任侠シブサワ
「シブサワさん」
「おぅ、久しぶりじゃねえか。お前、仕事干されてんだってな」
「ミスったんでしゃあないっすよ」
「立場上、俺もそっちの仕事は回せねぇぞ」
「期待してませんよ」
「仕事じゃねぇんなら何の用だ」
「この界隈の女が何人か消されたって話、本当っすか」
「素人まで殺っちまってらあ。ウチで狩りたいところなんだが、もうサツが動いてんだよ」
「……そうっすか」
「てめえ、何か知ってんな。まさか知り合いじゃねえだろうな」
「いや、知り合いってワケじゃあないすけど、ちょっと気になることがあるんすよ」
「てめえのことだから女絡みだろ」
「まあ確かに違うとは言えないんすけどね」
「勿体ぶんな、話せ」
「いや、最初の女が殺された前日、男が刺されて病院に担ぎ込まれたはずなんすけど、何処の病院かシブサワさん分かりますよね」
「ああ、分かるぞ。そいつがどうかしたのか」
「そいつ、刺される数日前に、知り合いの女の家の前に突っ立ってたんすよ。色々と気になって調べたら、どうもその女の客だったらしくて」
「その女、素人か」
「勘弁してやってください、ハラボテでもう足洗ったんで」
「で、それがどうかしたのか」
「その刺された男なんすけど、どうもこの界隈の売女にやめるよう説得してたみたいなんすよ」
「おいおい、さすがにそりゃ見逃すこたぁできねぇぞ」
「刺されたんすから見逃してやってくださいよ」
「阿呆、立派なショバ荒らしじゃねぇか」
「で、ここからが問題なんすけど、その男の嫁が行方不明らしいんすよ」
「おいおい、まさかそいつが殺ったとか言わねぇだろうな」
「その嫁、旦那が女を買って遊んでたのを知って実家に戻ってたみたいなんすけど、その実家の両親が殺されてるんすよ」
「しかも行方不明か、そりゃ怪しいなんてモンじゃねぇな。で、その恨みを売女に叩きつけてるってワケか」
「まあ、その辺は推測っすけどね」
「それだけじゃねえだろ。そのハラボテ女が狙われるかも知れん。そう考えたからワシんとこに来たんだろうが」
「ええ」
「何だ、えらい素直じゃねぇか」
「そういうの、シブサワさんに隠しても無駄っすから」
「ワシらもケリぁつけにゃならんが、今のご時勢サツとも上手くやらにゃならん。その辺、分かってんだろうな」
「このままそいつがサツに捕まりでもしたら、やっと真っ当な仕事を見つけたハラボテ女が失業しちまうんで」
「真っ当に生きようとしてんのか、そのハラボテ女」
「出産費用とか貯める為に、新聞屋の集金の仕事しながら、空いてる時間に弁当屋で働いてますよ。化粧っけのカケラもない地味な女なんすけどね」
「下手な嘘を吐くな、惚れてんだろ」
「ハラボテ女ぁ口説くほど女に困ってもいないんで」
「ハラボテだろうが女は女だろうが」
「俺が女を幸せにできる性質じゃねぇのはシブサワさんも知ってるはずっすよ」
「まだ気にしてんのか、あの女のこと。あれは事故みたいなモンだ、てめえにゃどうしようもねぇよ」
「なら、裏切った弟分に刻まれた、シブサワさん額のその切創も、事故っすか」
「ああ、事故だ。こんなモン、その程度でしかねぇよ」
「俺は死んだあいつをその程度の一言で済ませたくないんすよ」
「もう、五年か」
「まだ、五年ですよ」
「てめえがその口説く価値のないハラボテ地味女ぁ大切にしてんのは分かった。手伝ってやる」
「助かります」
「だが、あの女のこたぁもう忘れろ。それが手伝う条件だ」
「シブサワさん」
「これが終わったら知り合いの土建屋紹介してやるからそこで真っ当に働け、いいな」
「まいったな、全く」