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星降る夜に抱きしめて  作者: ひだまりのねこ


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第九話 初恋ブレイカー


『ちょっと流星、どうなってるの!! 表札無くなってるけど』

『引越した』

『はあっ!? なにそれ』

『色々あってさ、説明したいから会えないか?』

『……今から行く』



「ひより、今から来るってさ」

「ふーん、ずいぶん好かれてるみたいじゃない」

「まあ……家族みたいなものだからな」  


 夜空に言われて渋々ひよりに連絡した流星だったが、先程からずっと感じている『嫉妬』と『怒り』が入り混じった感情に戦々恐々としていた。 


「なんだか不機嫌だな?」

「当たり前でしょ? 流星の初恋が私じゃなかったっていうだけで腹立たしいのに、今からその女と会わなきゃならないんだから」


 だったら会わなければいいんじゃ? とは口が裂けても言えない。夜空は自分のためにやってくれているのだから。それに――――夜空が嫉妬してくれているという事実が流星にはたまらなく嬉しい。


「……なにニヤニヤしてるのよ」

「ふふ、何でもないってば――――いててて」


 夜空がにやけるほっぺをつねりあげると、流星は悲鳴を上げるのだった。



「じゃ、じゃあ、俺、駅まで迎えに行ってくるから」

「私も行く」

「え!? なんでわざわざ……?」

「初恋の相手と二人っきりにしたら何が起こるかわからないでしょ!!」

「……何も起こらないと思うけど」

「世の中に絶対はないのよ」



「おーい流星!!」

「ひより、悪かったな、こんなところまで」

「別に良いって、それより――――そちらのめちゃめちゃ美少女はどちら様!?」


 予想外の出迎えに目を丸くするひよりであった。



「紹介するよ、彼女は星野夜空、俺のいも――――」

「彼女です」

「えええっ!? りゅ、流星の彼女!? っていつの間に?」

「……説明すると長くなるから、家でするよ」



「な、なるほど……おじさんの再婚相手があの星野スバルで、夜空さんはその娘ってわけだね」


 一通り事情を説明すると、驚きながらも理解してくれたひより。


「え、じゃあ私も星野スバルに会えるってことだよね? めっちゃファンなんだよ」


 どこに居るのとキョロキョロ周囲を見渡すひよりだったが――――


「スバルさんなら海外、来年まで戻ってこないってさ」

「えええっ!? うわあ……残念過ぎる……って、ちょっと待って……じゃあもしかして――――流星と夜空さん二人きりなの!?」


 ひよりはあわあわと二人を交互に見比べる。


「そうよ、流星ってば毎晩すごいんだから」

「す、すごいって……一体!?」


「そ、そろそろデザート焼きあがるから、ひよりはゆっくりしてて」


 いたたまれなくなって席を立つ流星。


 二人きりになるや、夜空はひよりに手を差し伸べる。


「ひよりさん、流星がデザート用意している間、家の中を案内したいから一緒に行きましょう」

「は、はい、ぜひ」


 今日の夜空は全力モデルモードになっている。普段はあえて乱している髪や服も完璧に仕上げており、恐ろしいほど美しい。まるで見せつけるかのように。


「すっごい豪邸ですよね」

「ええ、ちょっと広すぎるけれど流星がいるから寂しくないのよ」

「そ、そうなんだ……仲良いんですね」

「ふふ、それはもう、兄妹である前に恋人同士なので」


 妖艶な笑みを浮かべる夜空に、いけない想像をして顔を赤くするひより。


「あら? もしかして想像しちゃいました? あ、ここが毎晩一緒に入っているお風呂です」

「ひええっ!? ま、毎晩一緒に……!?」


 あまり免疫のないひよりには、浴槽がいかがわしい場所に見えてしまう。


「そして――――ここが私の部屋です。まだ引越したばかりで散らかってますけどね」

「わあ!! 高そうなインテリア……壁紙もカーテンも可愛い!!」


 すっかりテンションが上がるひより。


「このベッドは特注品なんですよ、良かったら座ってみます?」

「良いんですか! わあ……ふわふわですごく気持ちいい――――って夜空さん!?」


 突然ベッドに押し倒されて慌てるひより。


(……このかわいらしい髪で流星を虜にしたのね)

「あ、あの……?」


 ショートボブの黒髪を触られて真っ赤になるひより。


(……この小ぶりだけど艶のある唇が流星を惑わせる)

「ひやっ!?」


 すーっと唇をなぞられて、ひよりは完全にテンパる。顔が近い、今にもキスされそうな雰囲気、抵抗しようにも夜空の迫力に身動きが取れない。


「ひよりさん」

「ひゃ、ひゃい!?」


「私、アナタに感謝しているんですよ」

「……へ!?」


(アナタが流星を好きにならずにいてくれて)


「だから――――友だちになってください。流星の家族なら私にとっても家族みたいなものですから」

「も、もちろん、私も流星の彼女なら仲良くしたいです。でも――――良かった」

「……え?」


「ずっと心配していたんですよ……流星って昔から人付き合い苦手だし、いつも距離を取ってる感じがして。泣きそうな顔してるって思うときあるんですよね、だけど――――悔しいけど私じゃ力になれなかったみたいで……。今日の流星、とっても良い顔してた。あんな表情本当に久しぶりで……だから――――私も感謝してます。どうか流星をよろしくお願いします」


(なぜ流星が好きになったのか……少しわかったような気がする)


「……はい、流星は私が守ります。この命に代えても」

「え!? あ、いや……そこまでしなくても……?」

「ふふ、冗談です」


 いや……絶対本気だよね!? 目、笑ってないし。この子絶対に敵に回したら駄目だ――――ひよりは本能的に理解した。

 

「おーい、デザート出来たぞ……ってごめん、もしかしてお邪魔だった?」


 ベッドでひよりに覆いかぶさっている夜空を見て、そっとドアを閉める流星。


「ち、違うから!! 誤解だから!!」


 すごい勢いで流星を追いかける夜空を見て――――


「えっと……とりあえずめちゃめちゃ流星のことが好きってことだけはわかったわ……」


 ベッドに取り残されるひよりであった。




「美味あああ!! 流星のアップルパイやっぱり最高!!」

「久しぶりに作ったんだけど、喜んでもらえて良かったよ」


「くっ、私だってナポリタンとオムライス作ってもらったんだから」

「ああ!! 流星のオムライスとナポリタン神だよね!!」


 キッと流星を睨みつける負けず嫌いな夜空。


「あ、あはは……今度新作作ってやるから機嫌直してくれ」


 ともあれすっかり仲良くなった夜空とひよりを見て、安堵する流星だったが――――


「ひよりさん、晩御飯も食べて泊まっていってください」

「え、でも――――着替えとか持ってきてないし」

「パジャマは私のがありますし、必要なものは買いに行きましょう。大丈夫、お金ならあります」

「た、頼もしい……なら泊まって行こうかな?」


 会ってすぐにお泊り会とは……さすがに想定していなかった。


「えっと……晩御飯は何食べたい?」

「「流星の作るものなら何でもいい」」


 声を合わせる夜空とひより。


「お前らなあ……それが一番困るって何度言えば……」


 そう言いかけて、ふと気づいた。いつの間にかひよりに対する苦しさが無くなっていることに。そうか……きっと夜空のおかげだな。流星が視線を送ると、夜空は満面の笑みで応える。


「そうだな……気分が良いから今夜は俺がスペシャルフルコースご馳走してやる」

「なにそれ!! めっちゃ楽しみ!!」

「流星予算の心配はしないで良いからね!!」


 三人は仲良く買い物に出かけるのであった。




「じゃあ私たちは一緒にお風呂入ってくるから」

「夜空さんはともかく私も居るんだから覗くなよ流星?」

「誰が覗くか!!」


 勢いでフルコース作ると言った自分が悪いのだが、少しくらい手伝ってくれても罰は当たらないんじゃと思う流星。まあ……料理偏差値最底辺の二人に手伝ってもらったら、かえって手間が増えそうなのでひたすら手を動かし続ける。


 だが――――


 風呂場から届く感情に意識が乱される。


(ったく、風呂場で一体何やってんだ……あの二人)   


 考えてみれば――――初恋の相手と今の彼女が一緒に自分の家で風呂に入っているというのは普通ではない状況だ。


「集中、集中!!」


 頬を叩いて料理に集中する流星であった。 

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