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古城の暗影  作者: 牧亜弓
バルコニー
72/100

ふじわらしのぶと文芸評論家の対話

文芸評論家(以下:評):

ふじわら先生、読者からのご意見が届いております。「なぜ実存主義ではなくメタの世界に傾倒するのか」、という。


ふじわらしのぶ(以下:し):

それは……我々がすでに「実存」という名の苦しみの中で、言葉を使い果たしてしまったから、ですね。


評:

おお、詩的ですね、でも難解です。


し:

失礼。たとえばですが、「実存」というのは、自分の内面を凝視し、世界との摩擦のなかでしか輪郭を持てない。「わたしはここにいる」と言いたい人の哲学です。でもそれが行き着く先は、孤独か、無言の爆発か、あるいは……沈黙です。


評:

サルトルやカミュの線ですね。


し:

そうです。しかし、メタの世界――つまり物語の「構造」や「層」の方へ目を向けると、人間はもはや“語りの外側”に立つことができる。悲しみや怒りがあったとしても、それを語る枠組みごと、ちょっと上から見つめられる。


評:

なるほど。苦悩を“演出”の素材として引いて見る、と。


し:

そう。たとえば、あなたの苦しみが演劇であり、誰かがそれを観ていると思えたら、少しだけ、救われることがあるでしょう?


評:

ああ、確かに。舞台を意識することで、「これは終わる」と思える。


し:

その視点を物語の中に持ち込みたかったのです。つまり、「物語を壊す物語」を描くことで、読者に“語り手の苦しさ”そのものを感じてもらう。その結果、「読みづらい」と感じられるなら、それは……成功かもしれません。


評:

やっぱり意地悪ですね?


し:

はい(笑)


評:

で、問題のブレードランナーについてですが――


し:

あ、それ、気づいてくれてうれしいです!


評:

えっ?出てました?


し:

はい、まだ明示的には出していません。ただ、三話までの“あの女性”が言っていた「この人生が“植え付けられたもの”だとしたら?」という問い。それ、レプリカントの記憶の問題系とまったく同じです。


評:

なるほど、疑似記憶とアイデンティティの問題ですね。


し:

そうです。記憶が「ほんもの」でなくても、「本当にそう思っていた」ならそれは“人生”になってしまう。その欺瞞こそが、物語の厚みを生む。


評:

つまり、登場人物たちは、全員、自分の物語を演じているかもしれない、と。


し:

はい。その上で、誰かがその演技の枠を超えて“本物”になろうとする。そこに“地味に辛い”ドラマがある……というつもりでした。


評:

三話までで、すでにそういう構造になっていると。


し:

なっています。たとえば、名前のないモブキャラが急に哲学的な台詞を言うのは、“演出”の干渉の痕跡なんです。自然主義っぽく見せかけて、実はメタ的に崩れている。


評:

だとすると、読者が混乱するのも……狙い通り?


し:

そうですね。混乱は、感情の前奏ですから。


評:

うまいこと言いましたね……。


し:

句読点のリズムを変えてまで、ね……!


評:

(苦笑)それでは、読者の方へ最後に一言どうぞ。


し:

地味に辛いのは、人生そのものです。でも、それを“物語”として読むことで、時折、笑うことができます。それを信じて、続きを書いています。


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