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第五話 顔合わせ


「ありがとう流星、ホテルまで運んでくれて本当に助かったわ」

「俺の泊ってるホテルもこの近くだからついでだよ」


 始発を乗り継いで帰ってきた二人は、夜空の宿泊しているホテルのロビーでそれでもしばらく立ち話を続けていた。疲れもあったが、それでも離れがたい気持ちがお互いにあったのだ。


「じゃあまたな、次はペルセウス座流星群だから……二週間後に」

「ええ、楽しみにしているわ。近くなったら連絡取り合いましょう」


 流星も夜空も――――言葉に出来ない想いを抱えていた。たった二週間後にまた会えるのに――――なんでこんなに寂しいと思うのか。


 流星はエレベーターに消えてゆく夜空の姿を見送って小さく息を吐く。


 生まれつき感情が読める彼にとって外見や容姿といったものはほとんど意味をなさなかった。だからあまり意識することはなかったのだが――――帰りのバス、電車、移動する中で流星は嫌というほど夜空という少女の特異性を思い知らされた。


 彼女に向けられる無数の感情、それは決して好意的なものばかりではなく、嫉妬や言葉にしたくないようなものまで含まれていて――――そういうものに慣れている流星ですら相当にきつかった。


 流星は直接感情に触れることが出来るが、夜空はあれほどの強い感情を常に集め続け一身に受け止めている。わからないということは幸せである半面、とても恐ろしいことだ。誰も彼もが彼女の外見ばかりを見ている。本当の私を見て欲しいと願った夜空の言葉の意味がようやく流星にもわかった。


 あの孤独な少女を守りたい、流星は心からそう思うのであった。



「ふう……よし、帰るか」


 すっかり忘れていたけれど、今夜は新しい家族との大事な顔合わせだ、気持ちを切り替えなければならない。お互いにどう思っていようとも、これから一緒に暮らすことになるのだから――――せめて第一印象は良いものにしなければ。


 流星はずいぶん軽くなった荷物を背負い直してホテルを後にするのだった。




「お帰り流星、その表情を見る限り楽しめたみたいだな」


 さすが父親の目は鋭い。とはいえ一晩中女の子を抱きしめていたなんて言えるわけもなく。


「うん、悪いけど今夜に備えて少し寝るよ」

「ああ、俺は仕事があるからゆっくり寝てていいぞ」


 流星は軽くシャワーを浴びた後、ベッドに倒れ込む。



 ――――目が覚めたのは、父親が部屋に帰ってきた夕方。 


「流星、まだ時間あるから今のうちに風呂入ってこい。すごい寝ぐせだぞ」

「ふわあ……わかった」



「ところで……どこで会うんだっけ?」

「マゼランっていうレストランだ、ホテルオリオンべールの最上階にあるから景色も最高だぞ」

「ホテルオリオンべール!?」

「ん? 何か問題でもあるのか?」

「あ、いや、何でもない……」


 まさか今朝夜空を送り届けたホテルにまた行くことになるとは……運良く会えるなんて偶然あるわけないとは思いつつ、どこか期待してしまう自分がいる。まあ……仮に会えたとしてもお互い気まずいだけだろうし、話に行けるような雰囲気ではないだろうけれど。


「そういえば……再婚相手ってどんな人なの?」


 思えば相手のことを何も知らないというのはさすがにマズい。教えてくれなかった父さんが悪いと言えばそれまでだが、聞こうとしなかったのは流星にも責任がある。相手からすれば自分に興味を持ってくれていなかったのだと失望させてしまうかもしれない。


「父さんと母さんとは学生時代からの友人でね、母さんとは親友と言ってもいいほど仲が良かったんだ。とても綺麗な人だからお前もきっとびっくりするぞ」


 そんな話一度も聞いたことがなかった。でも――――母さんの親友なら良かった。もしかしたら自分が知らない母の話を聞けるかもしれないし、少なくとも悪い人だとは思えない。すべての事情を知った上で、それでも――――父さんと再婚すると決めたのであれば、流星に言うべきことなど一つもない。

  

「あ、言い忘れてたけど、彼女にもお前と同じくらいの娘がいるんだ。仲良くしてやってほしい」

「はあっ!? そういう大事なことは先に言ってくれよ、こっちだって心の準備とか色々あるんだからさ」

「悪いな、お互いに先入観を持たないように彼女と話し合って決めたことなんだ」


 たしかに先に聞いていたらああでもないこうでもないと悶々と悩んでいたような気がする。


 それにしても――――と流星は頭を抱える。新しい母親だけでも大問題なのに、同じくらいの年頃の女の子と一緒に暮らすことになるなんて想像も出来ない。


 嫌われないようにしなければと思いつつ、流星は夜空になんて説明しようか考えてしまっている。だって、もし逆の立場で、夜空が同じ歳の男子と一緒に暮らしているなんて聞いたら――――いくら家族だと言われてもなんとなく嫌だから。



「初めまして流星くん、今日からアナタの母になる星野スバルよ」


 色々考えていたことも、準備していたことも全部吹っ飛んでしまった。


 目の前に居るのはテレビで見ない日はないくらいの世界的人気女優星野スバルその人だった。高校生の娘がいるとはとても思えない若々しさ、この人が高校生の娘です、と言われても通用するほどに。


「あら? 流星くんたら驚いて声も出ないのかしら、って、夜空もなに呆けてるの? ちゃんと挨拶しなさい」

「え? あ、ああ……その……星野夜空です。知ってると思うけど」

「あ、ああ……よろしく白銀流星です、知ってると思うけど」


 大女優が新しい母親になる――――そんな驚きさえ吹き飛ばしたメガトン級の衝撃。


 流星と夜空はお互い苦笑いするしかなかった。


「なんだ流星、夜空ちゃんと知り合いだったのか?」

「あら、知り合いだったなんて世間は狭いのね」


 何はともあれ、心配していた顔合わせは無事終了した。


「思ったより早く再会出来たわね……」

「寂しさを感じる暇も無かったな」


 思わず漏れた流星の言葉に夜空は赤面する。


「わ、私だって……寂しかった、わよ」


「あらあら、ずいぶん仲が良いのね? お邪魔だったかしら」

「お、お母さま、揶揄わないでください」

「ふふ、貴女のそんな顔、初めて見たかも。まあ良いわ、明日は皆で新居に行くから寝坊しないようにね?」

「わかってるわよ、子どもじゃないんだから」

「そう? じゃあまた明日朝食でね」

「え……? 何を言って……一緒の部屋じゃ――――」

「ああ、今夜は銀河と寝るから貴方たちは二人で寝なさい。ふふ、二人が知り合いで良かったわ」


 妖艶な笑みを浮かべながら部屋の鍵を夜空と流星に握らせるスバル。


「はあ!? 何考えてるのよ」

「あら、一晩過ごした仲なんでしょう? だったら何の問題も無いと思うのだけれど。それに、どうせ明日からは一緒に暮らすのよ? 予行練習だと思えば良いじゃない」


「まあ……そういうわけだから、悪いな流星」


 ある意味で新婚な二人の気持ちを考えれば、夜空も流星も邪魔することは出来なかった。とはいえ、まさか二日連続で共に夜を過ごすことになるとは――――


「とりあえず部屋行こうか?」

「ええ、そうね」


 二人は顔を見合わせて大きくため息をつくのであった。

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