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子分との出会い 2

エピローグ後と過去話。プロムス視点。

全3話です。

「やあ、はじめまして。私はフィーギス・ビドゥア・マクローラ。第一王子さ。君が代行人だね? 会えて嬉しいよ」


 ラズと過ごすようになってから一週間。代行人用の食堂で昼食を食べていると、やたらキラキラした同年代の男が入って来た。


 最近食事を摂るようになったからか、まだ皮と骨だけだが多少肌色は良くなったラズは、外皮が剥かれた白パンを食べながら、こてんと首を傾げる。


「フィー……何?」


「フィーでいいよ。昼食中にすまないね。先日先触れを出したのに誰も来ないから、ついこんな所に足を運んでしまったよ」


「嫌味な奴だなぁ」


 バケットサンドを咀嚼しながら行儀悪くジトリと睨め付ける。が、気にした様子はなくキラキラした笑顔を放っていた。まあ、先触れを出して出迎えもなしなら、そうなるだろう。


「知らないけど。――――王が忘れてたって」


「王とは王鳥様の事かい? はは、忘れられて悲しく思うよ」


 わざとらしくガックリ肩を落としているが、多分イラッとしているのだろう。それも仕方ないと思う。


 ふと、王子と言っていたので嫌な予感がし、アミーを見る。が、アミーは綺麗な王子をぼんやり見ているだけだった。王子に恋をする本なんていくらでもあるが、アミーはそうならなかったらしい。


 当然だ。アミーにとっての王子はプロムスなのだから。そう思って得意げな表情をフィーギスと名乗った王子に向ける。王子は笑ったまま首を傾げていたが。


「おーじ様がオレの子分になんの用だ?」


「そこはかとなくおじ様みたいな呼ばれ方をされた気がするが、気のせいだと思っておくよ。……私は王族として王鳥様の声を直接(たまわ)る事が出来たから、人間と大鳥様の調整役を担う事になったと手紙を送ったはずなのだけれどね?」


 ラズを見ながらそう言う王子は、常に笑みを浮かべているが、内心笑ってない嘘くさい笑みを浮かべる奴だなと思った。無駄に難しい言い回しをするが、なんとなく年下な気がする。


「そういうの『ちゅーかんかんりしょく』って言うんだろ? 一番苦労する立場だって、知り合いのおじさんが言ってたぞ」


「ははは、嫌だなぁ。光栄に思いこそすれ、苦労なんて思う訳ないではないか」


 ――その言葉はすぐに撤回する事になるのだが、まだ知らぬ事である。


「ふーん? なあ、おーじ様。おまえ、いくつだ?」


「ずっと黙っていたのだけれど、君はどの立場の人なのかな? 君みたいに接してくる人は初めてで、私は大いに戸惑っているのだよ。ちなみに九歳になるけど」


「へぇー、ラズと同い年でオレの一個下か。んじゃ、おまえもオレの子分な! オレはプロムス。よろしくな、フィー」


「子分っ⁉︎」


 ここでようやく笑顔の仮面を取り外せたので満足だ。


 王子としてどんな苦労をしてきたのかは知らないが、ずっとあんな表情を浮かべていたらしんどいと思う。

 とりあえず自分の子分であるうちは、普通に子供らしくさせてやろうと思った。王子だろうが息抜きする場所くらいはあってもいいだろう。


「ロム、王子様まで子分にするのはどうかと思うわよ?」


「だってフィーがここに来たのは今日が初めてじゃん。オレは一年も前から居るし年上なんだから、オレが親分でフィーは子分だ。ラズも面倒見てるんだから、おまえも見る。あっ、ラズ。そのにんじん少しデカいからよく噛めよ」


「ん」


「ええ〜……」


 ――こうしてフィーギスとはこの日初めて出会い、子分その二が出来た。次に来た時はフィーギスと同じ歳の貴族のラトゥスも、子分その三にした。ラトゥスは無表情で頷いただけだから、素直で可愛げのある奴なんだと思う。


 ラトゥスに会った日、プロムスは初めてラズの話を聞いた。憤慨(ふんがい)して王鳥に抗議に行ったが、また強く睨まれて動けなくなっただけだった。ラズに入ってくれないと直接話す事は出来ないが、この王鳥という奴はかなり人間に理解がなくて傲慢な神様だと思う。

 さすがのプロムスでも手に負えなかったので、王鳥まで子分にするのは早々に諦めた。


 そして王子より偉いラズは、オーリム・ラズ・アウィスレックスという偉そうな名前になって、ラズと呼んでいいのは王鳥と、ラズのお姫さまだけという取り決めをした。

 どうも貴族というのは愛称と、伴侶にだけ呼ばせる特別な愛称というものがあるらしい。

 プロムスもアミーとそうしようと思ったが、アミーが涙目になる程嫌がった。アミーとロムという呼び名に思い入れがあるらしい。それもそうかと思ってすぐに諦める。プロムスもアミーも貴族ではないのだ。


 それからはアミーを引き連れてラズ……改め、オーリムの面倒を見つつ、たまに来るフィーギスとラトゥスの世話を焼いた。


 オーリムとフィーギスは王鳥と直接話せるのだが、よく泣かされるので――フィーギスは涙は流さなかったが、明らかに王鳥を怖がっていた――王鳥にその度に抗議して、少しずつだが二人が泣かされる回数が減った。話せないからわからないが、王鳥の態度が軟化したんだと思う。


 オーリムは午後まで相変わらず飯の時間以外は王鳥に身体を乗っ取られていたが、解放されるとどこか人気のない所で泣いていたので、見つけ出して回収し、食事を与えて夜は三人で寝る。腹を壊さず固形物を食べられるようになるまで半年以上、普通の食事を食べられるようになるまでに一年近く掛かった。


 オーリムは焼き魚を丸々出すと嫌そうな顔をする。聞けば元いた場所では食べるものがなく、生魚をそのまま齧り付いてお腹を壊していたらしい。


 ほぐして身だけあげれば普通に食べるので、嫌いという訳ではないようだ。ようするに魚は痛い思いをしたトラウマの象徴なのだろう。


 空腹に耐えかねて変なものを食べるのは、飢えた孤児にはよくある事だ。ここにいる限り飢える事はないのだから、これからは美味しいものをたくさん知って、好きなものを見つけてほしいと思う。今のところ見つけた好き嫌いは、魚の姿が嫌いというだけだった。


 フィーギスとラトゥスはそれぞれ王侯貴族としての勉強がしんどいのかたまにグッタリしていて、そういう日は子供らしい遊びに巻き込んでやったり昼寝させたり、大屋敷内でピクニックみたいな事もやって息抜きをさせた。


 飯が温かいだけで喜んでいた意味は、当時はわからなかったが。


 アミーは相変わらずキャラメル色の大鳥に付き纏われていて、そういう時はすんっと無表情になってやり過ごす事を覚えていたが、何故そうなったのか大鳥の声が聞けないので謎だ。一体何を話しているのか、聞いても教えてくれなかった。


 ちなみにそのキャラメル色の大鳥は何度口説いても全く(なび)いてくれない。アミーと同じ色を持つのだから将来的にアミーと同じくプロムスを好きになるクセに、素直じゃない奴だ。――そう言うとみんなに変な顔をされたが。


 そんな調子でまた一年を過ごし、プロムスとアミーは正式に雇われて食券ではなく給料を貰うようになった頃、突然オーリムがここに来て初めて目をキラキラと輝かせて、興奮気味に報告しに来た。


「ロム! 俺、勉強して強くなって、王子になってお姫さまをここに迎える!」


 アミーと久し振りに一緒に――正式に雇われてから別の仕事を割り当てられる回数が増えたのだ――野菜洗いをしていた顔を上げ、その少し要領を得ない会話を必死に考える。


「色々わかんねーけど、リムは姫さんと結婚したいのか?」


「う、うん! 結婚する!」


 そう言うと照れくさそうに笑っていたから、頭を撫でてやった。急にどうしたと思ったが、とりあえず生きる目標が出来てよかったと思う。


 姉気分らしいアミーもプロムスの真似しようとしたが、オーリムは結婚するからアミーが触るのは禁止だと言い聞かせて、拍手だけさせた。お年頃なのだから、アミーが触っていいのはプロムスだけで、アミーに触っていいのはプロムスだけなのだ。


 その日からオーリムは王鳥に習って勉強を始めた。子分が勉強を頑張るならプロムスも親分として頑張らないといけないし、ついでに教会に勉強を習いに行かせていないアミーも巻き込んだ。

 王鳥に教えてもらった事をオーリムがプロムスとアミーに教える形になったので、実質オーリムに教えてもらうような感じになったが、気のせいだろう。子分は親分に報告義務があるのだから、これで何も問題はない。

 そして当たり前だがアミーはついていけないようで、プロムスが読み書きから教えたので少しだけ遅れをとっていた。けど必死に追いつこうと勉強する気になっていたので、よかったと思う。


 勉強と同じく強くなると決意していたから、プロムスが最近し始めたように鳥騎族(とりきぞく)の訓練を受けるのかと思ったが、これも王鳥から槍を中心に習っているらしい。オーリムの人見知りはアミー似なようだ。


 得物が違うし、代行人とただの人間であるプロムスでは身体能力が違うので、これは別々に頑張る事にした。

 将来的にはキャラメル色の大鳥と契約する事が確定しているので、それが成ってから手合わせしてやろうと思う。その日が来たら少しでもオーリムより強くなければならないので、プロムスも訓練には身が入った。


 そうやって使用人としての仕事をしながらオーリムの真似をするように勉強、武術、礼儀作法まで学ぶようになり、身体も成長期に入りフィーギスとラトゥスも学園に入学し始めた三年後。


 プロムスが十四歳、オーリム、フィーギス、ラトゥスが十三歳、アミーが十二歳になったある日、ずっと探していたオーリムの姫をようやく見つけたらしい。オーリムがこの大屋敷に来て四年が経った頃の出来事だった。


 王太子であるフィーギスと貴族であるラトゥスは勉強がより高度になったり学園があったりと多忙を極めているらしく、情報を渡すだけ渡して帰って行った。

 また無茶をしてないか心配になったが、次来た時にうんと休ませてやればいい。もう子供らしく遊びまわる事はなくなったが、温かい食事と昼寝くらいはさせてやりたいと思った。


 それよりも今は姿絵もない、ただの調書を泣きそうな目で見ているオーリムだ。三年の間に泣き虫は卒業したはずだが、感極まっているらしい。目標が現実に近付いて嬉しいのだろう。


「よかったな、リム」


 そう言ってくしゃくしゃ頭を撫でてやれば、王鳥も真似をして(くちばし)で髪を()いていた。この王鳥もここ四年で人間をようやく理解したのか、だいぶ優しさが出てきたと思う。いい変化だ。


 オーリムは顔を上げ、本当に幸せそうな笑顔で大きく頷いた。


「ああっ!」


 ――その表情を見て、これから先はこいつも幸せになれるのだろうと信じて疑っていなかったのだ。きっと明日からは弾けるように笑って、代行人をやりながら人並みの人生を送れると思っていた。


 オーリムの語る姫がどのような人物か、オーリムの美化したイメージでしかわからないが、そいつも子分にすべきなのだろうか。

 最近は色々勉強した甲斐があって、どうしても身分というものがあり、決して崩せないものだと理解した。

 フィーギスなんて将来国王になる為にプロムスを押しのけて率先して皆を引っ張ろうとしているし、ガキ大将もそろそろ引退して、見守り役にでもなるべきなのかもしれない。その方が世話を焼きやすいだろう。


 まあオーリムの姫が訳ありなら、みんなと同じように世話を焼いてやればいい。……この時まで呑気にそう思っていた。


 だから翌日、一切の表情と目の光を削ぎ落としたオーリムを、信じられない気持ちで見る事しか出来なかったのだ。


「……ロム。俺、お姫さまをここに連れてくるのはやめる。お姫さまはここに来てはダメだ。……ここではないどこかで、幸せになってほしい」


 そう言ったオーリムの状態は、姫を求めて泣き暮らしていた四年前より、ずっと酷い有様だった。




プロムスと殿下達との初邂逅。

プロムスは『訳ありの子供』を放っておけない主義です。

王鳥も人間の子供の姿だったらプロムスの世話焼き対象だったのですが……。


地味に特別な愛称について初出しです。元はたまたまでしたが、せっかくなのでそういう文化にしました。

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