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恵まれた少年と王鳥

エピローグ後と過去話。


本日1話、来週全3話、再来週全5話で大屋敷内での事中心の過去編+ネタバレ有の登場人物紹介で第一部番外編は終了です。

投稿スケジュールはあらすじをご覧ください。

「カーペットと柱を王様の好きなミルクティー色に、壁紙はリム様の好きなクリームイエローに。模様はセイドベリーと花模様で本当にいいの? 少しファンシーな感じになってしまいそうだけれど」


「ピ!」


勿論(もちろん)。俺も王も好きだし、フィアには似合う」


「ふふっ、ありがとう。クリームイエローと模様を薄い感じにすれば少しは落ち着くかしら? あとはソファは片方はベンチソファで、もう片方は背凭(せもた)れありのソファにしましょうか。ベンチソファで王様と引っ付いて過ごす事が多くなりそうだけれど、念の為横になりたい時とか居ない場合も考えて。デザインは――」


 大舞踏会も終わり、ようやく三人両想いになって数日経った頃。ソフィアリアはオーリムの時間が空いた午後に、結婚後にソフィアリア達が移り住む主寝室のレイアウトを考えていた。


 置いてあった家具も全て移動したらしく、今はガランと何もないので、家具や壁紙、床にカーテンにいたるまで全て一から揃える必要があるのだ。

 長く一生を過ごす事になるので、せっかくだから色々とこだわり抜いてオーダーしようと決めた。春の結婚式までに間に合わせるには、そろそろ最終決定案を提出しなければならない。


「で、ベッドなのだけれど」


「フ、フィアっ! 先に他の家具から決めないかっ⁉︎」


 慌ててそんな事を言い出すオーリムに、思わずジトリと睨んでしまう。真っ赤になって視線を逸らしているが、かれこれ四回目だ。

 一番大きなものになるので真っ先に決めようとしたのだが、この調子だ。いくらなんでも意識し過ぎだと、思わず頰に手を当て溜息をついた。女性であるはずのソフィアリアより乙女な反応は控えてもらいたい。


「……ねえ、王様? このままだと床に寝る事になりそうですね?」


「ピーピー」


「まあ、そうですわね! たとえ無しでも王様が用意してくださった素敵なベッドが……」


「外では寝かさないからなっ⁉︎ あと床もっ!」


 わがままな人である。なら、腹を括って話し合いに応じてほしい。たかがベッドを決めるだけなのだから。


「ビー……」


「――――あれを中に入れるのか? いいけど、その、出来れば普通のも置いて欲しいんだが……さすがに王に見られながらは…………」


「プピィ」


 後半はゴニョゴニョ言っていて聞き取れなかったが、王鳥の巣を部屋の中に運び込む話が出ているらしい。

 まあこの部屋は王鳥も出入りできるように空きスペースが多く、とても広々としているので大丈夫だと思う。部屋にキングサイズ以上のベッドが二つという不思議な光景になりそうだが。


 ――結局オーリムが折れてベッドや他の家具を決めていき、終わったのは夕方近くだった。


 夕飯までにはまだ時間があるので、執務室にお邪魔してお茶でも飲みながら過ごす事にする。

 ソフィアリアが紅茶を淹れると、まるで夜デートの時のように、三人でピッタリ引っ付いてまったりしていた。


「あれだけでよかったのか?」


「最初は殺風景なくらいでちょうどいいのよ。置き物はね、長く住んでいると、だんだん思い出と一緒に増えていくの。旅行先で買ったお土産とか、誰かからもらったプレゼントとか。最初から物がたくさんあって充実したお部屋だと、入れ替えて捨ててしまったり、しまっておいたまま結局出さないって事になってしまうでしょう? そんな事になってしまうのは悲しいもの」


「そうか。うん、だったら少しずつ増やしていきたい」


 目を細めて心の底から幸せそうに笑うオーリムに、ついドキドキしてしまう。とても照れ臭くて、でも幸せで、思わず王鳥に深く(もた)れかかった。王鳥はそんなソフィアリアの髪を(くちばし)()いてくれる。なんて幸せな時間だろう。


 ふと思い出という単語で、聞きたい事があったのを思い出した。


「ねえ、ラズくん。ラズくん達はこの大屋敷でどんな風に過ごしていたのか、詳しく聞いてもいい?」


「ここで?」


「ええ。あの夜に少し聞いたけれど、詳しくは聞かなかったもの。王様やみんなとどんな風に過ごしていたのかとか、よかったら聞きたいわ」


 そう言ってオーリムの肩にも(もた)れかかる。ピクリと肩を震わせて、おずおずと肩を抱き寄せてくれた。


「別にいいけど、俺は情けないし、王は結構ろくでなしだぞ?」


「あら、そうなの? ふふっ、知りたいわ」


「ビー」


「嫌ったりしませんよ。……聞かせてくださいな、お二人の事を」


「そうだな――――」




             *




 オーリムがここに来たばかりの頃は、泣き暮らしていると言っても過言ではなかった。ソフィアリアに謝りたくて、元の場所に帰りたくて、毎日王鳥にそう訴えていた。

 大体午前から午後の半分くらいまで、飯の時間以外は王鳥に身体を使われて仕事を(こな)し、解放されれば人目のつかない所に隠れて泣いていたのだ。


『ええい、毎日毎日しつこいわっ! そなたは代行人なのだから帰さぬと言うてるであろう。何度も何度も同じ事を言わせるでないっ!』


「だったら帰せよっ! せめて、あのお姫さまに謝りに行かせてくれよっ‼︎」


『……今行くとややこしい事になるから会わせられぬ。今はお互い堪える方が、そなたらの今後の為よ』


「そんなの知らないっ!」


『ほう? ならば、見た目も前と全然違うラズをあの姫がわかると思うてか? 赤の他人がラズのフリをしてると誤解され、余計に嫌われたら? もしくはラズが他人に謝りに行かせたと思うてガッカリされるやもしれぬな?』


 くっくと意地悪く言った言葉に絶望して、また更に泣き出す。


 今思えば王鳥はソフィアリアもショックを受けていると知っていたのだろう。あの時のソフィアリアにまともな話を聞いてもらえるかわからなかったから、どちらかが立ち直るまで距離を取らせていたのかもしれない。


 ――と言ってもお互い泣く羽目になった元凶は王鳥だし、ソフィアリアなら見た目が変わってもラズだとわかってもらえた気がするが。


 それでもラズではない少年をソフィアリアの不注意で殺してしまった事実があるから、ラズを見て辛くなり、お互い会うのが気まずくなる可能性もあっただろう。

 そう考えれば、距離を取ったのは正解だったのかもしれない。そんな事、当時は知る(よし)もなかったが。


 そうやって泣いていると、仕事を終えたプロムスがアミーを伴ってやって来て、王鳥にオーリムを泣かせるなと叱ってからオーリムを回収し、三人で夕飯を食べ、一緒に寝るというのが日々のローテーションだった。来たばかりの頃のオーリムは、プロムスとアミーに面倒を見られていたと言ってもいい。


 まあ、アミーに面倒を見てもらうとプロムスに凄く睨まれて、オレがするとか言ってすぐ交代していたが。


 フィーギスやラトゥスが大屋敷に様子を見に来ると、プロムスとアミーに連れられて、遊びに巻き込まれたり昼寝をしたり、大屋敷内でピクニックのような事だってやった。

 そうやって子供らしく過ごさせて、少しでも息抜きをさせたかったのだろう。オーリム、フィーギス、ラトゥスは特に子供のうちから子供らしく過ごすなんて事してこなかったから。あの時間だけが、五人が子供らしく過ごせるひとときだった。


 その時の王鳥は様子を遠くから眺めているだけだった。側に行くとオーリムが帰せと泣くから、気を遣っていたのかもしれない。


 最初はそんな一年を過ごし、オーリムがソフィアリアをここに迎えると決意してからは、自分で王鳥に教えてもらいながら仕事を(こな)してみたり、勉強したり、槍の訓練をしたり。そうやって忙しく過ごしていた。


「なあ、王。これってどういう意味だ?」


『詳しく知りたければ五百年ほど前の歴史を紐解けばよい。資料は書庫にあったであろう?』


「……別にさらっと知りたいだけだが」


『余がそれを許すと? はっ、甘えるでないわ。ヒントはくれてやったのだから、自力で答えを見つけよ。……ああ、褒美に姫の昨日の様子を教えてやらぬ事もないぞ?』


「本当かっ⁉︎ わかった、すぐ調べてくるから、約束は守れよ?」


『あーはいはい。まったく、卸しやすくて楽な奴よのぅ』


 王鳥はたまに過激になるが、教えるのは案外上手で、飴と鞭の使い方もなかなか上手かった。ヒントを与え過ぎず、自力で見つける事を促し、解決出来れば褒美だってくれる。(もっぱ)らソフィアリアの様子が飴だったが、ちゃんと褒めたり撫でたりだってしてくれたのだ。


 オーリムはプロムスと王鳥、少しだけアミーの三人に育てられたようなもので、フィーギスとラトゥスにはたくさん助けられた。そしてなんといってもソフィアリアの存在が、心の支えだったのだ。


 スラムの孤児が随分と周りに恵まれたものだ。オーリムはそうやって周りのみんなのおかげで、ここまで生きてこられた。


 王鳥も最初は高みから圧政を敷くタイプで、押さえつけて無理矢理言う事を聞かせる傲慢野郎だったが、オーリムや周りの様子を見ながら態度を軟化させて、優しく導く手法を学んだらしい。今では随分と優しくなったと思うし、ソフィアリアが来てからは尚更だ。


 まあ最初の方にやらかしたせいで当初の印象が拭いきれず、まだ怖いやつと思われている節はあるが。言葉遣いがキツくて説明が足らない王鳥が悪いと思う。


 そしてソフィアリアを諦めると決めた頃は、随分と周りに迷惑をかけていた。今思えば申し訳ないかぎりだ。

 その辺りからはアミーと会う事は稀になっていたが――多分プロムスが傷心からうっかりアミーに惚れないように遠ざけていたんだと思う――、プロムスは鳥騎族(とりきぞく)になる夢は諦めて、淡々と毎日を過ごすようになったオーリムの世話を焼く為に侍従を目指し始めたし、フィーギスとラトゥスにはたくさん心配をかけてしまった。本人だって勉強が本格化して毎日多忙だっただろうに、気を使わせて悪かったと今なら思える。


 そして王鳥とはまた毎日のように喧嘩をした。ソフィアリアを迎える迎えないで連日口論になっていたが、今思うと無理矢理連れてこないあたり、色々配慮したのだろう。

 あの時にソフィアリアに婚約の打診なんて強行していれば、ソフィアリアも、フィーギスも、あらゆる所に悪影響を及ぼしたはずだ。まだ持ち直す途中だったセイドや立場がぐらついているフィーギスなんて、潰されていたかもしれない。


 そしてソフィアリアのデビュタントをきっかけにして、今があるのだ――



 

            *




「そう。ラズくんはみんなに助けられてここに居るのね」


「ピ」


「ああ。俺は自分を不幸だと思っていたが、今は随分と恵まれた環境にいたんだなって思えるようになった。だからこれから、少しずつでもいいから恩返ししなきゃなって思う」


 そう言って微笑みながら、過去を想って遠くを見つめる横顔はとても大人っぽかった。

 相変わらず照れ屋だし、たまにズレている所もあるが、こうして三人で両想いになって、少し周りを見回す余裕が出てきたのかもしれない。そうだったら嬉しいなと思う。


 きっとオーリムはこれから日々成長して、より魅力的になっていくのだろう。


 ソフィアリアも、そんなオーリムが欠片も他所に目移りしないように、自分を磨いて王鳥とオーリムを支えて、たくさん好きだと伝えなければなと気合いを入れた。


「でもラズくん、アミーとそんなに仲がよかったのね? わたくしより先に一緒に寝ていたなんて、とっても妬けてしまうわ」


 頰に手を当て、ふーっと溜息。ベッドを決めるだけで大慌てしていた先程の時間はなんだったのか。

 そう言えば慌てるかと思ったが、渋い顔をされてしまった。


「……最近思うんだが、フィアはたまに俺で遊ぶよな」


「あら? そう思う?」


「そのくらい気付く。まあ、フィアになら別にいいけど。一応弁明しておくと、真ん中はロムで絶対隣に寝かされなかったし、俺が十一歳になる頃には一人で部屋で寝るようになった。だから一緒に寝起きしていたって感覚が薄い。……アミーは俺にとってロムを通した姉って感じだな。間には絶対ロムが居て、二人きりになった記憶すらないけど」


 どうやら昔からプロムスはアミーを側から離さず、囲い込んでいたらしい。そのあたりは今と変わらないんだなと思って微笑ましくなった。


 それにしても、アミーと二人で話している所すらあまり見た事がないから、姉のような存在だったと聞いて驚きである。


「ふふっ。アミーの方が小さくて年下なのに、お姉様なのね?」


「昔はアミーの方がデカかったからな。というより、俺が小さかったんだと思うが。だから見下ろす位置にいるのが違和感ある。……昔の泣き虫だった俺の印象が強いのか、アミーは俺にまだ世話を焼こうとするし、イジられる。扱いが軽いんだ」


 それは初耳だと思ったが、そう言えばここに来てアミーと初めて話した日、さっさと行ってしまったオーリムより先にソフィと呼んで仲良くして欲しいとお願いした時に、どこか悪戯っぽい雰囲気を出していた事を思い出した。

 あれはオーリムに向けていたのか。プロムスを介して先にソフィ呼びを許されて仲良くなった自慢でもしたのかもしれない。そう思うとくすくすと笑えてしまった。


「いいお姉様ね?」


「まあ、兄貴分のロムを介してだけどな」


「ピー」


「……確かに王も兄と言えなくもないが、王は俺の半身だろ」


「プーピ」


 えへんと胸を逸らしている王鳥が微笑ましくて、オーリムと二人でくすくすと笑う。

 情けなくて酷いなんて言っていたが、過去のお話を聞いて、ますます二人の事が好きになったソフィアリアだった。




本日より過去編です。

基本的に他キャラから見たオーリム中心のお話になります。メイン3人の中で全貌が明らかになっているのが彼だけなので。


三人で両想いという謎ワード。

本編で全く接点なしでしたが、オーリムとアミーも昔馴染みです。というか誰かさんが独占欲丸出しにしなければ、アミーも執務室メンバーでした。

序盤でアミーが不思議な反応をしていた言い訳もようやく語れました。

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