人魚のお姫さま
※〜※の冒頭部分は少し重い雰囲気です。
主人公の心残りの気持ちが綴られています。
読み飛ばしていただいても大丈夫です。
どうぞよろしくお願いいたします。
こちらの作品はカクヨムさんでも投稿させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
side 主人公
※
なかなか世知辛い世の中だ。過疎に悩む寒村みたいだし。まるで若者が都会に出たがるみたいではないか。
単純に観光地化するなんて危険だし、ここは宝の山みたいなところでもある。下手したら海が汚染されてーとか、環境問題や外来種の問題とか発生したら大変だ。
人手不足の心配があるとはいえ、移民を簡単に受け入れることもできない。消えゆく地上の楽園?とか困るよ。
正直前世の世界のこと、嫌いではなかった。伝統も文化も大切に思っていた。四季に恵まれていた頃に生まれて良かったとも思っていた。
でも問題があり過ぎる世界でもあった。せっかくの美しい国もなんだか大切にされていない気がして寂しい気持ちになることもあった。
声をあげる人たちも個人で出来ることをする人たちもいたし、自治体や国も何らかの施策はとっていたと思うけれど、わたしに関して言えば身動きできなかったかな。
自分の国のことなのにね、知らないことが多かったと思う。わたしが関心がなかったから?それとも複雑すぎてどうにも出来ないと諦めちゃってた?
だからかな、こちらは大切にしたい。後悔する気持ちが残っているということは、惜しんでいたということ。でも同じくらいなんだかひどい世の中だと思っていた気もする。もうダメだろうとも。
失われたものを完全に取り戻すのは難しい。だから失ってはいけないのだ。
あとから気づいても遅いこともある。気がつかないよりいいかもしれないが、手遅れになることもあると思う。そして後悔だけでは足りないことも。
さいわいこの世界は生き生きしている。弱肉強食なのも世界にとっては健全で、循環が滞ることなく活発なのも望ましい在り方なのではないだろうか?
だとしたら種の攻防も正しく、勃興も衰退も自然。この世界にとっては生まれ育むことと、老いて死ぬこと、敗れて死すことも正しい在り方なのだ。
女神さまが見守るこの異世界は美しい。わたしが引っ掻き回している気もするけれど、それさえも受け止められて。
わたしが宝珠を作ったのはもしかして心残りがあったからだろうか?欠損を抱える人々が気になったのは、前世看病していてつらかったから?
元気だったら楽しく思い出作りもできたろう。ほんの少しの自分の時間に、テレビや読書や趣味を楽しみ息抜きしていたな。わたしは元気でいてほしかった。そうしたらもっと楽しかったのではと思う。
わたしがやらかす何かがこの世界の迷惑になりませんように。
どうかわたしがこの世界を壊すことがありませんように。
※
どの国でも問題がある。似たような悩みを持つ国もあるんだろうな。どこもかしこも上手くなんていかないよね。
でもわたしはそれらのお話より気になったことがあり、番の人魚さんを呼んでもらった。
人魚さんが来たと思ったら深紅さんも一緒だった。そうか、番だものね。どうかしましたか?と聞かれたので、族長さんについてどうして気になったのか説明した。
族長さんは隻腕だった。でも宝珠の気配とスケルトンナイトの気配が微かにする。つまり回復できるはずなのだ。タイミングは本人が選べるので、使っていなくても問題はない。ただ以前にも使いたくても不安が大き過ぎて使われていなかったことがあった。
宝珠で回復した人魚さんからの言葉なら受け入れやすいのではと思う。族長にそれとなく宝珠と回復のことを教えてほしいと頼んでおく。あとは人魚族にお任せである。
人魚さんは考えこみながらも族長の元へ向かった。ちょうど白の老と話していたが、すごい驚きようだが大丈夫だろうか?白の老は竜族の固まっている席に戻っていった。
番の人魚さんに話しかけられた族長さんは、またまた驚いた様子で腕のあった場所を押さえた。深刻な様子で人魚さんと話し合ってから3人で出て行った。深紅さんも一緒だ。深紅さんは片時も番と離れようとしない。あの姿が番の距離感なのだろう。
人魚さんも大変だろうが、深紅さんがとても健気で可愛らしいと思ってしまう。
それにしてもこの人魚の国にまで宝珠は届いたのだな、と感慨深い。あんまり使わないようなら、いっそスケルトンナイトに話しをさせようかな。
もちろん一生使わなくても本人の自由ではあるが、なんとなく不安や不信感の方が強くて本当なら使いたいと思っているような印象を受けることが多い。
今回もそれに似たケースだと困る。このあと知らされるのだが、無事宝珠はみなさんに使ってもらえた。やはり警戒されていたようだ。人魚さんたちと族長さんは、人魚の国の病院のような場所に向かったのだという。
そこではかなりの負傷者たちが治療を受けていた。また身体を損ない、普通の漁や狩りが出来ない者たちが多く働いていた。
そして族長の兄もまた長い間患い、治療の甲斐もないまま寝たきりとなっていた。人魚さんの話をきいた族長さんは、もしやと考え兄君や患者たち、不具合を抱えた者たちを集め宝珠の話をした。
するとその場の多くの者たちが宝珠を所持していたことが分かった。皆の不安を取り除くためにも、と1番に族長と兄君が名乗り出て宝珠を試そうとしたところ、族長と兄君が2人共一度に試すなど無謀だということでほかの重傷者と兄君が使ったそうだ。
今までと同様、温かい光に包み込まれ輝きがおさまると、痛みも衝撃も後遺症もなく完全に回復しており周り中が呆然となってしまった。しかし驚きが去った後は我も我もと次々と宝珠が使われ、回復した者たちが喜びに咽び泣いたそうだ。
族長も兄君と久々に抱き合い、互いの快癒を喜びあった。お互いがお互いに諦めていたようだ。
ちなみになぜか人魚の国のスケルトンナイトは、人魚型で後から合わせてもらったが大受けしてしまった。なんかカワイイのだ。どうして?と思ったが、基本宝珠の持ち主と行動を共にするのだから適したカタチをとっただけのようだ。
いやいや、受けるよ。とってもカワイイよ。
さて見えない場所では大きな動きがあったわけだが、集会場でも動きがあった。
竜族さんたちのお席がにわかに騒がしくなったのだ。よく見れば番の人魚さんを呼びに行ってくれたやさしい女性がその中心のようだ。一体何が始まるのか?
女性の前に跪いているのは、あれは白の老?その異常な様子に周りがどんどん静かになっていく。
「先程、族長殿に求婚する許可を頂いた。姫君、どうかわたしの花嫁になって頂きたい。あなたは、わたしが長い間探し求め、ついには今生では出会うことを諦めた番なのだ。どうかこの手をとり、わたしを伴侶にしてほしい。」
「わたくしが貴方様の番なのですか?間違いではなく?……お聞きかもしれませんが、わたくしは一度婚姻を結びました。先の戦でその夫を亡くしたため、寡婦となりましたがもう2度と婚姻するつもりはなかったのですが?」
「わたしも一族の血を絶やさぬため、番が見つからない場合は子をもうけるように定められており故郷には子がおりますよ。他の種族は分かりませんが、我々竜族はもともと数が少ないので番と出会えなくとも皆子をもうけるのです。番をさらに探し続ける場合は、なおのこと決め事を守らなければなりません。あなたが亡きご夫君を大事にされるのを邪魔するつもりはありませんが、どうかわたしや竜族のことを知る機会をいただけないでしょうか?あなたをあなたが守りたいものごとわたしがお守りすると誓いましょう。」
「あの、そうではなく…わたくしは若くはございません。前族長の娘ですので身分はございますが、貴方様より美しくもございません。どうか若くて貴方様に相応しいお美しいお方をお選びくださいませ。」
「理解するのは難しいかと思いますが、番に美醜は関係ありません。また種族も国も年齢も関係ないのです。そして出会ってしまえば、もう誰も代わりにはなりません。どうか拒絶しないでください。あなたを視界に、出来れば常にそばにいさせてほしいのです。片時も離れていられない、それが番なのです。」
ここで、竜族の各老たちや付いてきた者たちが白の老に加勢して説得をはじめた。どうやら推しの弱い白の老の旗色の悪さを心配してのことらしい。
それにしても、見つけたらすぐ囲いたい竜と、番のことをよく知らない多種族とでは相互理解に隔たりがあるんだよね。
番を求める必死さがどうやったら伝わるか、そこがポイントだと思う。
やっぱり番の魔石を使って、感覚共有した方が話が早いんじゃないかなぁ?
たくさんの作品がある中で
お忙しい中お読みいただきありがとうございます。