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子分との出会い 1

エピローグ後と過去話。プロムス視点。

全3話です。

『おまえも男なんだからさー、いい加減泣きやめよ。な?』


『ひっく、う、うるさいっ、あっちいけ!』


『よっと。うわー、おまえかっるいなー。ちゃんとメシ食えてなかったのか?』


『なっ⁉︎ お、おろせよぉっ!』


『ハンカチ、ちゃんと洗わないと汚れがおちなくなるわ。ロム、まずはあらい場』


『りょーかい。んじゃ、しゅっぱーつ!』


『おーろーせー!』


 大屋敷に昨日やって来たのは、夜空のような綺麗な色をした新しい王鳥と、それと全く同じ髪色を持っている、ずっと泣いている泣き虫なチビだった。


 孤児院にいた頃から大勢の子分を従えていたのだから、当然そのチビだって今日から子分なのだ。




            *




 プロムスがこの大屋敷に来たのは九歳の頃。


 以前は島都外れの孤児院にいたが、見上げた上空に将来の奥さん確定のアミーの髪と同じキャラメル色の大鳥を見つけ、衝動的に孤児院を飛び出し、七歳のアミーの手を引いてやって来た。


 さすがに子供二人だけでやって来た前例はないらしく大人を困らせてしまったが、孤児院を飛び出して帰る場所がないと説明すると、使用人棟の一室と、仕事として下働きをすれば食券と日用品の配布、幼児のお小遣い程度の給金という条件で雇ってもらう事が出来た。今考えてもかなりの幸運だ。


 なお、後日きちんと孤児院に謝りに行かされ、正式に許可を取って大屋敷で暮らす事を許された。大勢の子分の面倒を見ていたので残念がられたが、もっと年上の奴も居るし、どうにでもなるだろう。


 アミーに養子の話が来ていたという話は無視をした。引き離そうだなんて無駄なのだ。これで帰らない言い訳も出来たので、良かったと思う。


 アミーと二人で料理の下拵(したごしら)えや掃除、洗濯などを手伝い、時間があればキャラメル色の大鳥を探す……までもなかった。


 なんとその大鳥を気に入ったのはプロムスなのに、大鳥はアミーを気に入ったのか、めちゃくちゃ近寄って来てアミーにだけ話しかけてきたのだ。

 大鳥に話しかけられたアミーは恐怖でプルプルし、プロムスにしがみついていたのが今思い出してもちょっと可愛い。

 キャラメル色の大鳥に契約を迫るプロムスと、アミーに懐き執拗に契約を迫るキャラメル色の大鳥、プロムスにしがみつくアミーという奇妙な三角関係は、この大屋敷ですぐに有名になった。


 そんな生活を一年続けた頃、王鳥と代行人が亡くなったらしい。と言ってもプロムスは見た事がないので、遠い話だった。


 そしてすぐに新しい王鳥と代行人が決まったらしく、見つけたのがラズだった。

 来た当時は本当に細っこいチビで、アミーより年下だと思っていたが、実際はアミーの一つ上で、プロムスの一つ下だった。今でもそんな馬鹿なと思っている。


 自分達より年下の子は当時この大屋敷にはおらず、中庭の木の影で泣いてるのを見かけたので、即子分にしてやった。


 手に持っていた薄汚れたハンカチを洗濯するからと取り上げると赤子のようにギャン泣きされたが、後ろから抱えて座りながら、アミーが洗うまで取り押さえていた。こうやって泣き叫ぶ子供の相手は孤児院にいた頃よくやっていたのだ。


 アミーもそうだったが、孤児院には様々な事情を抱えて傷付いた子供が多く居たから慣れていた。


 そんな中でプロムスは生後間も無く孤児院前に捨てられただけだったので、比較的幸運な方だろう。


「見てても乾かねーぞ。暇なら手伝え」


 大量にある野菜の土汚れをアミーと二人でゴシゴシと洗い落としながら、ハンカチの下で膝を抱えてじーっと眺めているチビ――ラズだと名乗った――をジトリと睨みつけるも、ラズは泣いて動こうとしなかった。

 こうやって取り憑かれたように同じ行動しかしない奴はよく居たのだ。そんな奴には適当に話しかけて正気を見つつ、無理強いしないに限る。


「っく。でもっ、風に乗って飛んでくかもしれないし、消えてなくなるかもしれないしっ。ひっく」


「飛ばないようにちゃんとしてるけど。……消えるの?」


「うぅ、ひっく。消えちゃやだあぁ」


 そう言ってまたボロボロ泣き出すのだからどうしようもない。泣かせてしまってしょんぼりしたアミーを励ましつつ、仕方ないので離れない程度に側で見守る事にした。

 結局この日のラズはハンカチが乾き切るまでずっとそうやって、目を離さなかった。あれによほど思い入れがあるのだろう。


 ラズがどこの誰だかわからなかったので、アミーとラズの手を引いて使用人棟の食堂までやって来て、プロムスとアミーの分を分けようとしたら、それを見た料理長が一食奢ってくれたうえに、ジュースとデザート、菓子まで三人分くれた。


 部屋に帰るとちょっとしたハプニングがあったが、ベッドでプロムスを真ん中に三人並んで寝た。


 翌朝。ラズは泣き疲れたのか、まだ寝ていたので寝かせておき、アミーと二人で身支度を整えて、今日も朝食の食券を貰う為に野菜洗いをしていると


「おっ、起きたか、ラズ」


「……おはよう、ラズ」


 使用人棟から出て来たラズがさっさと横切ろうとしたので、プロムスはニカっと笑い、アミーは控え目に手を挙げて挨拶をするも、無視してどこかへ行こうとする。

 ポケットに手を突っ込み太々(ふてぶて)しく歩く様子にムッとし、立ち上がって駆け寄り、肩を掴む。


「待てよ、どこ行くんだ!」


「触るな、小童(こわっぱ)が」


 振り向いたラズは昨日とは様子が違い、目を見た瞬間森で猛獣に出会ったかのように背筋が凍った。


 思わず肩から手を離してしまったが、ギュッと歯を食い縛り、負けじとラズを睨み付ける。


「ど、どうしたんだよ、昨日はあんなに泣き虫だったのに。それに、一人でどこ行くんだっ!」


「……ああ、昨日こやつと過ごしたプロムスという奴か。余はラズではないぞ」


「は? 何言ってんだよ、おまえはラズだろ!」


「小僧、代行人を知らぬのか? ラズは余が見つけた代行人で、代行人として仕事をせねばならぬのだが、自主的には何もせぬから、こうして余が動かす羽目になっておるのだ。まったく、使えん奴よ」


「何意味わかんねー事言ってんだ!」


「黙れ、物分かりの悪い人間を余は疎むぞ。余計な時間を使わせよって。とにかく、こやつの身体は夕方まで借りていくからな」


 そう言ってもうひと睨みされると、身体が震えて動けなくなった。その間にラズはどこかへ行ってしまう。

 姿が見えなくなった頃にようやく震えがおさまり、真っ青だった顔は真っ赤になった。よくわからないが、負けたのが悔しかったのだ。


 とりあえず連れ戻そうと追いかけようとしたが。


「ピピー?」


 いつの間にかキャラメル色の大鳥が来ていたらしい。アミーを上から覗き込むように見ていた。

 振り向くとアミーも真っ青で震えていて、慌てて駆け寄り、(なだ)めるようにギュッと抱き締める。


「ピ?」


 キャラメル色の大鳥も、後ろからハグの真似事をしていた。


 ――王鳥との初邂逅(かいこう)はこんな調子だったので、今でもオーリムに乗り移った王鳥と話す時は少し緊張したりする。


 朝食を食べながら近くの使用人に代行人とは何かと聞き、そこでようやくラズの正体と代行人、王鳥の事を知った。世界一偉いと言われてもプロムスにとっては泣き虫のチビで、護らなければいけない子分だ。とりあえず夕方帰ってくるらしいので、それまではいつも通り過ごす事にした。


 そして夕方。今日もお手伝いをしながらアミーに過剰にすり寄っているキャラメル色の大鳥を口説き落とすのに失敗し、ラズが身体を返されて、帰ってくるのを待っていた。


 けれど日が沈みかけても帰って来ず、心配になったのでアミーの手を引き、探しに行く事にした。キャラメル色の大鳥も付いてきた。


 そして日が沈んだ頃。広場で泣いているラズと、その側に夜空色の大鳥を見つけた。なるほど、ラズと同じ髪色で、同じ変な黄色い目をしている。

 その姿を見つけるとキッと睨んで、指を指す。


「おまえが王鳥だな!」


「ピ?」


「朝はラズを持っていきやがって! 身体を持っていくのは仕方ないから許してやるが、ちゃんと飯は食ったんだろうなっ⁉︎ チビは骨と皮しかないんだから、食わねーと死んじまうんだぞっ!」


 それが心配だったのだ。今朝も朝食を食べる前にどこかへ行ってしまったし、それ以降は一切わからない。

 昨日夕飯を食べている時もよほど食が細いのか半分以上残していて――余った分はプロムスが食べたが――、寝る前に腹を壊していた。

 虐待やスラム育ちなどで今までまともな食事をしていなかった孤児の中にも、そうなる奴が居たのだ。だから気になっていた。


「ビー」


「ピピ」


「ロム。このキャラメル色がね、食べてないって言ってるって言ってる」


 王鳥の言葉はわからないので、キャラメル色の大鳥とアミーを介して話す必要があるらしい。色々面倒くさいなと思ったが、今はラズに食べさせるのが先だ。


 今日もベソベソ泣いているラズの手を引いて立ち上がらせ、また王鳥を睨んでおく。


「連れて来て使うならちゃんと面倒見ろ! あと仕事でも朝飯と昼飯の時間は返せ! オレが飯の面倒を見る!」


「……ピ」


「ピーピ」


「仕方ないからそうしてやるって言ってるって言ってる」


「ふん! わかればいいんだ。じゃあ、連れて行くぞ」


 そう言い捨てて、また両手をアミーとラズと繋いで食堂に行く事にした。すっかり遅くなってしまい、真っ暗だ。


 食堂に行くと、ちょうど誰も居なかった。この時間は空いてるんだなと思って注文するカウンターへ行くと、今の時間は料理長しか居ないらしい。


「たいしょー。オレの分減らしていいから、パン粥作ってー」


「わ、私のもへらしていいから」


「なんだ? ああ、昨日の。そいつどうした?」


 小太りの料理長は覚えていてくれたらしく、今更ラズの正体が気になったのか、顎髭を撫でている。というより、昨日は忙しい時間に来たので、尋ねる暇はなかったのかもしれない。


「こいつ新しい代行人なんだけどさー。昨日も半分残して、夜は腹壊してた。今までロクなもん食ってねーんだと思うから、胃に優しいもんから食って慣らさねぇと」


 代行人というとギョッとして、まっすぐ姿勢を正していた。急な奇行にアミーと二人で首を傾げる。


「代行人様であられましたかっ! し、失礼しましたっ‼︎」


「うん? どうした、たいしょー?」


「馬鹿野郎っ! 代行人様はな、国王様より偉いんだぞっ⁉︎」


「それは聞いたけど、ラズは泣き虫のチビじゃねーか。なんでもいいから飯を」


「あと、代行人様をここに連れてくるんじゃねー! 今から代行人様用の食堂に案内するから、おまえらも来いっ!」


 そう言って肩をイカらせながら歩く後ろ姿を、首を傾げながら、また二人の手を引いて付いていく。


「なんなんだろーな?」


「ロム、ラズは国王様より偉い子だからじゃない?」


「アミーはこいつが偉い奴に見える?」


 アミーはラズを見ると、大声を出したのが怖かったのかまたボロボロ泣いていて、でも手に持った昨日のハンカチは使っていなかった。それを見て首を横に振る。


「全然。ほらラズ、私のハンカ」


「アミー。オレの右ポケットに入ってるからそれ使わせろ。アミーのを渡すのは禁止だ」


 何故?と不服そうな表情をして、けれど言う通りプロムスのハンカチを引き出すと、トントンと優しく涙を拭ってやっていた。

 ちょっとラズにイラッとした。アミーはプロムスの奥さんなのに、お世話されるなんて許せない。だから次からはプロムスが代わりに世話するのだ。……仕方ないから今は許してやるが。


 やって来たのは立ち入り禁止の正面棟だった。使用人棟なんかよりよほど煌びやかでアミーと二人で目を丸くしたが、案内された部屋はもっと凄かった。

 室内は広くてシミひとつない綺麗な壁紙に、床はチリ一つないどころか反射するくらい磨き抜かれており、天井から吊るされているのはキラキラ輝くシャンデリアだ。


 今は遅いからか、やたら豪華な長机の上のキャンドルにだけあかりを灯した。


「ここが代行人様の食堂だ」


「ここで一人で食べさせるのか?」


 正直嫌だった。綺麗だけどまるで生活感がなく、一人寂しくここで食事をする光景に薄寒いものを感じる。言ってしまえば寂しそうだ。


「料理長、ここでもいいから、私たちは一緒にラズとごはん食べたいわ。……ダメ?」


 アミーもそう思ったのか、困ったような表情で料理長を見上げる。料理長は腕を組んで難しい顔をし、唸っていた。


「……代行人様、いかがでしょうか?」


「ひっく、うぇ。な、んでもいい、っく」


 まだ泣き止んでいなかったらしい。とりあえず許可はもらったとみなしたようで、深く溜息を吐いた。


「わかった。ただし、おまえらはあっちと同じやつを出すからな? 文句言うなよ?」


「なんでもいいけど、しばらくは食べやすいもんから出すんだぞ。あと朝昼晩アミーとラズとここに来るから」


「微妙に面倒くせー事させるな……。ああ、わかったわかった」


 とりあえず許可はもらえたので、アミーとハイタッチをした。

 ラズは知らなかったらしくキョトンとしていたが、真似させたので良しとしよう。


 ――その日食べさせたパン粥の牛乳で腹を壊し、頭を抱えた料理長はその日から離乳食のような食事メニューを作る羽目になっていた。結果的にプロムス達とは違うメニューと言ってもあながち間違いではなかった。


 代行人様に出すメニューじゃないと嘆いていたが、代行人の前に泣き虫のチビなんだから仕方ないと思う。



 


本日からあまり出番のなかったプロムス視点の過去編です。

ソフィアリアの前と執務室メンバーの前、アミーの前についでにキャルの前と接する人によって態度が全然違うので掴みにくいキャラだったのですが、めちゃくちゃいい奴なのでは……?


契約しないとキャルという名前を教えてもらえないので、しばらくの間はキャラメル色の大鳥と呼んでいました。

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