純白の空
「やっぱりまだ続きがあるのかよっ!」
「来る!」
大きくなる音にかき消されないように大声で俺は聞き返す。
「何が来るって!?」
「霊圧の波が現世側に向かって噴出そうとしてる!」
姉ちゃんが言い終わるのと同時に、台風に似た霊気の強風に押し流されるようにして宙を舞った。現世側の井戸の底を直角に曲がり上昇。遠くに見える小さな光点がぐんぐんと近づいてくる。井戸の屋根の輪郭がはっきりしてきた。
「姉ちゃん! このままだと屋根にぶつかるっ!」
「大丈夫。このまま突っ切っちゃう!」
「突っ切るって……ええっ!?」
いよいよ目前に屋根が迫る。この勢いでは回避しようがない。ええいままよっ! 俺はぎゅっと固く目を瞑り流れに身を任せた。
目を閉じて数秒後、風を切る音が止んだ。
おっかなびっくり目を眇めて開く。視界に飛び込んで来たのは果てしなく広がる蒼。舞い落ちる花びらのようにして、俺たち二人は手を繋ぎゆっくりと回転落下していた。陽の光を全身に浴びた姉ちゃんは生き生きとして見えた。
「んみーっ! お日様の光、あったかくて気持ちいい! ひゃっほう!」
繋いだ手を離し、両手を広げて大空を縦横無尽に駆け回る。
姉ちゃんテンション高すぎ!
「そりゃあもう十年ぶりの現世だもん。音羽だって興奮しちゃうよ!」
俺は、はっとなった。
ほんの少し現世を離れていた俺でさえ陽の光が懐かしく思えるのだ。十年もの長きにわたって地の底で河守をしていた姉ちゃんにとって、地上の光がどれほど恋しいものだったかを想像してみた。
今は姉ちゃんの好きなようにさせておこう。陽の元ではしゃぐ姉ちゃんの表情は眩しいほどに輝いていた。
「あっ、ぱんつ見えた」
純白が眩しいぜ。ああっ、死んでいてよかった。
「けいちゃん、何かいった?」
「むはっ! 何も言ってない」
「音羽の下着みたでしょ?」
「きこえているじゃねぇかよぉ!」
「やっぱりそうだったんだー。けいちゃんのすけべー」
単純な誘導尋問にひっかかってしまったことに気づく。姉は太陽を背にしてけらけらと笑った。かなわいな、うちの姉さまには。




