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人魂

 俺はこれからのことについて訊ねた。

「身体に戻るにはどうすればいい?」

「身体に戻りやすいよう人魂に姿を変えるの。あっそうそう、人魂になるということは、精神だけの状態になっちゃうってことだから、もうおしゃべりはできないからね。そのあとは音羽が身体に戻してあげる。けいちゃんは何も心配しなくていいよ」

「了解。じゃあ次の質問。身体に戻って目が覚めたあとはどうなる?」

 彼女は寂しげな微笑を浮かべた。

「目が覚めたときけいちゃんは地獄での記憶を忘れるよ」視線をわずかにそらす。「もちろん音羽と逢ったこともね。それが生き返るときの決まりごとだって閻ちゃんが言ってた」

「そんなっ……!」

 予想だにしないことを聞かされて俺は絶句した。姉ちゃんが約束にこだわった意味がわかると同時に、心の奥底に押さえつけていた感情が奔流となって溢れだす。俺は姉ちゃんの細い腕をつかんだ。

「そうだ! 姉ちゃんもこの世に残ろうよ! せっかく逢えたのにまた離れ離れになるなんて嫌だっ」

 姉ちゃんは困ったように目を伏せて頭を小さく左右にふった。

「けいちゃん、それはできないよ。だって音羽の身体はもうお墓の中だもん」

「幽霊でもこうやって話すことはできるんだし、身体がなくてもいいじゃん」

 俺は諦めきれずに食い下がった。姉ちゃんを困らせてはいけないという相反する気持ちもあったが、理屈で感情を制御できるほど大人ではなかった。

 強引に姉ちゃんを抱き寄せようとしたとき、魔法の指が俺の唇に当てられた。

「わがままいっちゃ、めっ! ……でしょ」

 語尾がふるえていた。ハッと我に返り姉を見た。大粒の涙が目からとめどなく零れ落ちた。

「本当は……ぐすっ……音羽もけいちゃんと別れたくないよぅ。でも、音羽はお姉ちゃんだからしっかりしなきゃって……うぐっ……音羽だって……音羽だってずっと我慢していたんだからぁっ」

 姉ちゃんはわあわあと子供のように泣き出した。

 俺は激しく狼狽した。小学生だった頃に気になる女の子にいじわるしすぎて泣かしてしまったときの苦い感情が胸に広がった。

「姉ちゃんの気持ちも考えずにごめん」

「すぐに逢いに来てくれなきゃ寂しくて死んじゃうぞ」

「姉ちゃん、それさっき言ってたことと違う」

 えへへと姉ちゃんは空を見上げて笑った。俺もつられて笑った。姉ちゃんの頬を伝った涙の跡はもう乾こうとしていた。


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