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第十話 メイドの白鳥さん


「よろしければお手伝いします」

「あ、えっと……どちら様でしょうか?」

「ああ、申し遅れました。私、メイドの白鳥と申します」

「ああ!! 聞いてます、貴女が白鳥さんですか、ぜひお願いします」


 猫の手も借りたいと思っていた流星の前に突然現れたメイド姿の女性。あまりに自然に入って来たので、声を掛けられた瞬間、ビクッっと鍋をひっくり返しそうになる。


「かしこまりました。お任せください」


 一瞬で状況を把握したのだろう、指示を待つことなく的確にサポートを開始する白鳥さん。


(この人……出来る!!)


(いえいえ、アナタこそやりますね!!) 


 無言で視線を交わす二人の間には、互いにリスペクトが芽生え始めていた。



「ご主人さま、私の勘違いでなければ四人分のようですが?」

「俺と夜空の友だちが泊まりに来ているんです。だから白鳥さんの分を追加して四人前で間違いありません」

「わ、私の分まで……?」

「もちろんです、だって家族ですから」

「あ、ありがとうございます、ご主人さま」

「あはは……流星で良いですよ」


 白鳥さんのサポートもあって、フルコースは無事完成した。予定よりもかなり早く。


「それにしても驚きました、まさかこんなにお若い方だったなんて」


 ずっと前からメイドをしていると聞いていたので、中年から老年の女性を想像していたのだが、目の前にいる白鳥さんは、どう見ても二十代前半――――いや、十代後半くらいにしか見えない。まあ……スバルの例もあるので、実際は三十代なのかもしれないけれど。


「女性に年齢の話はタブーですよ流星さま」

「あ……ごめんなさい」

「いえ、お気になさらず」


 料理を作っている時はわりと感情豊かな感じだったのに、普段は無表情というか何を考えているのかわかりにくい。


「あ、そうだ、色々聞きたいことがあったんですよ」


 両親が白鳥さんに全部丸投げして行ってしまったので、わからないことだらけなのだ。


「ああ、避妊の方法ですね」

「えっ!?」

「ご安心ください、実践経験はありませんが知識だけは豊富です。ご希望でしたら練習相手を務めさせていただきますが?」

「あ……間に合っているので大丈夫です」

「では私のスリーサイズですね?」

「……年齢は駄目でスリーサイズは良いんですか!?」

「着痩せするってよく言われます」

「そこまで言われるとちょっと気にはなりますが大丈夫です」

「興味はあるんですね!!」

「あ、いや……無いです。興味ないって言うと失礼かなって思っただけです」

「そうですか……」


 めちゃめちゃ『残念』の感情が流れこんでくるんだけど……大丈夫かなこの人? ちょっと心配になってくる流星。


「あ、それより白鳥さんにお願いが――――」


 そろそろ二人が風呂から上がってくる頃合いだ、テーブルセッティングと配膳を手伝ってもらわなければならない。


「わかっております、メイド服ですね? 予備がありますので、早速今夜からお嬢様に着てもらいましょう――――」

「……違います、テーブルセッティングと配膳をお願いします」


 夜空のメイド服姿はめちゃめちゃ見てみたいけれど――――今はそうじゃない。


「……そうですか」


 なんでこの人こんなに『残念』がってるんだよ!? なんか俺が悪いみたいな気持ちになってくるじゃないか、と流星は頭を抱えるのだった。



「ああ!! 白鳥さん!! 来てたんですね」

「はい、お嬢さまお久しぶりです。見ない間にずいぶんと成長されたようで……」


 夜空の胸をガン見している白鳥さんにもう驚かなくなっている流星。


「わあ……本物のメイドさん!! 私、初めて見たかも!!」


 はしゃぐひよりを見て、やはり胸をガン見する白鳥さん。


「これは可愛らしいお嬢様ですね、よろしければ後ほど採寸させていただいてもよろしいでしょうか?」

「えっ!? 採寸ですか?」

「はい、今後ドレスを仕立てる機会もあるかと思いますので」

「ドレス!! はい、ぜひ!!」


 えっと……もしかして白鳥さんって結構ヤバい人なんじゃあ……


『……流星さま』

「ひいっ!?」


 いつの間にか背後に立たれて変な声が出てしまう流星。


『ご安心ください、私は節度をわきまえた変態ですので』


 全然安心出来ないのだが、白鳥さんからは悪い感情は一切感じられない。少なくとも悪い人ではなさそうである。 


「ところで流星さま、避妊具は用意されましたか?」

「い、いや……まだだけどそれ今重要ですか?」

「当然です。奥方様にくれぐれも、と仰せつかっておりますので」


 たしかに使う予定はなくとも準備しておくことは必要だ。使う予定はないが万が一ということもある。


「わかった、明日にでも買ってくるよ」

「その必要はございません、私が買ってまいりましたので」


 ニヤリとスカートを捲り上げガーターベルトに挟んだ避妊具を見せつける白鳥さん。


「ちょ、何してるんですか」

「見せたいだけなのでお気になさらず」


 どうやら見せて相手の反応を楽しむタイプの変態らしい。


「後ほど採寸させていただければ」

「はい? 俺は別にスーツとか着る予定ない――――」

「いえ、避妊具のサイズです」

「……自分でやります」

「そこをなんとか!!」

「駄目に決まってるでしょ!!」

「この白鳥を助けると思って!! 一度本物見てみたいんです~!!」

「よ、夜空、助けてくれ~」


「ふふ、流星ったらもう白鳥とあんなに仲良くなって」

「流星ってメイド好きだったんだ……」


 大いなる勘違いを抱えながら、皆、フルコースのディナーを楽しむのであった。



「はあ……なんかどっと疲れた……」


 白鳥さんが帰ってようやく肩の力を抜く流星。悪い人ではないのだが、なんというか油断も隙も無い。住み込みじゃないことがせめてもの救いだろう。二十四時間一緒に居たら……たぶん耐えられないような気がする。


 夜空が言うには、指示には絶対に従うらしいし実際にとても優秀なメイドだった。能力だけは。 



「ね、ねえ……どうかな流星?」


 ドアが開いて入ってきた夜空の姿を見て、流星は目を見開いた。

 

「よ、夜空、その格好!?」

「白鳥が、メイドの格好すれば流星が喜ぶって言ってたから……」


 ビクトリアンスタイルのロングスカートにホワイトプリム、白鳥さんが着ていた時は仕事着という風にしか見えなかったのに、夜空が着ていると可愛すぎて言葉が出てこない。


「あれ? もしかして……似合ってない?」


 夜空の『不安』な気持ちが流れこんでくる。流星は慌てて言い訳する。

 

「ち、違うんだ、その……夜空があまりに可愛くて……言葉を失っていただけで……」

「流星!!」


 『歓喜』とともに夜空が飛び込んでくる。普段とは違う魅力に――――流星は心の中で感謝する。


(ありがとうございました、白鳥さん)

(どういたしまして!)


 どこかで白鳥さんの声が聞こえたような気がした。



 ――――気のせい、だよね?




 その頃――――ひよりは


 メイドコスの自撮り写真をせっせと陽翔に送りつけていた。

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