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第十二話 親友


「流星!!」

「おお陽翔、楽しんでるか?」

「おかげさまでね、でもせっかくなら流星ともゆっくり話したかったんだよね」


 順番にやってくる仲間たち、夜空が頑張ってくれているんだなと流星は感謝する。


「新しい家族と生活はどう?」

「見ての通り最高だよ」

「ハハッ、だろうね」


 陽翔が笑う。プール付きの豪邸に恋人である妹、有能?なメイド、実際、出来過ぎなくらいの環境だ。文句を言ったらそれこそ罰が当たる。


「それに――――陽翔たちみたいな仲間もいる、これ以上望めないさ」

「それな!! 俺たちもこれからは快適な居場所が出来て嬉しいよ」

「……待て、まさか家に入り浸るつもりか?」

「うん、勉強会もここでしていいって夜空さんが」


 まあ……夜空が良いなら流星に言うことはない。部屋はたくさんあるから泊まることも出来るし、みんなのために料理を作るのは嫌じゃない、むしろ好きだ。うん、悪くないかもしれないなと流星は思う。



「なあ陽翔」

「なんだい流星」


「もう俺に気を遣う必要はないから」

「……気付いてたんだ」


 陽翔がずっとひよりとも澪奈とも付き合わずにお茶を濁していたのは――――親友である流星の気持ちを知っていた彼の優しさに他ならなかった。もっとも、彼のその行動によって周囲の人間はより苦しんでいたわけだが――――結果としてグループが崩壊せずに維持できていたこともまた事実。そして――――そのことに気付きながら流星は何も言えずにいた。


「俺はさ……ただ皆と楽しく過ごしたかっただけなんだ。でも――――さっき夜空さんに言われてやっと気付いた。俺の行動は――――結局皆を苦しめていただけなんだって……ごめん流星、俺はこれまでお前をずっと苦しめていたんだよね……本当にごめん」


 頭を下げる陽翔から『反省』と『後悔』の感情が流れこんでくる。


「陽翔、謝ることなんて何もないよ、お前は何も間違っていないし、たしかに苦しかったけど、いつだって俺はその真っすぐさに救われてきたんだから」

「流星……」


 正しいと思うことは人それぞれ違う、百人いれば百通りの正義がある。そして――――正解は一つとは限らない。陽翔は自分が良かれと思うことをしただけだ。実際、流星は陽翔から悪意を感じたことは一度もない。本当に真っすぐで馬鹿みたいに純粋な男なのだ。もちろんだからといって何をしても許されるわけではない、善意や好意が人を傷つけることだってある、時には悪意よりもより深く心を抉る。


 でも――――陽翔はこうして頭を下げている。間違ったと思えば躊躇なく謝罪をすることが出来る。


 勝てないな、と流星は思う。陽翔はいつだって流星のことを思って真っすぐに向き合ってくれていた。そのことから逃げて勝手に苦しんでいたのは弱い自分の心のせいだったのに。


 今ならわかる、ひよりが――――澪奈が彼を好きになった理由が。


 いや――――本当は気付いていたのに認められなかっただけなのだろう。嫉妬や劣等感に苛まれて外見だけに囚われてしまっていた。


「だから――――俺も謝るよ、ごめん陽翔、俺はお前が羨ましかった。俺が欲しいものをすべて持っているお前が――――ずっと妬ましかったんだ」


 流星が頭を下げると、陽翔は思い切り破顔する。


「うん、はっきり言ってくれて嬉しいよ流星、じゃあ、これでおあいこだね、なんだかスッキリしたなあ!!」


 ガッチリ握手する流星と陽翔。もし――――あの日、あの夜――――夜空と出会っていなければ――――きっとこんな風にはなっていなかっただろう。流星は星降る夜に感謝する。



「ところで陽翔、お前……どっちを選ぶつもりなんだ?」


 流星は『好き』の感情がわかる。それでも聞いたのは――――


「ん? 選ぶことなんて出来ないよ、俺二人のことが好きだし」


 陽翔が二人のことを同じくらい好きだったからだ。ついでに流星のことも同じくらい『好き』なのだが――――それは考えないことにしている。 


「……それ、修羅の道だぞ?」

「わかってる、でもさ、俺が苦しむことで両方選べるなら――――喜んで修羅になるさ」


 そういうところ――――陽翔らしいな、と流星は思う。


「ちなみに流星はどっちを推すの?」

「……両方だな」

「でしょ?」


 やっぱりコイツには勝てそうもない、流星は久しぶりに心から笑うのだった。




「今日はありがとな、夜空」

「ん、たいしたことはしていないわよ」


 皆が帰った後のプールサイドでまったり寛ぐ二人。


「それでも――――ありがとう。なんだか色んなことが全部すっきりして嘘みたいに楽になったんだ」

「それなら良かった……でもね、それは――――私のおかげじゃなくて、きっと流星自身の力だと思うわよ」


 夜空はリクライニングチェアから涼し気な流し目を送る。


「でも俺が変われたのは――――夜空、お前と出会うことが出来たからだ」

「りゅ、流星……」


 覆いかぶさってくる流星に夜空は顔を赤くするが、そのまま首に手を回して受け入れる。


「……違うわ流星、変わったんじゃない……アナタは……最初からずっと素敵だったのよ。ただ――――少し――――道を見失っていただけ。でも――――私が流星の道しるべになれたのなら――――それはとても嬉しいことね」

「……夜空」


 夜のとばりが降りてきて――――水面は月の光を優しく揺らす。


 満天の星空は――――いつだって二人を見守り――――包み込んでくれる。


 白いカンペは――――二人を怪しく見守っている。


「……まだ居たんですか白鳥さん」

「ふふ、ちょっと忘れ物をしまして」

「ハハハ、一緒に探しましょうか、忘れ物?」

「いえ、これを流星さまにお渡しするのを忘れただけです」


 そっと――――流星の手に避妊具を忍ばせる白鳥。


「使いませんからね!!」

「往生際が悪いですね……」

「そうですよ流星!!」

「夜空まで!?」


 流星の鉄の意志は――――孤立無援、外堀は埋められ、もはや風前の灯であった。



「あ……忘れてました。流星さま、陽介さまをお持ち帰りしてもよろしいですか?

「「えっ!?」」


 予想外の言葉に固まる流星と夜空。


「い、いや……本人が良いなら別に俺の許可なんて……って、良いんですか!? アレ、残念眼鏡くんですけど!?」


 良い奴には違いないが――――


「流星も容赦ないわね……同意しますけれど」


 なかなか夜空も酷い。


「ええ、私眼鏡フェチでして。それに――――色々実験にご協力いただけるというので都合が良――――いえ、非常に助かると言いますか……」


 大丈夫か陽介っ!?


 今更ながら友人が心配になる流星であった。

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