番の人魚さんと族長
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こちらの作品はカクヨムさんでも投稿させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
side 深紅
このところの展開は、余りにも目まぐるしい。自身もそうだし、竜族も揺さぶられ続けている。全ては番を巡る様々な出来事。
だが、わたしは瑣末なことを気にかける性格ではない。今のわたしに大事なことはただひとつ、番だけ。
そんなふうに割り切れる自分で良かったと思う。周りで右往左往する者たちを見ると、尚更その思いは深まる。
わたしは人魚族のことを何ひとつ知らないし、正直番以外の人魚にも興味はない。だが今まで教え込まれ叩き込まれた礼儀作法や良識により、番の立場やその背景である人魚の一族への配慮などが必要とされることは理解している。
また今となっては番の唯一の身内である、妹の人魚へも義理の姉として対応しなくてはいけないというのも分かっている。そうでなくても、番に嫌われるようなことはできない。また番に肩身の狭い思いをさせるつもりもない。ひもじい思いはもちろん、不自由をさせるつもりもない。
番にはいつも笑っていてほしい。楽をさせてやりたいし、美味しい物も食べさせて喜んでほしい。自分以外のことをこんなにあれこれ考えること自体が驚きだ。
そして今は番と人魚族の族長と共に何処かに向かっている。
先程番が、リーダーから何か頼まれていて族長のところに行くと言うのでついて来た。本当は抱きしめて離したくないのだが、たぶんそれは他の国にいる間は無理そうなので早く竜の国のわたしの家につれ帰りたいと思っている。
青のようにわたしも早く婚礼をあげたい。青の番の花嫁姿が羨ましかったのだ。わたしにも似合うかなぁ。番と一緒に準備とかしたい。
本当を言えば住む場所など何処でもいい。とにかく番と2人きりで過ごせないものだろうか?邪魔が入らなければなんだっていいのだが。
じれるわたしを番はよくヨシヨシしてくれる。そんなこと、と思うかもしれないが意外にそれだけで少し落ち着ける。番からの情を感じるたびに満たされる。わたしの番は最高の男だ。強いかどうかは関係ない。わたしが守ればいいだけだ。
ほんの少し前までは強さが全てだったのに。
どうやら着いたようだ。怪我人や病人がいっぱいだ。死臭がする。死期が近い者たちがいるのだろう。
番と族長が盛んに話し合っている。
「不安は分かります。でも悪いようにはなりません。一刻も早く使った方がいいです。」
族長がその場に皆を呼び集めた。族長と番はひとつのベッドのそばにいる。そのベッドには族長とよく似た男が伏せっていた。
長く患っているのか、痩せ細り顔色も土気色だ。かなりあぶない。
「皆よく集まってくれた。じつは皆に見せたいものがあるのだ。これだ。」と集まった者たちに自分の宝珠を見せる。
「この中にも見たことがある者や持っている者もいるかもしれないな。これは人族の大陸で宝珠と呼ばれているそうだ。如何なる病も死に瀕した者も使えば元通りの身体になるそうだ。怪しむのは分かる。わたしも信じがたいと思っている。だがわたしはこれから、宝珠を使うつもりだ。兄上にも使っていただく。だから皆よく見るのだ。この宝珠に本当にその様な力があるのか?何の副作用もなく、真に安全なのか?もし偽りなく怪我が癒え、病が治ったその時は皆も使えば良い。よいか、では今から使う。」
「おっ、お待ちください。どうか、どうか、そのお役目、わたくしにお任せいただけませんでしょうか?いくら何でも族長と兄君さまにはじめに試していただくなど、危のうございます。」
「そ、そうです。わたくしめも、そのお試しを致しましょう。族長、兄君さま、どうか、お留まりくださりませ。」
「分かった。では、わたしとそなたで試そうではないか?「兄君さま!」やはり、怪我と病の両方を試してみたいし、正直、とてもつらい、弟よ、それに皆もどうか、わたしに試させてくれ。」
病に伏していようとも、強い意思を感じさせる兄君さま。必死で止めようとする声を穏やかに、だが毅然と退ける。
結局、その後すぐ兄君とはじめに申し出た者とで試してみた。
結果についてはわたしは何の心配もしていなかったが、やはり光に包まれた後は完全に回復していた。
病で損なわれた体力や肉はさすがに戻らないが、兄君の顔色はよくなり膿んだような肌も曲がった関節も元通りのようだ。
もう1人の者も千切れた足が生えており、顔の抉れて輪郭がいびつだったのが元に戻り、片目が潰れていたのも治っていた。その者はよくみれば、手の指も揃っていなかったようだが今は何の欠けもない。
はじめの、目を背けたくなるような痛ましい姿の痕跡はまったく残っていない。本人が1番驚いているかもしれない。
あれほど無惨な有様からでも完全に回復するのだから、と周りがにわかに騒然となる。
族長が「わたしもやるぞ!」と声を上げるとつぎつぎと続き、周りはあまりの眩しさに目を開けていられないほど。
失意から一転喜びに包まれた空間。宝珠のことを隅々まで知らせるために動き出す者たち。それは、慌ただしくも心温まる眺めだった。
はて?竜の中に宝珠のことを知らぬ者はいたかなぁ。まぁ、自分が心配するよりもよほど老たちに任せておく方が何事も上手くいくのが常である。大丈夫だろう。
たくさんの作品がある中で
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