SPS
「んっふふふっー。困ったときは音羽姉ちゃんにおまかせなのさ」
片目をつぶってみせたあと、姉はスカートのポケットから何かを取り出した。夏の強い日差しの逆光になってよく見えなかったが、あの忌まわしい髑髏のストラップはケータイ電話に違いない。オーマイシスター! またかよっ!
「SPS機能を使う!」
ケータイを振りかざし姉ちゃんは高らかに宣言した。俺は瞠目して姉をぽかんと見つめた。SPS? なにそのゲーム機みたいな名前。姉は得意満面な笑みを浮かべている。
「ソウル・ポジショニング・システム。GPSの魂検索版かな。声紋とかが人それぞれ異なるように、魂のかたちも決まっているんだって。その魂紋をたどるシステムが――」
「SPSってわけか」
「なの」俺の回答に姉は満足そうにうなずいた。「今時の死神さんはケータイについているこの機能を使って魂を狩っているんだよ。友達の死神の娘にも、昔と違って今は随分と楽になったって大好評。今地獄は閻ちゃんが旗頭になってIT革命真っ只中なの」
すっごい久々に聞いた。IT革命ってすっごい久々に聞いた。現世がそうであるように、地獄もまた、日々様変わりしているようだ。
「検索ボックスに“さんのうけいご”と入力して、自動追尾に設定。あとは実行ボタンをぽちっと押せばおっけー。ばびゅーんとひとっとびだよ」
いうが早いが彼女はボタンを押した。
「ちょっ、待っ――」
俺は慌てて姉ちゃんの手を握った。ばびゅーんと姉ちゃんだけがすっ飛んでいったらどうしようもない。
しかし、
「……ん、何も起こらないぞ」
「んみー……あ!」姉は素っ頓狂な声をあげた。「けいちゃんの魂がここにいるんだから、何も起こらなくて当然だよね」
そして、片手で頭をぽかっと小突くまねをした。俺は溜息を吐いた。こめかみを押さえる。頭が痛い。
「どうするんだよ!」
「あるべき魂はあるべき身体に還る。閻ちゃんがそう言っていたからたぶん大丈夫」
「いや、たぶんって……」
「次は肉体の方を検索対象に設定してっと。今度こそ問題なし!」
どちらにしろ選択肢も時間も残されていない。
再び姉ちゃんがケータイのボタンに指をそえた。
「それ、ぽちっとな」
「だからまだ心の準備が――うはぁあああああっ!」
強力な磁石のように強烈で抗うことができない力で身体が引っ張られる。流れる景色が残像となってぐんぐん過ぎ去っていく。喋ると舌を噛み千切ってしまいそうだ。
やがて速度にも慣れて、懐かしの風景が視界に入るにつれ、身体に近づいている感覚があった。あるべき魂はあるべき身体に還るの意味が実感としてよくわかった。




