第8話 化けて出る
放課後、定刻通り動画配信サイトでコンコンのライブ配信が始まった。
時を同じくして、生徒会室ではこんなことが起こっていた。
「どうして……お前がここにいる……」
一人の生徒が声を震わせる。背は高く、年の差相応の貫禄もあった。
「どうしてって、僕も生徒会ですよ」
こちらも下級生らしく振舞う。普段こそあっけらかんとした口調で喋っているけれど、僕だって敬語くらいは使えるさ。
僕は、やってきた男子生徒の名を呼ぶ。
「何か変ですか、守屋先輩」
生徒会副会長の二年生、守屋太一。
この人こそが、今回の事件の黒幕だ。
「先輩こそ、こんな時間に何しに来たんです? きょうは生徒会、お休みですよ」
「はは、しらばっくれて……」
守屋先輩もこの時点で察している様子だった。もう逃げ場はない。
「そうですね。先輩はあの動画を見て、焦ってこれを回収しに来た」
僕は四つの封筒を見せる。選挙があってから一日一通ずつ。それが四日分で四つだ。
「ファンを自称しているだけあって、さすがに早い。やっぱり、見てくれましたね」
動画というのは、午後三時に配信されたなんとも胡散臭いあれのことだ。動画が短かった理由は、視聴を後回しにせず何かの合間に最後まで見ることができるようにするためだった。
「だが、どうしてだ。俺は今、お前……コンコンが生配信しているのを確認してきたはず……」
守屋先輩は息を荒くしながら、疑問の色を浮かべる。
その様子を面白がることもなく、僕は両の手を持ち上げた。
「僕が? なんのことです?」
確かに今、コンコンは初のライブ配信を行っている。
先輩はさらに焦りを募らせていく。
「俺のコメントを読み上げ、反応もしていた。録画ではないはずだ……。なのに」
当然さ。本当に生配信をしているのだから。
「少なくとも、あと五分は配信しているはずだろう!」
ああ、その通りだ。予告していた配信時間より早く切り上げるようなこともしていない。
(そろそろかな……)
なかなか正解にたどり着かない先輩を気の毒に思ったわけではないけど、時間もいいところだ。僕はわざとらしく手をたたき、下手な演技で言ってやった。
「あー、なるほど。先輩はこう勘違いしちゃったわけだ。コンコンの正体が僕だって」
「勘違い? いいや、お前がコンコンという名前で動画を配信していることは生徒の殆どが知っている。まさか……、替え玉か?」
「いいえ、替え玉じゃないですよ。あれはコンコン本人だ。たしかに僕はコンコンだし、その名前で動画を上げたりもしてますよ。ただ……」
僕は得意げに狐の面を取り出した。
「僕だけじゃない」