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古城の暗影  作者: 牧亜弓
一階
43/100

地上一階の哲学

【焼け犬】が睨むもう一人の【焼け犬】は微動だにせずその目は鏡のように冷たく鈍くかすかに震えたその震えは怒りでもなく恐怖でもなくまるで世界そのものが共鳴しているかのようだった【牧亜弓】が小さく囁く始まったな名前と名付けの戦いが【魚の目】が呟く名前とは何だ記号か象徴かそれとも縄で縛った魂の在処か【ねじれ女】が言うあなたが名乗った時点で世界は一度変わるのよでもその変化は誰も気づかないほど微細なのそれが積もり積もって狂気になる【ふじわらしのぶ】が端末に記録を走らせながら言う地上一階とは何かそれは高くもなく低くもない中庸の位相場所でもあり概念でもあるこの場所は無数の下層と上層をつなぐ隙間意識の踊り場だ【焼け犬】が問うていた何で俺はここにいるんだ何でこの俺がもう一人の俺と向き合ってんだ誰が得すんだこんな対話誰が求めてんだこんな構図【焼け犬】のもう一人が初めて口を開いた得してるのはお前さあの時振り下ろした拳あれが本当のお前だろ見ろよその手に染みついた怒りの痕をそれが全てだ【焼け犬】は言い返すお前みたいな割り切ったモンじゃねえんだよ俺は割れても壊れてもまだ迷ってんだよ迷いながら殴ってんだよそれが俺なんだよ【牧亜弓】が踏み込む哲学とは傷の数を数えることだこの場所はすべての傷が重なりあう交差点一階はいつでも曖昧な高さだ高すぎれば二階低すぎれば地下でもここは一階名前がついているが定義がない絶えず揺れ動く高さそれがこの世界の本質だ【魚の目】が詩を重ねる浮いて沈んでまた浮かぶ言葉は泡だ地面のように固くないだから我らはそこに踏み込む足を血で濡らしても構わずに【ねじれ女】が笑う素敵ねこの争いは命の再定義名前の書き換え暴力の哲学戦って壊してもう一度自分の輪郭を撫でるそれが人間ってもんでしょ【ふじわらしのぶ】が宣言する記録開始場所地上一階対象自我と影の衝突目的記号と意味の乖離についての観察結果予測できず未来を綴るための実験開始【焼け犬】が構える目の前の自分にバットを振りかぶるもう一人の【焼け犬】もまったく同じ構えで応じるバットとバットがぶつかるたびに空間が軋み記号が飛び散る名と名が衝突し存在の定義が揺らぐその衝突の中心にいる彼らはもう疑っていなかったこれは世界の再命名だ言葉を叩き潰してその奥にある無名のコアを引きずり出すための戦いだった【牧亜弓】がつぶやく誰が生き残るかではないどちらがより自分を信じているかその差だ【魚の目】が歌う名乗れ叫べ砕けろ名は道しるべ名前を持つことは運命を抱えること【ねじれ女】が言うそのバットは論理を叩き割るためのものよ感情の槌で世界を殴るのよさあもっと踊って【ふじわらしのぶ】が言うこの瞬間がすでに書かれ始めているそれは私が書いているのではない彼らの行動が記録を強制するのよ彼らの存在が物語を生むこの階が特別なのはそのため名が実体と衝突し互いに壊し合うこの中間の高さだけがそれを許す【焼け犬】が最後の一撃を放つその衝撃で床が抜けるように世界が割れたもう一人の【焼け犬】は消えた跡形もなく残されたのはただ名札だけだったそこには名も無きとだけ書かれていた【焼け犬】はそれを拾い見つめポケットにしまう【牧亜弓】が言うお前は名前を取り戻したわけじゃない名前に勝ったんだ【焼け犬】は微笑んだような気がした

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