わかったこと
「……んっ」
姉ちゃんがうっすらと目を開く。
「けいちゃんのお友達が生き返らなくてもいいの?」
俺はうるんで輝きを増した紅玉色の瞳をまっすぐ見つめた。姉ちゃんの唇にあてた指をそっと引っ込める。
「溺れた俺を助けてくれた姉ちゃんなら、委員長の命を見捨てるはずがない。そうだろ?」
姉ちゃんは虚をつかれたように瞼をしばたたかせた。長いまつげをふせて寂しげな表情を浮かべたのも束の間、嬉しそうに頬をゆるめた。
「さっすがけいちゃん。音羽のことはなんでもお見通しなんだね」
「当然。なぜなら俺は姉ちゃんの弟なんだからなっ」
姉弟はどちらからともなく笑いあった。
「じゃあさ、今度逢えたときはちゅーしてくれる?」
今度逢えたら――か。そのときはいつになるのだろう。
「そのときは俺ジジイになってると思うぜ。それでもいい?」
「うみー。ちょっと嫌かも。でもっ! けいちゃんが相手ならそれでもいいよ」
「やれやれ、わかったよ」俺は肩をすくめた。
「やった! 約束だからねっ!」
姉ちゃんは吹っ切れた顔をして夏空を見上げた。
「あーあっ! これで本当にお別れかぁ! お姉ちゃんは寂しいぞっ」
俺だってそうさ。喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。言ってしまうとカッコ悪い気がした。代わりに、
「またいつか逢えるって」
「そうだねっ。二つも約束したもんね」
姉ちゃんは小指を立ててはにかんだ。
たったの十六年間だけど生きてわかったことがある。この世は生まれたときから不公平だ。けれど、生きている限り死だけは誰にでも平等に訪れる。だから人は別れを惜しみ涙することができる。そして残された者は命ある限り生きようとする。




