夢
夢を見ていた気がする。
長いようでいて短い夢。
地獄の底で死んだはずの姉ちゃんに逢う夢だ。
夢から醒めて気がつくと、俺は暗闇の空間をくらげのようにゆらゆらと漂っていた。
何も見えない、聞こえない、感じない。
精神だけの存在。
たとえるなら『無』。
ここは無の世界だ。
もしかするとこれが死後の世界というやつなのだろうか。とすれば、あの世は随分と殺風景なところだった。三途川を渡ると綺麗なお花畑が広がっていて、というのはどうやら嘘だったらしい。
そんなことは今となってはもうどうでもよかった。
とにかく眠い。眠くてたまらない。
抗い難い睡魔に身をゆだねようとしたそのとき。
闇を切り裂くようにして闇の奥ににょっきりと光点があらわれた。
光は無に押しつぶされまいと懸命に輝く。
光のさす方向から途切れ途切れに何者かの声がする。
『……きて。……きてよ……。ねぇ……』
「今は眠いんだ。頼むから放っておいてくれ」
心の底から煩わしそうに俺はいった。
俺の言葉に怒るようにして光はさらに強さを増した。声は俺に語りかけることをやめない。今度はさっきより明瞭としている。
『起きて! 起きなさいってば、あたし! 起、き、ろっ!』
変なやつだった。俺に対して“あたし”とはどういう了見だ。これではまるで“あたし”が“あたし”自身に語りかけているようじゃないか。
もうひとつ妙なことがあった。声色に聞き覚えがあることだ。いつもすぐそばで聞いていたような声。けれど決定的に違和感のある奇妙な声。
光は眩いばかりに輝いて、周囲の闇を力強く照らしだした。闇に溶けていた俺の輪郭が浮かび上がる。声の主は俺をたたき起こすことに随分とご執心なようだ。
そして、ついに光は闇を食らいつくした。俺は眩しさに耐え切れなくなって目を閉じた。光に目がつぶれないように気をつけながらおそるおそる開く。黒から白の世界へと様変わりしていた。
「おおっと!?」
いつのまにか目の前に人の姿があった。逆光になって正体は不明だ。そいつは手を差し伸ばした。
「お前は誰だ?」
俺は正体を確かめようと詰め寄った。
そいつの顔を見て俺は驚愕すると同時に、声の違和感の謎が解けた。
「なるほど。お前が迎えに来たのなら行くしかないな。連れて行ってくれ」
うなずく代わりにそいつは俺の腕を掴むと、光の中に引きずり込んだ。
あとには白だけが残された。
自分では丁寧な描写を心がけているつもりが、単にテンポが悪くなっているだけかもしれません。




