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古城の暗影  作者: 牧亜弓
一階
44/100

腸内菌

【ふじわらしのぶ】は静かに横たわっていた瞼の裏側で光が蠢き内臓の奥で言葉にならない何かが動いていたそれは確かに思考に似ていて確かに生理的でもあり彼女だけが気づいている世界の裏層だった【焼け犬】が尋ねるなんだよまたおかしくなったのか【牧亜弓】が即座に制する黙れ今は見えるものより見えないものが支配している【魚の目】が歌う目には映らぬものこそが我らを導く名も形もない腹の中からやってくるそれは熱であり冷たさであり記憶の水滴だ【ねじれ女】がくすっと笑う見てわかるものだけが真実ならば世界はこんなにねじれちゃいないわ【ふじわらしのぶ】がぽつりと呟いた腸内菌が私に語りかけてくるのあなたは記録係でもあったが今や媒介者でもあるってまるで私の中に新しい生命が住んでいるみたい彼女は端末を操作せずただ静かに横たわったまま小さな声で続ける名前の前に存在があり存在の前に発酵があるの私の腸は世界の発酵槽なのそれを信じなければこの次の展開に立ち会う資格はない【焼け犬】がバットを下ろし歩み寄るお前の中の何かが今世界の鍵を握ってるってことかよだったらそいつごとぶっ叩いてやるからさっさと出てこいってんだ【牧亜弓】が首を横に振る暴力でこじ開けるものではないこれは言語以前の現象だ記録というより創発腸内菌とはつまり集合知の端末だ彼らは微細だが全体だ【魚の目】が低く詠む千の腸千の菌我らは個であり群全ての意志が一つの肉を選ぶ【ねじれ女】が舞うように回るほら見て空間が少し回ってるのよふじわらしのぶの身体を中心に世界が揺らいでるわ名付けの届かない言葉たちが渦を巻いて彼女の腸に沈んでいく【ふじわらしのぶ】が微笑む私が観測者だった頃には見えなかったものが今なら見えるの彼らは言うこの世界にはもう一つの言語があるとそれは音でもなく文字でもなく発酵のパターンに宿るリズムそれが次の勢力【無名連】の中核をなす意志よ【焼け犬】が叫ぶなんだよそれバットで殴れるのか殴れねぇもんは信用できねぇぞ【牧亜弓】が言う安心しろ焼け犬お前の殴打は言葉だ叩くたびにその奥の名を暴き出す【魚の目】が言葉を継ぐ叩け燃やせ腸内に揺れる声を響かせよ真理は泡立ち沈殿しやがて輪郭を帯びる【ふじわらしのぶ】が静かに目を閉じるそしてゆっくりと手を伸ばすその掌に微かに光る菌糸のようなものが浮かび上がるこの言葉なきメッセージを受け取って記録するだけでなくこの世界の新しい基礎文法にしなければならないその瞬間一階の床が抜けるように空間が折れ曲がり彼女の身体を中心に無数の文字でも音でもない情報粒子が走ったそれは香りにも似ていて体温にも似ていた言葉の原型以前の原始の声だった【ねじれ女】が言うこれが第五の勢力の胎動無名連の原核よその中心にふじわらしのぶがいる彼女の腸内菌が世界の辞書を書き換えようとしている【焼け犬】が拳を握るだったらその辞書に俺のバットの軌道も書いてもらおうじゃねぇか【牧亜弓】が頷くお前の一撃が次の文法になるこの世界が何を言いたいのかそれは殴ってわかることもある【魚の目】がささやく踊れ菌たちよ揺れろ腸の中名なき意志が名を持つ前に

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