学級委員長
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「あとはけいちゃんの魂を身体に戻して地獄に帰るだけね。あっ! そうだ。お友達の分も戻さなきゃいけなかったんだっけ。危うく忘れるところだったよ」
「おいおい……」とツッコミがきこえてきそうなものだが、人魂となった警吾はもう何も応えない。ふらふらと空へ昇っていこうとする。
「こらっ。勝手に昇天しようとしちゃだめでしょ」
音羽は風船の紐を持つようにして人魂の尻尾をむんずとつかまえた。じたばたと暴れる人魂を「めっ!」と一発殴って黙らせた。
「ええと、けいちゃんのお友達の魂はどこにいったのかなぁ」
彼女の身体の方へと移動してきょろきょろあたりを見回す。居た。桃色の人魂が自身の身体から少し離れた場所でまごまごと彷徨っていた。音羽に気づいたのかさっと近くの木陰に隠れぷるぷるとふるえた。
「怖くないから出ておいでー」
神社の床下に入り込んだ子猫を誘い出すかのように優しい声でおびきだす。そぉうっと出てきたところを右手でつかまえた。びくりとして逃走しようとするが尻尾を握られてはもう遅い。
「ふぅー。捕獲完了っと」
あとはそれぞれの身体に口から人魂をぎゅうっと押し込めるだけだ。音羽は身体が近い彼女の魂を先に戻すことにした。
よいっしょっと。うつ伏せに倒れていた彼女をひっくり返して仰向けにさせる。ここではじめて音羽は委員長の顔を目にした。
「……んみ?」
時が静止したかのようにしばし沈黙して少女の顔をじいっと見つめる音羽。やがて目を輝かせると感激の声をあげる。
「かっわいい~! うわっ、なんなのこの娘。かわいすぎる~!」
思わず駆け寄ってほっぺをつつく。ぷにぷに。弾力がありとてもやわらかい。きゃー! と歓声をあげた。肌は透き通るように白くきめ細かい。丁寧に手入れされている深い蒼色をした髪がさらさらと揺れた。
「あっ! 音羽が生きてた頃と制服のデザイン変わってる!」
委員長が着ている制服も音羽と同じセーラー服だったが、赤いスカーフが濃紺の短いネクタイに変更されている点が大きく異なっていた。胸当てには御霊高の校章が刺繍されている。横についていたファスナーも前から開くタイプに変わっていた。
 




