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裁き

 ばれてしまっては仕方がない。俺は腹をくくると姉ちゃんに電話を貸すようにいった。ケータイを受け取り、一呼吸入れてから電話にでた。

「どうも、山王警吾っす。姉がいつもお世話になっています」

「河守の身内にしてはなかなかまともではないか」

でしょでしょ~と隣で姉が嬉しそうにはしゃぐ。姉ちゃん、そんなにぐいぐい腕をつかまないで。やわらかいものが当たって会話に集中できなくなる。

「それで、あの……これから俺どうなるん……ですか?」

 平静を装ったつもりだったが、声がふるえて途切れるのを抑えることはできなかった。語尾が弱々しくなってしまう自分が情けない。核心を避け、遠まわしに訊く。

「閻ちゃん――閻魔大王様の前に引っ立てられて、裁きを受けたりするの……でしょうか?」

「安心しろ、お前は問答無用で地獄行きだ」

 唐突かつ非情な宣告に俺は声を失った。ケータイを握りしめたまま動けなくなった。故障しかけた機械仕掛けの人形のようにぎぎぎっと首だけを回して隣の姉の顔を見た。

 俺、地獄行きだってよ姉ちゃん。どうする?

 姉の顔に悲壮の色はなかった。俺の予想に反して彼女はにこやかな笑みをたたえていた。

「閻ちゃん、脅かしすぎはめっ! けいちゃんたらびっくりしちゃって死後硬直がはじまっちゃってるよー」

「むっ、そうか。まっ地獄流の冗談というやつだ」

 地獄の王は、はっはっはとわざとらしい笑い声をあげた。

「許すがよい」

 俺は体から魂がぬけるのを感じた。地獄行きが冗談……だと? 安堵した途端、別の感情がふつふつとわいた。怒りで戦慄く。

「閻魔のあんたがそれをいったら洒落にならないだろうがっ! この鬼! 悪魔!」

「人間風情がいうに事欠いて、閻魔大王であるこのわしを悪魔よばわりするとはおもしろい。本当に地獄に落ちてみるかの?」

 声は魔法少女のようにかわいらしいのに、言葉に宿る迫力は本物だった。

「すみません。本当っすみません! 調子に乗ってました。ごめんなさい」

 俺はすぐさま詫びをいれた。

「ふんっ。まぁよかろう」

 閻ちゃんは尊大に鼻を鳴らした。

「私も鬼ではないからな」

「閻ちゃんは鬼の王さまでしょ」

「! ……くっ……くふふっ」

 姉ちゃんの珍しく的確なツッコミに閻ちゃんが笑いを噛み殺しているのがわかった。どうやら笑いのツボが刺激されたとみえる。素直に笑い声をださないのは、大王としての威厳が邪魔をしているのかもしれない。現代の閻魔大王はちょっぴりめんどくさい。

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