謙虚なふくらみがある。

(本当にあるんだよな、おっぱい。……。やべぇ、どきどきしてきた)

 身体が男だった頃の記憶がそうさせるのか。本能に導かれるようにして、両手を自身の胸へとおそるおそる近づける。

 ふにふに。

(……うおおおおおおおおおおぅっ!)

 この世に生を受けて十六年。生まれてはじめて味わう甘美な感触に俺は驚きを隠せなかった。なんなんだ、この全てを包むこむかのような絶大な安心感は。母なる力、これが母性というやつなのか。

 こうなったらもっと念入りにさわって確かめなくてはならない。

 崇高なる使命に突き動かされて、中心から円を描くように優しく揉む。

 ふにふに。

(あふゅうんっ……!)

 未知なる興奮に俺の理性はあっけなく崩壊した。もう止まらない。先ほどより大胆に、夢中になって揉む。揉みしだく!

 ふにふにふにふにふに。

「はぁぅ……んんっ! らめぇ!」

 あまりの気持ちよさに思わず嬌声があがる。

 脳がしびれるような感覚。

 制服越しに触っただけでこの有様だ。


(もしも、直に触れたら?)


 ごく自然にそんな疑問が浮かぶ。

 無意識に唾を飲み込み、制服の裾から手をもぐりこませようとしたその瞬間、

「目を離した隙にわたしの胸を気安くもむなぁあっ!」

 怒号から間をおかずして、無防備な俺の顔面めがけて蒼流の右びんたが放たれた。

 大気が振動するほどの音が炸裂し、

「ぶへぇっ!」

 俺は年頃の女子高生が絶対に出してはいけない悲鳴をあげ、空中を一転、二転、三回転。きりもみ状態になって吹っ飛んだ。

 よろよろとどうにか立ち上がると、ほっぺをおさえ涙目になりながら訴える。

「痛ッてェ……。はにふんだよ!」

「それはこっちの台詞よ!」睨みをきかせるその姿は不動明王の如し。「あんた! 私の身体に何をしようとしていたのよ!」

 俺は鼻をこすると、フッと口元を歪ませて、片方の瞳を閉じた。

「俺の知的探究心が囁いたのさ。今こそ女体の神秘を追究するときだ――とな」


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