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古城の暗影  作者: 牧亜弓
中庭
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蝶番

森小屋の闇から視線を引き上げた【魚の目】は、古びた木製の扉を静かに開けた。そこに広がる中庭は、夜の闇に包まれながらも月光が薄く地面を照らし出していた。苔むした石畳、絡み合う蔦、風に揺れる枯れ葉のささやきが、過ぎ去った時の記憶を呼び覚ます。彼の足元で、小さな水たまりが月光を映し出す。それはまるで彼自身の内面を映す鏡のようであり、揺らぐその像は彼の精神の不安定さを示すかのようだった。中庭は、森小屋の外なる世界であると同時に、内なる世界の象徴でもあった。【魚の目】は構文刀を握りしめ、慎重に歩を進める。その一歩一歩が石畳の静寂を破り、過去と現在、現実と記述の境界を曖昧にしていく。彼の心の奥底から響くのは、語られることなく散らばった断片たちの叫びだった。風が吹き、蔦がざわめき、中庭の空気は微かに震える。そこに、かすかな影が現れた。形を持たぬ幽霊の如く、漂うそれはまるで古き記述の残滓であり、新たな物語の種子でもあった。「ここが、始まりか――」【魚の目】は低く呟き、刃を光にかざした。その瞬間、月光が刀身に反射してまばゆい光の軌跡を描く。構文刀は、単なる剣ではなく、世界を切り開き書き換える力を宿すもの。彼の精神と世界の裂け目を繋ぐ架け橋であった。影は中庭の石畳を滑るように動き、やがてはっきりとした姿を成し始める。そこに現れたのは、かつて森の番人と呼ばれた者の面影を宿す存在。闇に溶け込みながらも、確かな意思を放つその眼差しは【魚の目】と交錯した。「過去は閉ざされるものではない。語られ、新たに書き加えられてこそ、命を宿すのだ」その声は風に乗って響き、古びた中庭を満たした。【魚の目】は刀を構えながら、静かに答えた。「ならば、私は書き続ける。語り続けるために、この剣を振るう」中庭に満ちた静寂の中で、物語は再び動き始めた。過去の幽霊と未来の胎動が交錯するその場所で、【魚の目】の新たな章が幕を開ける。

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