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猫耳と監視の目

「認められない二夫一妻1」でダイジェストで飛ばされた頃のお話。ソフィアリア視点。

 夏の季節の中頃から、その視線に実は気付いていた。



 

「――では、わたくしが乾杯の音頭をとらせていただきますわ。いつも難しいお勉強についてきてくださってありがとうございます。これからの皆様のご活躍をお祈りして、乾杯!」


「「乾杯〜!」」


 音頭をとると近くの人とグラスを打ち鳴らし、中身を(あお)っている。みんないい笑顔だったので、ソフィアリアも大満足だ。


 秋の季節に移った初日の夜。ソフィアリアは大屋敷で働く女性の参加希望者を募って飲み会というものを開催してみた。

 場所は大屋敷内の温室だ。いつもは筆記用具や本が並べられている卓上も、今日はお酒やジュース、紅茶などの飲み物や、軽食やスイーツ、おつまみなんかが所狭しと並べられている。

 特に女性の集まりというだけあってスイーツ類の数が多い。ソフィアリアが主催という事で、料理長を中心に料理人がそれはもう張り切ってくれたのだ。今はお礼に何をすべきか考え中である。


 ちなみに本日はオーリムが多忙な為、夜デートは中止だった。事前にそう言われていたので、かなり急になってしまったが、こういう席を設けてみたのだ。


「はい、王様。あーん?」


「ピ!」


 こんな日だろうが背中に引っ付いている王鳥にソフィアリアが作っておいたクッキーをまずは食べさせる。王鳥は女性でも男性でもないので参加OKという事でいいだろう。


 ついでにソフィアリアの隣にはアミーが座っていて、王鳥の隣にはキャルが真似をしてアミーに引っ付いている。


「ピピー! ピーピピーピ! ピーピーピー‼︎」


 食べさせてもらっているのを見たキャルが必死になっておねだりしていた。


「うるさい」


 そう言いつつも、皿からクッキーを一枚掴むとキャルに食べさせてあげるのだから素直ではない子だ。微笑ましくてつい頬が緩んでしまう。――食べさせた物が、アミーがうっかり炭化させた失敗クッキーだとしても、大鳥に味や見た目なんて関係ないのだから嬉しそうだ。本人がいいならそれでいいと思う。


「でもみんなの私服って見慣れないから楽しいわねぇ」


 グラスを片手にそう言ってみんなを見渡し、くすくす笑う。何人かはイメージがガラリと変わってなかなか面白く、その人の好みも見えてくる。


「わかります! 何気にアミーってめちゃくちゃセンスいいわね。しかも結構質がいい服着てるしっ!」


 度数の高いらしいワイン片手に勢いよく食いついてきたのはやはりオシャレなモードだった。顔が赤いのはもう酔っているからなのか、好きな話題に興奮しているからなのか。


 だが言われたアミーは首をこてりと傾げて、猫のような目をパチパチさせているだけだった。


「……そうなんですか?」


「いや、自分のでしょう⁉︎」


「はぁ……ロムが買ってきた物なんで、詳しくは知らないんです」


 そう言ってピーチパイを頬張っていた。目元が揺れているので、実は私服が質のいいものと知って動揺しているのかもしれない。


「アミーちゃんによく似合っているし、さすが旦那さんの見立てって感じね〜」


「ふふっ、愛されてるのね?」


 パチフィーと二人でふわふわと微笑ましげな視線を送っていたら、だんだん赤くなる顔を誤魔化すようにグイッとグラスの中身を(あお)っていた。

 ますます赤くなるところを見ると、お酒はあまり強くないのかもしれない。


「ふっふっふー。アミっちが可愛いのは服のせいってだけじゃないんですよー?」


 ニンマリと悪戯(いたずら)な目をしたベーネは立ち上がると、アミーの側に寄り、そして――


「あっ! ちょっとベーネ!」


 シュルリとシニヨンを解いてしまった。慌てて手で押さえようとするも、くしゃくしゃと髪を混ぜてしまったので、もうどうしようもない。髪はすっかり下ろされてしまった。


「……あら?」


 髪の長さは背中まであったんだなと思っていると、頭頂部にぴょこんと二つの山が出現する。思わずまじまじと見ていると、アミーは赤くなってプルプルしていた。


「まあ! まあまあっ!」


「あらあら、猫さんみたいね〜」


 ソフィアリアは突然出現した猫耳ヘアに魅入り、両頬を手で覆って大興奮していた。言いたい事はパチフィーが引き継いでくれる。


「それ、どうやってセットしたのっ⁉︎」


 モードまで大興奮だ。たしかに、どうすればこんな髪型が出来るのか不思議だ。せっかく可愛いのに、シニヨンを作る為に後ろに引っ詰めてしまっているのがもったいない。


「……ただの癖毛なんです……」


「そうなの? 可愛らしい癖ねぇ」


「……あまり嬉しくありません……」


 プルプル真っ赤になっているところをみると、どうもコンプレックらしい。せっかくこんなに可愛いのにと思いつつも、あまりしつこく言うのもどうかと思ったのでほどほどにしておく。とりあえず、目に焼き付けようとじーっと見つめた。何故かキャルが対抗して二人で見つめる羽目になったが。


 とうとう机に突っ伏して顔を隠してしまったので、このくらいでいいだろう。これ以上は失礼だ。――既に充分失礼だが。


「前から思ってましたけど、ソフィ様ってイケメンより美少女の方が食いつきますよねー」


「そうかしら? でも、言われてみればそうかもしれないわね。殿方をじっと見る訳にはいかないし、その点同性なら遠慮なく愛でられるでしょう? それに、カッコいいより可愛いの方が好きよ」


 そのあたりは教育の問題だと思う。


 あと、ソフィアリアは一番最初のお友達が猫のぬいぐるみだったので、なんとなく猫目の人に惹かれやすいのだ。猫目のオーリムとか猫目に猫耳まで付いていたアミーについ構いたくなるのはそのせいだった。


 ――それから入れ替わり立ち替わりで女性陣と色々なお話が出来て、お料理もお酒も美味しくてとても楽しい時間を過ごせたように思うし、もっと仲良くなれた。

 次はオーリムも連れてきて、男女混合のこういった席を設けるのもいいかもしれない。単純に距離を縮められるし、独身の方だと出会いの場にもなれそうだ。


 夜も()けてきたし、そろそろお開きの雰囲気で、片付けようかとみんなで席を立った頃だった。


「ピピー?」


「どうかしましたか、キャル様? ……あら?」


 さっきまで起きて会話を楽しんでいたはずのアミーが机に突っ伏して寝てしまっていた。顔が赤いので飲み過ぎたようだ。……と言ってもグラスを一回変えただけだったと思うが。


「ピー……」


「ふふっ、ダメですよ。そっとしておきましょう? お片付けが終わったらプロムスを呼んできますから、もう少しだけお待ちくださいませ」


「ピ」


 魔法で背に乗せて家に連れ帰ろうとしていたので、やんわりと止めておく。アミーは飛ぶのをまだ怖がるようなので、途中で起きたら大変だろうと思ったのだ。

 お皿や余った料理、酒類を寄せ、持って帰りたい人には持って帰っていいと言えば、洗い物以外は綺麗に片付いた。


 ここから先は自分達でやるからと皿洗いや掃除の手助けを断られ、お礼を言ってプロムスでも呼びに行こうと思ったら。


「失礼致します。アミーが寝てしまったと聞き、迎えにきました」


 ちょうどプロムスがやって来たので驚いてしまった。


「まあ! 今から呼びに行こうと思っていたの。誰かが行ってくれたのかしら?」


「いえ、キャルからですよ。ちょうど仕事が片付いたので、このまま連れ帰りますね」


 そういえば鳥騎族(とりきぞく)と契約した大鳥は離れていても会話できるんだったなと思い出した。


 プロムスは軽々とアミーを横抱きに抱え、キャルと話すと、キャルは先に行ってしまった。部屋に先に帰って待っているのだろう。


「お家まで送るわ。両手が塞がっていたら、扉を開けられないでしょう?」


「しかし」


「いいのよ。少し夜風に当たって酔いを覚ましたいもの。さあ、行きましょう?」


 有無を言わさず先を歩くと、諦めてついて来てくれる。王鳥は外を一緒に歩いてくれるつもりなのか、先に玄関へと向かって行った。


「ごめんなさいね、アミーがこんなに弱いならもう少し控えさせるべきだったわ」


「いえ、限度は弁えていたはずですから。多分、楽しかったんじゃないでしょうか」


 そう言って見上げたプロムスはアミーを嬉しそうに見ていたから、黙って聞き役に徹する事にする。


「こいつ、人見知りが酷くて、友達と言えるのも長年ベーネくらいでしてね。けど、最近はソフィアリア様を中心に他の女性の名前も出てくるようになって、楽しそうなんですよ。今度街に遊びに行くって約束までして。……ここの引きこもり筆頭で、私が連れ出さなければ、出たがらなかったんですがね」


 目が合ったプロムスが浮かべていた笑みの奥に、嬉しさと、強い嫉妬心を感じる。

 夫として、長年連れ添った幼馴染として、自分がなし得なかった事をたった一季でやってみせたソフィアリアが妬ましいという所か。


 ソフィアリアはそれから目を逸らす事なく、まっすぐ受け止める事にした。


「ふふっ、アミーはこの大屋敷で過ごす事が好きだったのね。初耳だわ。……わたくしは誰彼(だれかれ)構わずに話しかけるし、一番側に置いているアミーにも会話に巻き込んでしまうから、それで気軽に話せるようになったのなら嬉しいわ」


 と言いつつ、半分わざとだ。アミーに限った話ではないが、人見知りでなかなか打ち解けられず孤立している子を見ると、本人が一人を切望していない限り、ついお節介を焼いてしまう。気が合いそうな人を見極めて縁を繋ぐのは結構得意だった。


「プロムスは女性とは距離をとっているから、アミーの友達事情に介入出来なくても仕方ないわ。……それとも、やっぱり自分とキャル様だけのアミーじゃなくなって寂しいかしら?」


「……いえ」


「ふふ、嘘付かなくていいのに。独占したいって気持ちは悪いものではないもの。そのくらい大好きだって事だから、誤魔化す必要はないのよ。まあ、行き過ぎるのはどうかと思うけれど、絶対二人のところに帰ってくるのだから、温かく見守ってあげてね?」


 少し説教臭いかなと思ってそろそろ口を閉じると、チラリと盗み見たプロムスは苦痛を耐えるような痛ましい表情をしていた。


 やってしまった感と、別に気にする必要はないのにという苦笑い。

 プロムスは本来面倒見が良く、()()()()仕事は向いていないのだ。嫉妬心だけで向いていない仕事をさせるのは無理がある。


 ならいっそ、全部ぶちまけてしまった方が気楽かもしれない。


「ねえ、プロムス。お願いがあるのだけれど、いいかしら?」


 玄関の扉を開ける前に身体ごとプロムスの方を向き、深く微笑んで見せる。


 プロムスは目を見張り、だがそんな表情を人の良さそうな笑みで隠して、首を傾げた。


「内容にもよりますが、とりあえずお聞きしますよ」


「難しい事ではないわ。プロムスはそのまま一歩引いた所でずっと、わたくしの事を監視していてほしいの」


 唇に人差し指を当て、そう言い切る。彼は大きく目を見開き、困惑と焦りを隠す事が出来ずに動揺していた。


「あのっ、何のお話で……?」


「ごめんなさいね。わたくしが怪しい事ばかりするから、嫌な仕事をさせてしまって。でも気にしなくてもいいのよ? 必要な事だもの。あなたは引き続きわたくしの事を見張って、きちんと報告しに行ってくださいな。これがわたくしからのお願いよ」


 そう言うとますます硬直するので、申し訳なく思った。


 夏の中頃だっただろうか。そのあたりからプロムスからの視線を感じる事が増えた。

 アミーがいい方向に変わって来ているので恩義でも感じているのだろうか?と適当に流していたが、どうも違うらしい。

 では何か言いたい事や不満でもあるのかと思ったが、なかなか言ってこない。プロムスはきっぱりしているので、長々と内に秘めるような事はしないだろう。


 となると、あとはもう監視の(たぐ)いくらいしかない。そしてソフィアリアはそうされる理由に大いに心当たりがあった。プロムス本人というより、その裏に誰かいて、その誰かなんて考えなくてもわかる。


 フィーギス殿下もプロムスに密偵なんて向かないとわかっているだろうに、酷なことをするものだ。たしかにプロムスはソフィアリアに懐柔される事はないが、基本的に情に熱いので、こそこそと怪しんで監視する事に罪悪感がわかない訳がないのだ。


 特に最近は、アミーに料理を教えたり、友達が出来るよう仲介役をかって出たり、最愛の奥様が楽しく過ごし、夫婦とキャルの三人が幸せになれるよう手助けをしていた。これは知らない時から色々していたので、いまさら途中放棄も出来ない。そうするとますますプロムスは己のしている事に罪悪感を覚える。酷い無限ループではないか。


「……わたくしね、自分で言うのも何だけど、結構人から好かれやすい……というより、変に崇拝されやすいのよ。そうすると何をしても笑って許してくれるのだけれど、わたくしだってただの人間なのだから間違えるし、選択を誤る事もあるわ。でもあなたみたいに一歩引いた所から睨みを効かせて、間違えたら遠慮なく止めてくれる人がいれば気が引き締まるの。だからそうやって、罪悪感なんて感じる必要はないわ」


 そう言い切ると、ふーっと深く溜息を吐かれた。


 これで少しは肩の荷を下ろせたらいい。堂々と監視出来るのなら、フィーギス殿下の頼みもソフィアリアの頼みも叶えられるだろう。悪い事は何もない。


「……いいんですか? 私はリムより強いですし、止めると決めたら躊躇(ためら)いませんよ?」


「まあ! 心強いわ。ありがとう、プロムス。でも心配しないで。わたくしは王様もリム様も、そしてフィーギス殿下も裏切ったりしないから。だってアミーにプロムスを恨ませる訳にはいかないものね?」


 そう言うと参ったように苦笑される。別にソフィアリアへの好感なんて上げる必要はないのに、困った人だ。


「なら、そうしてください」


「ええ、もちろんよ。これからもよろしくね」


 ようやくプロムスは心からの晴れやかな笑みを浮かべてくれた。憂いを取り除けたので満足だ。


 なんとも心強いお目付役も出来て、ソフィアリアも周りに恵まれて幸せだと思った。




アミーの秘密とエピローグ1でちょっと出てた監視のお話でした。ついでに前ページで飲み会云々という話を引っ張ってきました。


最近のアニメじゃあまり見かけなくなりましたが(多分)、髪にトンネル出来てる子って90年代くらいのアニメによく居ましたよね。あんな感じだとイメージしてください。


作中であった小話を回収しつつのほのぼの番外編は今回でおしまいです。一部は今後使う為にあえて回収していない話もありますが、大体回収出来たかなと思います。

忘れていたら、またどこかで……!

何気に二部以降の伏線も混ぜてました。


金曜日からはエピローグ後のお話を、過去編と混ぜながら更新します。詳しくはあらすじ?表紙の説明文の下の方をご覧ください。

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