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こんがり化けたモノクローム  作者: つじは
気流に眩んだプロセスモデル
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第15話 躓き少女の通過儀礼

 移動中、小冬は無言だった。なんとなく気まずさを感じる。

 文芸部室こと社会資料室に着くと、そこでは何やら揉め事が起こっていた。

「だから、提出、しました……。昨日も、言ったじゃないですか……」

 消え入りそうな声の主は見覚えがあった。

「あ、ズッコケ少女」

 咄嗟に口を押える。思わず口に出してしまった。名前は確か……。

「能さん、そう言われても、ないものはないの。昼に確認したのよ?」

 そうだ、能沙妓乃。入学式で新入生挨拶をしていたくらいだ。きっと成績も優秀なのだろう。その佇まいも、まさに文化部のエース候補、ドラフト一位の逸材という感じだった。

 対して、彼女の正面に立っていたのは背が高めな女性だ。こちらはややスポーティーな印象である。

「あの人は佐野(さの)先輩。文芸部の部長さんらしいよ」

 しばらくぶりに口を開いた小冬は俺に教える。ふむ、とはいえ分からない。

 これはいったいどういう状況だ?

「おう、入部希望かい?」

 ドア付近に立っていた大柄な男子生徒が、トラップが発動したみたいに声をかけてくる。校章の緑色を確認すると、すぐに先輩だと判った。

「あ、いえ、あれって何があったんですか?」

 俺はこの状況についての説明を求める。

「ああ、短編の原稿がなくなったらしいんだよ。新入部員の通過儀礼のやつなんだけどな」

 短編というと、ツネが言っていた『恋のなんとやら』だろうか。

「バックアップは取ってないんですか?」

「どうやらないらしい。初執筆らしいし、仕方ないがな」

 そうなると、まず思いつくのは能がやってもいない執筆をやったと誤魔化しているというものだ。ありそうな話ではある。文芸部には入りたいがああいうテーマで書きたくない人間は少なくないはずだ。きっと佐野部長とやらもそれを疑っているのだろう。

 しかし、その推論は近くの椅子に腰かけていた女生徒によってすぐに否定された。こちらも二年生の先輩のようだ。

「あ、部長。能さんの部費、確かに昨日回収してますね。ほら、チェックもついてる」

 ……部費?

 ああ、そういえばツネも、短編は最初の部費と一緒に提出とか言ってたっけ。女生徒が机に置いた名簿を見ると、確かに能の欄にチェックマークがついていた。集金袋にも、しっかりとその金額が納められている。つまり、原稿だけ盗まれた?

 それから、大柄な男子生徒に詳しく話を聞いた。部活に興味があるそぶりを見せると、原稿の回収方法についてすぐに教えてくれた。提出は、部活の時間であればいつでも可能らしい。その時々のテーマ、今回であれば『恋と出会い』が書かれたポップの前にトレイが設置されており、原稿と部費をクリアファイルにまとめて提出する。そこから担当部員が部費のみを抜き取り、名簿にチェックを付けてから集金用の封筒に入れる。あとは締め切り日に、クリアファイルごと提出されたすべての原稿を回収するという流れだ。回収用のトレイは常に部員たちの目に晒されているため、部活中に盗られたとは考えにくい。

 また、部費の方はさすがにお金なので、早めに回収するよう心掛けているらしい。実際今回も、部費だけは盗まれていなかった。犯人が狙っていたのは、同じクリアファイルに入っている部費だった可能性は高い。たかが数千円とはいえ、高校生にとっては大きな金額だ。

「こんなことするなんて、ひどい……」

 能沙妓乃はうなだれた様子で、行き場のない怒りを吐露している。おそらく先ほど教室の前で焦る様子を見せていたのも、この少女だったのだろう。

 それ聞いて、なぜか隣の小冬が複雑そうな顔をしていた。

「ちょっと、ついてきて」

 そう言うと小冬は俺の手を引き、教室の方へ戻るよう促した。今度はいったい何だ。

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