魔法が効かないなら、科学で爆破するだけ
ズググ、グググ……!
バラバラになった岩が『核』に吸い寄せられ、ゴーレムが再び起き上がろうとする。その悍ましい光景に、わたしの心臓は破裂しそうなほど脈打っていた。
「怯むな! 再生を完了させる前に叩き潰せ!!」
討伐隊の指揮官らしき声が、戦場に響き渡る。直後、地を這うような重々しい足音が迫ってきた。
「破城槌隊、突撃ーーーっ!!」
その怒号とともに、頑丈な丸太を幾重にも組み上げた巨大な兵器――『破城槌』を担いだ屈強な男たちが、一斉にゴーレムへと肉薄した。
男たちが息を合わせ、丸太の先端をまだ再生途中のゴーレムの胸へと激しく叩きつける。
ドォォォォォン!!!
凄まじい衝撃音が荒野を震わせた。強烈な物理攻撃をモロに喰らい、組み上がりつつあったゴーレムの身体から、数塊の岩が再び弾け飛ぶ。
「今だ! 続け、波状攻撃を仕掛けろ!!」
間髪入れずに、次の指示が飛ぶ。今度はマントを翻した一団が前に躍り出ると、それぞれの手のひらをゴーレムへと掲げた。
「『ファイアボール』!!」
複数の咆哮が重なり、何もない空間に無数の火の球が出現する。それらは赤い尾を引きながら、弾丸のような速度で空を切り裂き、ゴーレムの巨軀へと次々に着弾した。
ドガガガガガン!!!
連続する爆音と、夜空を焦がすような真っ赤な炎。破城槌による強力な一撃と、容赦のない炎の波状攻撃。その凄まじい波状攻撃に、さしもの岩の怪物も耐えきれなかった。
ズゥゥゥン……!
激しい爆音とともに真っ赤な炎が巻き起こり、ゴーレムの巨躯を包み込む。石が激しく砕け散る音が荒野に響き渡った。
「やったか……!?」
討伐隊の誰かが、祈るような声を漏らした。全員が武器を構えたまま、じっと炎の行方を見つめている。荒野を支配したのは、張り詰めたような静寂。誰もが息を呑み、静まり返る討伐隊の視線が一点に集まっていた。
しかし、奇跡は起きなかった。
徐々に炎が小さくなるにつれて、信じられない光景が浮き彫りになる。激しく燃え盛る火炎の中でも、砕けたはずの石は、あの不気味に発光する『クリスタル』を中心に、磁石のように吸い寄せられ集まり続けていたのだ。
そして、完全に火が消えた瞬間――。そこには、傷一つなく完全復活を遂げたゴーレムがそびえ立っていた。
「グルァァァァァッ!!」
意思を持たぬ怪物が、大気を震わせる咆哮を上げる。ゴーレムは間髪入れずに巨大な岩の腕を振り下ろすと、目の前にあった丸太の破城槌を、まるで玩具のように真正面から殴りつけた。
バキィィィィン!!!
凄まじい破壊音とともに、何人もの大人がかりで担いでいた破城槌が、木端微塵に砕け散りながら遥か後方へと吹き飛ばされる。
「う、嘘だろ……」
「化け物め……!」
総力を挙げた猛攻すら通用しなかった絶望に、討伐隊の士気は一瞬で崩壊した。「逃げろ!」「距離を取れ!」と叫び声が飛び交い、彼らは蜘蛛の子を散らすように隊列を崩して、四方八方へと逃げ惑い始めた。
大混乱に陥る戦場の中、突如、わたしの腕を強い力で掴む者がいた。
「おい、ここにいたら踏み潰されるぞ! 逃げるぞ!」
鋭い声にハッとして横を見ると、そこにいたのは、いつの間にか傍に駆け寄ってきていた黒髪の少年――『煉』だった。彼はわたしの手を引き、一刻も早くこの場を離れようと身体を引っぱる。
けれど、わたしの足は動かなかった。恐怖で竦んでいるのではない。わたしは、目の前で破城槌を粉砕したゴーレムの巨躯を、じっと見つめたまま動けなくなっていた。
「おい、聞こえないのか!? 早く逃げるぞ!」
煉が焦ったように声を張り上げ、わたしの顔を覗き込んでくる。その必死の訴えをよそに、わたしは喉の奥から絞り出すような、小さな声を漏らした。
「……おかしい」
「あ? 何がだよ!」
煉が怪訝そうに聞き返す。大爆発の炎の中でも、バラバラに砕けた後でも、あの怪物は寸分の狂いもなく元の姿に『再生』した。そんな魔法みたいなこと、現実の物理法則では絶対にあり得ない。あり得ないけれど、現に目の前で起きている。
だとしたら、あの現象の裏には――。
わたしは激しく上下する胸を押さえながら、確信を込めて呟いた。
「おかしいわよ。あの再生の仕方……デタラメに元に戻ってるんじゃない。何か『法則』があるわ」
わたしの言葉に、煉は信じられないものを見るような目を向けた。周囲ではまだ、討伐隊の悲鳴と逃げ惑う足音が響き渡っている。
「法則だって!? 何を言ってるんだ、あれはただの不死身の化け物だろ!」
「違う、よく見て!」
わたしはゴーレムの足元から弾け飛び、再び中心へと吸い寄せられていく岩の破片を指差した。
「さっき炎でバラバラに砕けた時も、今もそう。右腕だった石は右腕に、胸だった石は胸に、寸分の狂いもなく『同じ場所』に石が戻ってる。まるであらかじめ、どのパーツがどこに配置されるべきか、最初から決まっているみたいに」
そこまで一気にまくしたて、わたしは怪物の胸の奥で不気味に発光する青い光を睨みつけた。
「あの『核』よ。あれを中心に石が戻ってる。――あの核が、すべての石に命令を出している
『司令塔』じゃない?」
「司令、とう……?」
煉が聞いたこともない単語に呆然と呟く。
現代の科学で考えれば簡単な理屈だ。どれだけ周囲の端末(石のパーツ)を破壊したところで、メインサーバー(核)が無事なら、データは何度でも復元されてしまう。
だったら、答えは一つしかない。「外側の石をいくら攻撃しても意味がないわ。あの核ごと、内部から一気に破壊出来れば――あのゴーレムは完全に止まるんじゃない!?」
わたしの言葉に、煉は息を呑んだ。だが、すぐに視線をゴーレムの分厚い岩の身体へと戻し、絶望を滲ませる。
「そうかもしれないが、あんな分厚い鎧の奥にある核まで、どうやって攻撃を通すんだよ!?」
「あいつの口に向かって、水を飲まして」
「はあ!?」
煉は怪訝そうに眉を跳ね上げた。
「今、さっきの奴の水の魔法が効かないのを見たばかりだろ! あんなの、ただの嫌がらせにもなりゃしない!」
「いいから、早くして!!」
わたしのただならぬ迫力に圧されたのか、煉は「くそっ、どうなっても知らねえからな!」と悪態をつきながら、再びゴーレムへと向き直った。
「――『ウォーターボール』!!」
煉が放った巨大な水の塊が、咆哮を上げようと大きく開かれたゴーレムの口を目がけて一直線に弾け飛ぶ。 ドバシャァン!と激しい音を立てて、大量の水が怪物の口内へと容赦なく注ぎ込まれた。
「ほら、見ろ! 効かない!」
煉が声を荒げる。確かにゴーレムは、顔に水を受けた衝撃で巨軀をわずかに揺らしただけで、ダメージを受けた様子は全くない。再び岩の腕を持ち上げ、こちらを踏み潰そうと迫ってくる。
だが、わたしの狙いはそこじゃない。 怪物の体内へ、しっかりと水が流れ込んだのをこの目で確認した。「焦らないで」 わたしは激しく火花を散らす戦場を睨みつけ、煉に向かって鋭く言い放った。
「次は、あの水に向かって――『雷』を当てて!」
わたしの無茶苦茶な要求に、煉は一瞬歯噛みした。だが、怪物の巨腕はもう目の前まで迫っている。
「くそっ、頼むから当たってくれよ!!」
煉が全力で腕を突き出す。
「――『サンダーボルト』!!」
バチバチと大気を激しく引き裂き、眩い紫電の束が放たれた。それは狂いなく、ゴーレムの口内へと吸い込まれた大量の水へと直撃する。
激しい閃光が怪物の顔を覆った。
煉は「どうだ!?」と目を見張るが、電気のショックを受けても、ゴーレムの動きは止まらない。
「だめだ、やっぱり効かねえ!」
「いいえ、これでいいのよ」
わたしは勝利を確信して不敵に微笑んだ。(ゴーレムの体内に流し込んだ水に、凄まじい高電圧の雷を浴びせた。……これで、あいつの内部は一瞬で『電気分解』されたはず!)
怪物の体内を満たしているのは、ただの水ではない。 世界で最も激しく燃え上がる気体――『水素』と『酸素』の混合ガス。
今のあいつの身体は、内側から破裂を待つだけの、超高濃度のガス爆弾へと変貌しているのだ。 あとは、ほんの小さな「火種」さえあればいい。
見上げれば、さっきの波状攻撃でゴーレムの肩口にくすぶっていた、討伐隊の『ファイアボール』の残火がパチリと爆ぜた。
その小さな火種が、怪物の口内へと吸い込まれていく。(導火線に、火がついた――!)
「煉、耳を塞いで伏せて!!」 わたしが叫ぶのと、怪物の体内で大引火が起きたのは、完全に同時だった。
ドォォォォォォォォン!!!!!
これまでの魔法の比ではない、世界を白く染めるほどの規格外の大爆発が巻き起こった。 強固な岩の鎧が、内側からの凄まじい圧力に耐えきれず、粉々に吹き飛んでいく。爆風の真っ芯で、あの青く光る『クリスタル』が、内側からの熱量によって粉々に粉砕されるのが見えた。




