わしを呼ぶときは
「あの閻魔大王様? ひとつ質問をしてもいい――よろしいでしょうか?」
閻魔大王は俺の問いには答えず、
「閻ちゃんと呼ぶがよい」
「……はい?」
「閻魔大王様ではなく、閻ちゃんと呼べと言っている。最初にお前はわしをそう呼んだではないか」
「け、けど閻魔様――じゃなくて、閻……ちゃん? いきなり友達みたいにいうのはどうかと――」
「私が許すと言っておるのだ!」
俺には彼女が怒っている理由がさっぱりわからなかった。どうやら真剣に怒っていることだけはケータイ越しでも伝わってきた。まるで幼いこどもが癇癪を起こしたかのようだ。今まで畏まっていたのが自分でもばからしくなってきた。
「じゃあ閻ちゃん。話を元に戻すけどさ、俺の名前が薄くなっていることがどう問題なんだよ」
「ふむ。実はのう、お主は今回死ぬ予定ではなかったのじゃ」
「……え?」
俺はまぬけな声をあげた。
「もう一度台帳を見るがよい」
閻ちゃんにうながされるままに台帳に視線をはしらせる。
「ん? 心なしか名前の色がだんだん濃くなっている気がする……」
「……あっ!」
姉ちゃんがぽんと片手で掌を打ち、今思い出したというような声をあげた。というか姉ちゃん、リアクションがいちいち古いなっ。
「そういえば音羽がこの仕事に就くときに説明された気がするかもー。台帳に記載された名前が薄いときは、現世に魂の一部が彷徨っている状態だって」
今まで一度もなかったから忘れてたよー、と付け加えた。
「つまりどういうこと?」
「他と人と同じ濃さになると完全に死人として認定されちゃうの。だからこのままだとけいちゃん間もなく死んじゃうね」
「へーそうなんだ。そいつは大変だな」
姉弟は目を合わせてにこやかに笑った。
「……ってなんですとォ!?」




