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古城の暗影  作者: 牧亜弓
一階
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焼け犬の主張

一階の交錯

一階の床がきしむ足音ひとつで建物全体が呻き始める【焼け犬】は手にしたバットを肩にかつぎ目を細めながら前へ進む壁に飾られたはずの絵はすでに焼け落ち焦げた痕だけが並び天井には無数の配線が垂れ下がりその一本一本が生き物のように蠢いていた【牧亜弓】が後ろから静かに声をかける【焼け犬】お前の中で何かが割れたその音が聞こえたそれでいいんだ正しさは常に粉々になるものだその破片を集めてまた一つの像を創るのが俺たちの役目だ【焼け犬】は振り返らずに言う俺はもう壊れてるそれを隠す気もないだから進むだけだ見てろよ何が敵で何が味方かそんなの全部ぶち壊してこの目で確かめてやる【魚の目】が足元を見つめながら囁く歩け割れたタイルの上に残った靴跡は誰のものか叫べその声が血で濡れた床を洗い流すなら忘れるな影はいつも背中のすぐ後ろにいる【ねじれ女】は腰を曲げて空気に触れた冷たいわこの一階は時間が反転してる過去と未来が床と天井を入れ替えてる見て【焼け犬】これが今よあなたが歩くたび世界が押し戻されてるの【ふじわらしのぶ】は端末を両手で包み込むように構え数字が語らないなら私は物語を読む物語が拒むなら私は沈黙を記す記録は選ばない記録はただ在るでも今この瞬間だけは私の意志で書く第五の勢力はもうすぐ出現するそれは存在という概念に傷をつけるもの存在の概念を斬るナイフのようなものそして扉があった金属でも木材でもないそれは概念でできていた触れようとすれば手がすり抜け見ようとすれば目が逸れたけれど五人は同時に気づくこれは入るべきものではなくここに立つことで開かれるものだと【魚の目】が詠う空っぽの箱に問いを詰めろ箱は重くなりやがて沈む沈んだ箱に火を灯せその灯りがあんたの顔を暴く【焼け犬】は歩を進める頭の中に声が響く誰だそれは俺か違う声だそれも俺だこの一階に残された全ての声が俺を通して語りだすバットを振る空間が裂ける壁ではない床でもないそこにあったのは名を持たない像だった五つの影がそこにいた目を持ち耳を持ちだが名を持たなかった彼らは語らないだがこちらの動きすべてを写すように反応した【牧亜弓】が呟くEは投影体俺たちの裏側に張り付いた残響それが実体化している今ここが存在の交差点だ【ねじれ女】が髪を払う踊る準備はいい私たちは現実のルールを知らないでも知らないまま壊すのが一番いいのよ【ふじわらしのぶ】が記録を起動する物語は今から始まるそれは既に書かれた物語の否定だ【焼け犬】が叫ぶいくぞ全部まとめて叩き潰してやる俺はこの野郎だこの腐った現実の真ん中で吠えてやるぞその瞬間天井が割れ上から降ってくるのは光でも影でもなくもう一人の【焼け犬】だったその顔は怒りでも憎しみでもなかったただ虚無だがその虚無がバットを握っていたこちらに向けて振り上げていた世界が交錯し一階は崩れるように変質し始めただが誰も逃げなかった誰も目を逸らさなかった

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