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ハグ地獄

 ハグ地獄から抜け出せそうになかったので、仕方なく俺は周囲に目をやった。

 どうやら場所は通学途中にある公園のようだ。景色に見覚えがある。少し離れた場所に砂塵を巻き上げて黒く巨大な隕石が地面に突き刺さっていた。

 そうだ、思い出した。俺はあの隕石から委員長を抱えて必死に逃げ回っていたんだった。もうだめだと一時は諦めたんだけど、こうやって意識があるということは、奇跡的に助かったらしい。さっきから姿の見えない委員長の無事が気になる。

 それにしてもこの情緒不安定な男は何者なんだ。

 髪はさっぱりと短く切りそろえられて、逆立てられている。俺が通う高校と同じ夏服からのぞく両腕は太く逞しい。無駄のない引き締まった筋肉をしている。日頃から相当鍛えていることが想像できた。

 考えを廻らせている間も男は泣き続けていた。俺はいい加減イライラしてきた。

「大の男がめそめそといつまでも泣いてんじゃねーよ」

 俺の声に反応して男の動きがぴたりと止まった。大きな身体がぼそりとつぶやく。

「わたし、男じゃない。……男じゃないもん」

「はぁ? お前ほど男らしい男は――」

「それ以上、男とかゆーな!」

 男は鋭く言い放ち俺の言葉を遮った。

 ようやく抱きついてた腕を離すと、泣きはらした顔をあげ、上目遣いに俺を睨む。

 男の素顔を見て仰天した。あやうく気絶してしまいそうになった。

 絞り出すようにして俺は声を発した。

「お、お前は……」震える指先で男の顔をさす。「俺ェ!?」

 男の顔は十六年間いつも鏡で目にしたお馴染みの顔。

 即ち俺そのものだった。

「じゃあ、俺はいったい誰なんだ……?」

 素朴な疑問を言葉にしてから、いつもの声じゃないことに今頃になって気づく。自分が出していた可愛らしい少女のような声にびっくりして思わず口を手でふさぐ。これ以上勝手に自分の知らない声が漏れないようにぎゅっと。

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