婚約破棄を発表したために大変な事になった王太子殿下(18)
思い付き短編です。
稀によくある婚約破棄ですが、実際次期王位継承者が、よくある学園ものの中で宣言したらどうなるかを膨らませてみました。
どうぞお楽しみください。
「皆の者、よく聞け! 我スターツ・クオは、公爵家令嬢アズィー・ティーズとの婚約を破棄する!」
舞踏会の最後に王子から放たれた宣言。
ダンスホールに集まった学園の生徒達の動揺は大きかった。
「な、何故ですか!」
「スターツ殿下とアズィー様は、お似合いの婚約者だと思っていましたのに!」
「一体何が……!?」
そのざわめきに、スターツは落ち着きのある声で答える。
「物心付く前に決められた、王家と公爵家との繋がりの為に結ばれた縁。だが先日我が妹とアズィーの兄上が婚約を結んだ。故に我々の婚姻は不要と判断した」
「これは既に両家も了承済みの事です。決して私達だけの浅はかな決断ではありません」
アズィーの補足に、ざわめきが止まった。
皆一様に複雑な表情を浮かべる。
「今はまだ新たな婚約者は決めてはいない。だがこの才能溢れる皆の中には、我が胸をときめかせる相手がいると確信する」
スターツがそう言うと、一度静まったどよめきが蘇った。
「このスターツに想いを寄せる者あれば、遠慮なく声をかけるが良い!」
大きなどよめきに背を押されるようにして、スターツとアズィーはダンスホールを後にした。
数日後。
「アズィー……」
「何? スターツ」
庭園の東屋。
憔悴しきったスターツの言葉に、アズィーは紅茶を口にしながら先を促す。
「婚約破棄を無かった事にしてくれ……」
「それはまた何故?」
特に驚いた様子もなく、話を続けるアズィー。
スターツは俯いたまま、言葉を継ぐ。
「学園中の女が私を狙っている気がする……」
「おそらく正しいでしょうね。この学園の中であなたとの婚姻を願わない者はいないでしょうから」
「お前との婚約がこれ程大きかったとは思わなかった……」
「ふふっ……」
含み笑いを浮かべるアズィー。
次の瞬間。
「私も同じよ……。男子生徒や教員から求愛されてばかりで……」
余裕の笑みが崩れ、へにょりとした泣き顔になる。
「幼児の時から一緒にいて、ときめきも何もないからと一度婚約破棄でもしてみるかと思ったが……」
「こんな状況では学園生活がままなりませんわ……」
二人はどちらともなく手を取った。
「とりあえずこの騒動が収まるまでだ」
「えぇ。再び婚約者に戻りましょう」
頷きあう二人。
この新たな婚約が成婚につながるまで、後二年……。
読了ありがとうございます。
乙女ゲーム的なイケメンがフリーになったらそらそうよ。
この後周りの目を誤魔化すためにいちゃいちゃしてたら、段々演技じゃなくなるやつです。
形だけの関係に本心が絡んできて、でもお互いに(相手は本気じゃないんだし……)ってやきもきする展開が好きです。
そのままトラブルを乗り越えて結ばれるのがもっと好きです(力説)!
さて名前ですが、スターツ・クオは『現状維持』を意味する英語 status quo から。
公爵家令嬢アズィー・ティーズは『そのまま』を意味する英語 as it is から。
そのまんまでもいいじゃない
よっぱらいだもの
つよし
お楽しみいただけましたら幸いです。
続編を書きました。
『婚約破棄したら大変な事になったので、周囲に仲良しアピールせざるをえなくなった王太子殿下(18)』
https://ncode.syosetu.com/n0734ig/
甘々です。
こちらもよろしくお願いいたします。