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不快な殺気

「ど、どうして君と俺が一緒にいるんだ?」


ベッドの上で片膝を曲げ頭を抑えながら、無い記憶をユイに委ねた俺は直ぐに聞かなければよかったと後悔した。


視界には極力入れないように努力していたが彼女は立ち上がり淡々と裸に衣服を順に纏っていく光景を目で追ってしまう。


「先生…昨日お店で寝ちゃいましたから。私が運んだんですよ。」


「君…ひとりでか?」


「はい。ひとりですよ。」


嘘じゃないか。俺が彼女を抱えて運んだならわかるのだが、あの体格で俺を持ち上げるとは想像できないのだが。


…怪力体質か?


稀に何かに特化した人間が生まれることは昔から有名な話しだ。


そうゆう宿街を俺とユイは歩いて出て行く。

記憶は無いが、この場で別れて退散するのは経験上、彼女に失礼だと思ったからだ。

俺は冒険者として基本前衛として今まで生きてきたが、そういう宿街を周りを気にしながら配慮している自分を見ると斥候も行けるんじゃないかと思える。

ユイの堂々と歩く様に対して、俺の周辺把握。

完璧なポジショニングだろう。


まあ今更、斥候に転職しようとは思わないけどな。


(よし。知り合いと遭遇はなかった。)


冒険者ギルドの演習場に到着し、俺はとりあえず安心した。が、それもほんの一瞬だった。


「おはようございます先生。…あ。ユイと一緒だったんですね。」


「お、おはよう。…エレナ」


「あ。先生!今一瞬、私の名前出なかったでしょ!」


俺と背丈が変わらない彼女も俺が受け持つ新人の一人だ。豪快に木剣を昨日振り回していたから別に忘れていたわけでは無い。ユイと一緒の所を見られて一瞬、反応が遅れてしまっただけだ。


「ユイ。昨日は先生をちゃんと送れたんだね。」


「うん!任せてって言ったでしょ。」


「さすがね。昨日、先生が裸になって冒険者の証だって迫ってきて私泣いちゃったから…ユイに任せっきりになって心配していたの…ごめんね。」


「大丈夫だよ。」


(俺は…何をしていたんだ!)


顔には出していないが俺は無い記憶に憤怒していた。記憶は無いが経験上、俺はあのお店でやらかしたと思う。

いや…朝のユイでそれは確認済みだが、このままでは新人冒険者に手を出した中年男として肩身の狭い冒険者になってしまう。


今まで上手くやってきたのに、こんな仕打ちはないだろう。


『おはようございます!』


よし。全員来ているな。皆明るい表情だ。俺だけ青白い顔だが、昨日のお店の俺で嫌になった者はいないようだ。


とりあえず、良かった。


皆には悪いが俺はバレないように二日酔いを誤魔化そうと、朝からまた皆に模擬戦を指示した。


「戦いの中にも礼儀を忘れるな!」と、適当なアドバイスをして。


「あら。クレイさんの所は今日も模擬戦ですか?」


バレないように日陰で地べたに座っている俺を見下ろし話しかけてきたのは白銀の牙の副団長のリアさんだった。

俺より年下だが大手クランの副団長だ。言わなくてもわかる。彼女の実力は上級だから務まる役職だ。


「ああ。リアさんは演習場に何の用で?」


「ふふ。さんは要らないですクレイさん。用はですね、期待できそうな子を見定めに来ています。」


なるほどな。確かに素質がありそうな新人は早めに各クランが唾をつけるからな。

まだ2日目でも上級冒険者なら素質を見抜けるだろう。


「クレイさんのおすすめの子はいますか?」


いつの間にか隣りで膝を折り座っていたリアさん。


(おすすめねぇ…)


「あの剣筋はなかなかじゃないか?」


俺は、リアさんにダグラスを紹介してみた。彼女は俺が指差した方向を目を細めじっくりと観察しているようだった。


「う〜ん。確かに年齢を考えると彼は伸びしろがありそうですけど、どちらかと言えば相手の子を推すわね。上手いもの彼。」


マルコか?


今日も模擬戦でダグラスに押されて防御にまわるマルコ。俺には頑張っているのはわかるが上級クランの副団長が推す理由がわからなかった。


「う〜ん。俺にはわからないな。」


「彼…全て攻撃を受ける寸前で自分から後ろに下がって衝撃を和らげているの。受け手だけで見ればなかなかの技量よ。」


なるほど、そういう見方か。俺には思いつかない発想だ。

細身だから考えていなかったがマルコは意外と前線でタンク役が良いのかもしれない。


(よし。タイミングを見て助言してみるか。)


「あと、彼…攻撃を受ける時、瞬きしないわ。しっかり見れているのも評価できる。」


この距離から、そこまで見れているリアさんに俺は驚いた。そんな所が、普通とその先に進んだ者との違いなんだろうな。


しかも、話しながら地面に生える雑草で草かんむりなんか作っているし…早すぎて全然気が付かなかった。


「いやいや。俺の頭に乗せなくて良いから!」


ふふふ。何て微笑んでも今日は朝から思考が追いつかなくて草かんむりへの気さくな対応ができないんだ。


「あとは彼女ね。」


リアさんはそう言うと立ち上がり、ユイを見ていた。

俺もユイだとわかると今朝の出来事を思い出して背中から汗が広がってしまった。


「彼女は…今、休憩しているようだが。」


「ふふふ。彼女から放たれる殺気よ。理由はわからないけど、たぶん私に対してかしらね?」


殺気…?


彼女はそう言うと俺を見下ろしながら少し微笑んでいた。


「不快な殺気。でも彼女とは初対面なんだけど…クレイさんも歳だ歳だって言う割に…尖っているんじゃないですか?」


(ユイと同じ事…言われた。)


「う〜ん。流石に不快な殺気すぎて私…剣抜いちゃうかもしれませんから、帰りますね。」


わからない。帰って行くリアさんの後ろ姿を見ても、不快な殺気を放つユイを見ても、何が起こっていたのか俺には理解出来なかった。


とりあえず…昼休みにしよう。


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