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古城の暗影  作者: 牧亜弓
階段
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階段倫理管理協会からの通知

【魚の目】が十段目を踏んだときだった上空から何かが降ってきたパサリと乾いた音手紙だった封筒に赤インクで「重要」文字は異様に整っていて気味が悪い彼は躊躇なく封を切る中から滑り出てきたのは一枚の便箋そしてそこに書かれていたのは──


「拝啓階段使用者各位あなたは現在【終わらない階段】登録番号D3-021に侵入しておりますがこのルートは通常の精神導線を逸脱しており協会的に不適切な下り方と認定されましたつきましては速やかに階段使用マナーを遵守し直線距離での内省飛躍や勝手な懺悔詩の挿入を中止されますようお願い申し上げます」


署名はこうあった

《階段倫理管理協会精神段差部門》代表【段原】


「段原ってなんだよ」【魚の目】は苦笑しながら手紙をくしゃくしゃに丸めて投げ捨てるがその玉は宙に浮いたまま消えずに漂い続けた「おいおいまさか実在するのかよ階段協会……いやそんなメタ機関がどこに存在するってんだ」その瞬間空間がきしんだ壁から無数の細い手が伸びてきた白く均等で節のない指先それらが階段の段差をひとつずつ撫でていた「段差チェックです段差チェックです段差の質は内省度に直結しますユーザー様の思考曲線が逸脱しております階段はあくまで内面の比喩であり実体化しすぎるとメタファー過積載により崩壊の恐れありです」


「うるせえよ」【魚の目】が叫ぶ「俺が降りてるのは階段なんかじゃねえ俺自身だそれを勝手に測るんじゃねえ」


手は止まったそしてまた新たな手紙が降ってきた今度は小さな三つ折りメモ「お客様の声」用紙だった「ご意見は真摯に受け止めますが全体構造の持続可能性のためエレベーター的解釈やワープ的展開は控えていただきたく存じますなおこの通路は断罪型構造であり娯楽としての消費は想定しておりません」


【魚の目】はその紙を黙って踏みつけた「俺の苦笑いを返せってんだ」


階段はきしむ手すりが震える天井の奥からざらざらと砂の音がしてくる「罰則階段補修班が到着します」


「補修するってんならこの階段の矛盾を直してからにしてくれ」【魚の目】は壁に手を当てた温度は変わっていなかったひんやりとした段差はなおも彼を迎え入れ続けていた


「俺がこの階段を降りる意味は一つだ自分が誰なのかを知るためだマナーも規則も何もかも後回しだ自分の足で歩くことそれ以外に信じる価値なんかない」


壁の手が静かに引っ込む空間が一瞬だけ黙った風が下から吹いてくるようだったそれは彼の顔を撫でた何かが許されたのかもしれない


【魚の目】は再び歩き出す


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