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第十一話 プールサイドパーティ


「夜空、ひよりから陽翔と澪奈を連れて来るってメッセージ来てるけど……約束したのか?」

「ええ、プールがあるって言ったら入りたいって言うから白鳥に頼んでプールサイドパーティの準備してもらってるの」

「うーん……大丈夫かなあ」


 何とも言えない表情を浮かべる流星。


「もしかして……まだ気にしてるのかしら? ひよりに見せてもらったけど、陽翔くん一ミリもタイプじゃないし、流星が望むなら二度と立ち直れないくらい精神的ダメージを与えてあげるけど?」

「いやいや、もうそんなこと気にしてないし、そんなことも望んでないから!!」


 慌てて否定する流星、彼が気にしていたのは白鳥さんが変なことをしないかということだったのだが、彼女に全幅の信頼を置いている夜空だ、そんなことを言っても気にし過ぎよ、と笑って流されるとわかっているので、流星は何事もありませんようにと、心の中でこっそり祈る。


「じゃあ陽介も誘わないと、な」

「陽介くんってあの気遣いの出来る友だちよね?」

「ああ、だから――――とちらかというと陽介の方が心配だったりする」

「……怒るわよ?」

「ごめん、ちょっと甘えたかっただけ」

「もう……仕方ないわね」


 四六時中イチャイチャしているので、もはや慣れたものである。ただし――――本人たちにはその自覚が一切ないのだからたまったものではない。


「でも陽介くんって、バイトが忙しいって言ってたわよね?」

「ああ、我に策アリ、だ。ヤツは必ず来るよ」


「な、なんだか悪い顔してるわね、それより、澪奈さんのことはどうなの?」

「どうって?」

「だって澪奈さんって、ちょっと私に似てるタイプでしょ? 気になるのよ……」


 たしかに同じ黒髪ロングでクール系美少女、流星としてもそこは否定は出来ない。


「大丈夫だよ夜空、たしかに中学の時惹かれたのは事実だけど……今、夜空が言うまで思い出すこともなかったんだ。お前に出会ってからずっと――――本当だよ」

「ふーん……口では何とも言えるわよね」

「はあ……どうしたら信じてくれるんだ?」


「……キスして」


 目を閉じる夜空。


 遮るものは何も無い――――


 何もないはずなのだが――――


『そのまま押し倒してください流星さま!!』 白いカンペが目に入る。


 流星は大きなため息をつくと――――夜空を抱き抱えて走り出す。



「ふう……ここまで来れば安心だ」


 後はキスするだけ、そう思っていたのだが――――


「……お姫様抱っこで自室のベッドまで連れて来るなんて……強引なんだから……」 


 期待に瞳を潤ませている夜空を見てしまえば――――キスだけで終われるはずもなく。


(くっ、完全に掌の上か……)


 まんまと白鳥さんの術中にはまる流星であった。




「おい真鍋、ラブラブオムライス注文三つ入ったぞ」

「はい!!」


 おかしい……憧れのメイド喫茶でバイト始めたのにメイドさんとの会話は禁止とか詐欺じゃねえか!! 休憩場所も別とか徹底してるし……俺の夏……終わった。


 陽介は早々に絶望していた。これじゃあ生殺しじゃないかと。


「ん? 流星から連絡とか珍しいな……プールサイドでプライベートパーティー? はあ……何が悲しくて陽翔のハーレム状態眺めなきゃいけないんだよ……悪いけど断ろう――――って、本物のメイドだとっ!? 流星、そこんとこ詳しく――――」 


 メイド好きの陽介、まんまと流星の策にはまって参加決定。




「流星、来たよ!!」

「お招きありがとうございます」

「夜空、久しぶりです!!」

「お邪魔します」


 プールサイドパーティー当日――――陽翔、澪奈、ひより、陽介の仲良しメンバーがやってきた。


「いらっしゃい、今日は楽しんでくれ」


 流星は彼らを笑顔で出迎える。夏休みに入ってからひより以外と会うのは初めてなので、結構楽しみにしていたのだが――――その姿にひより以外の三人は驚きを隠せずにいた。


「うわ……流星なんか雰囲気変わったね……?」

「ええ……別人かと疑うレベルね……」

「これが噂に聞く恋人効果ってやつか……」

「あはは……まあ……驚くよね」


 愕然とする友人たちに、以前はそこまで酷かったのかと苦笑いするしかない流星。


「ようこそ、久しぶりね、ひより。他の皆さまははじめまして、星野夜空です」

 

 夜空が現れた瞬間に空気が変わる。完全無欠のモデルモード、見せつけるように流星と腕を絡ませる。


「うわあ……こんな綺麗な人初めて見たよ」 

「ここまで来ると非現実的……」

「なんか心配してた俺が馬鹿みたいなんだが……」


 初対面の三人は早くも夜空に目が釘付けになっている。それはそうだろう、もしスバルがこの場に居たら、全盛期の自分を見ているようだと言ったに違いない。今日の彼女はひと際輝いていた、毎日会っているはずの流星が思わず見惚れてしまうほどに。


「とりあえず更衣室はこの部屋使って。プールの準備はしたけど、泳いでも泳がなくても各自自由にして大丈夫だから」 


 とはいうものの、せっかくの機会に全員泳ぐ気満々だ。ただし、流星はホストとして料理を作ったりサービスに徹するので泳がない。夜空も泳がないが、それは流星以外に水着姿は見せないという鉄壁のアピールである。すでに飽きるほどプールを楽しんだから、というのもあるのだけれど。


「皆さまドリンクを用意しましたのでお好きなものをどうぞ」


 白鳥さんがお洒落なフルーツが盛られたトロピカルドリンクを運んでくる。


「うおおおお、メイドさん来たー!!」


 待ってましたと大興奮の陽介。


「りゅ、流星、彼女付き合ってる人とかいるのかな?」

「白鳥さん? 居ないって言ってたけど……」

「一生の頼みだ、紹介してくれ」

「えっ!? ま、まあ……たしかに美人だし紹介するのは構わないけど……あの人相当な変態だぞ?」


 女性に向かって変態というのはどうかと思うが、白鳥さんに限っては、本人が自称しているのでセーフである。


「馬鹿野郎!! 変態のメイドさんとか――――俺にとってはご褒美でしかないんだよ!!」

「お、おう……そ、そうか……頑張れよ」


 そう簡単に行くとも思えないが、上手く行けば白鳥さんの蛮行を緩和できるかもしれない。まあ……駄目で元々、友の健闘を祈る流星であった。



 

「流星、大変ね、何か手伝いましょうか?」


 料理を作っている流星の所にやって来たのは澪奈、何気に二人きりの状況は珍しかったりする。


「澪奈、ありがとう。でも大丈夫、気にせず楽しんでくれ」

「そう……ならそうさせてもらうわね」

「そうだ、もうすぐ料理出来るから運んでもらっても良いか?」

「わかったわ」


 手慣れた様子で調理する流星の横顔をじっと見つめていた澪奈だったが、意を決したように口を開いた。


「ねえ流星」

「ん、なんだ?」


「……今だから言えるんだけど……流星が私のこと好きだって……知ってたのよ」

「っ!? そ、そうか……」


 突然の告白に、流星もさすがに動揺する。


「とても嬉しかったし、気持ちに応えられたら良かったのにって何度も考えた。ひよりのことを考えたら特にね。そうすれば全部丸く収まるかも、なんて傲慢で失礼なこと考えてたの……酷い女よね私。でも――――駄目だった。どうしても諦めることが出来なかったの」


「澪奈……それなら俺だって酷い男だよ」


 自分さえ我慢すれば上手く行く、そう考えていたのは他でもない流星自身なのだから。


「ふふ、流星ならそう言ってくれると思っていたわ。あなたは私とよく似ているもの。変な言い方になってしまうけれど、私が今でも諦めずに頑張れているのは……流星のおかげなのよ。こんな私でも好きになってくれる人がいる。それが私の心の支えだった。どこまでも優しくて――――いつだって変わらない眼差しで見ていてくれたから――――勝手なこと言ってるわね、ごめんなさい」

「そんなことない、俺はその言葉にすごく救われたよ……澪奈」


 流星の心に残っていた傷が澪奈の言葉によって癒えてゆく。自分の想いが無駄ではなかったと知ることが出来たから。


 相手の気持ちがわかるから――――相手の心がわかるわけではない。だからといって言葉にしなければ想いが届かないというわけでもない。ただ――――巡る星々のように変わらずそこにあるだけ。その輝きに触れた時――――人は幸せを感じ――――少しだけ優しくなれるのかもしれないと流星は思う。

 

「だからね――――流星が夜空さんと出会えたことが本当に嬉しいの。私が言うことじゃないけど――――絶対に放しちゃだめよ」

「ああ、わかってる。お前も頑張れよ、俺はいつだってお前の味方だから」

「あら、流星はひよりの味方だと思っていたけど?」

「俺は二人の味方だよ」

「ふふ、そういうことにしておくわ、料理持って行くわね」


 去ってゆく澪奈の足取りも――――そして流星の心も、少しだけ軽くなった夏の日の午後であった。

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