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美味しく食べるには

「認められない二夫一妻1」でダイジェストで飛ばされた頃のお話。ソフィアリア視点。

「おはよう、妃よ。今日は余が迎えに来てやったぞ」


 朝食の時間の為、侍女達に身支度をしてもらったソフィアリアは、扉を開けた途端オーリム――の姿を借りた王鳥に出迎えられ、当たり前のようにヒョイっと片腕で子供抱っこをされてしまった。


「ふふっ、おはようございます、王様。今日はよろしくお願いしますね」


「うむ」


 初めの頃は扉を開けてすぐに出会う王鳥の姿に驚いていたが、こうして抱えられる事を含めてすっかり慣れてしまい、当然のように受け入れられるようになっているなと思った。人間、なんでも慣れるものだなとこっそり遠い目をする。


 王鳥はそのまま歩き出し、食堂へと向かいはじめた。


「そなた、今日は一段といい匂いをしておるな?」


「あら。王様はこの香りがお好きなのですか?」


 最近オシャレ好きな侍女モードの手によって様々なお化粧品を試され、ソフィアリアに何が合うのかを探られているのだが、こうして触れられたのは初めてだ。気に入ったのだろうかと、つい前のめり気味で尋ねるのは仕方のない事だと思う。


 王鳥はニッと笑い、頷いた。


「今までで一番妃に合うな。ベリー系と、ほんの少しバニラも混ざっておるか?」


「ふふっ、正解ですわ。お花の香りよりも、フルーティーな香りの方がお好みなのでしょうか? お気に召していただけたのなら、明日からこればかり選んでしまいそうです」


「うむ。どうせならセイドベリーを使った香水はないのか?」


 言われて記憶を辿ってみた。今はもちろん作っていないと知っているが、過去、そういったものが流通していたという記録はなかったように思う。あったら作って特産の一部として販売していただろう。


「ございませんね。わたくしは香水についてそれほど詳しくありませんし、商会を営んでいる友人に提案してみましょうか?」


「そうだな。まあ、香水にするには不向きかもしれぬが、ものは試しだ。作らせるが良い」


「ええ。友人もきっと新しい可能性に胸躍らせると思いますわ」


 友人がお金の匂いに目を輝かせながら、香水を作っている業者に楽しそうに交渉に行く様が目に浮かぶようだ。セイドベリーを香水にするとどうなるのかソフィアリアも気になるし、手紙に書くのが楽しみである。


 ――後日、提案通りのセイドベリーにほんのりバニラをのせた香水が作られ、王鳥とオーリムがいたく気に入ってソフィアリアの定番となった甘く爽やかなその香水は、王鳥が気に入り初代王鳥妃(おうとりひ)が愛用していた『Sofi・A・Ria(ソフィ・ア・リア)』として後年長く親しまれる事になるのだが、今はまだ誰も知らない事である。


 楽しく話しながら食堂に入り、いつものように椅子に腰掛けた王鳥の脚の間に横抱きにされる。

 王鳥とはこうやって朝食を取ると知られたからか、最近食堂の椅子が、座面が広い椅子に新調されたのだ。その気遣いは嬉しいが、少し恥ずかしい。


 すっかり手慣れた手つきでお互いパンを手に取り、食べさせ合う。


「今更ですが、王様はパン一つで足りるのですか?」


 一口ちぎって王鳥の口元に持っていくと、パクリと食べられる。いつもこうする時、王鳥はパン一つ食べ終わったら気が済むのか解放されるのだが、それだけでいいのかと疑問に思った。


 尋ねてみると目をぱちくりさせ、少し考えるようにして教えてくれる。


「大鳥は食事を必要としないのは知っておるな?」


「ええ。大鳥様にとっては食べるという行為は、主に伴侶とイチャイチャする為の手段の一つで、ただの道楽なのだとサピエ先生に習いましたわ」


「そうだ。ついでに大鳥は空腹も満腹もないから、量は無関係ぞ。そして食べると得られるのは情報だけで、味はわかっておらぬのだ」


 口元にパンを差し出されたのでパクりと食べる。王鳥の言った事をパンと一緒に咀嚼(そしゃく)しようとして、首を傾げた。


「ええと、たとえば今だと、パンを食べたという事しかわからないのでしょうか?」


「くはっ、惜しいな? もっと正確に言えばパンの原材料はどこで、どうやって作られたのか。誰がパンを作ったのか、誰に食べさせられたのかによって、そのパンが大鳥にとって美味いか不味いかが決まるのだ」


 説明された事を脳内で整理して、ならばと思う。


「……世界一のシェフが作って食べさせてくれた一流のお料理よりも、伴侶が作って食べさせてくれた失敗作の方が美味しく感じるという事でしょうか?」


「よく出来たな」


 そう言って優しく笑い、頭を撫でてくれる。その手と向けられた眼差しが心地よくて、思わずふにゃりと表情を崩してしまった。


「だから王様はわたくしの作った物か、食べさせた物しか召し上がらないのですね」


「まあそれ以外にもたまに波長の合う食べ物というのがあるから、それ以外食えぬという訳ではないがな。料理をしない大鳥同士の場合、果物や野菜そのものが纏った気と、育った土地の纏う気の掛け合わせが気に入れば食べる。……このあたりはただの人間である妃には理解出来ぬ感覚よ」


 それには困った顔をして頷く事しか出来なかった。


 大鳥や鳥騎族(とりきぞく)の事を調べると頻繁に出てくる『気』というものがある。ありとあらゆるものがこれを纏っているらしいのだが、人間には察知出来ないものなのだとか。

 大鳥は主にこれを重視していて、鳥騎族(とりきぞく)もぼんやりと理解出来るようだが、説明が難しいと言われた。


「平たく言ってしまえば、食べ物の産地を重視するという認識でよろしいでしょうか?」


「まあ、それでよいだろう。ともかく、伴侶が作り与えられたものというのは、どんなものだろうが大鳥にとっては極上の美味に感じるのだ。此奴(こやつ)の身体だとそう変な物は食えぬが、余の姿だとなんでも食えるから、どんなものでも持ってくるが良い。いっそ食い物でなくてもよいぞ?」


 くつくつと悪戯っぽく笑う王鳥にムッとする。乱暴に口の中にパンを突っ込み、キリッと精一杯眉尻を上げてやった。……ソフィアリアだと何の迫力も出ないのだが。


「もうっ! わたくしが失敗したり食べられないものを、大好きなお二人に食べさせる訳ないではありませんの! 王様にだって、たとえ味はわからなくてもきちんと美味しいものをお渡ししますわ!」


「それで失敗作を処分するくらいなら、余に持ってこいって話なのだがな?」


「そもそも失敗した事なんて片手で足りるくらいですわよ」


 これは本当の事だ。書いてあったり聞いた事をそのまま実行すればいいだけなのだから、そう失敗する事はない。長年の貧乏生活のおかげか、食べられるようにアレンジする事も結構得意だ。食材を無駄にする事なんて考えられないのだ。

 きっぱりそう言い切ると、何が愉快なのかくつくつとおかしそうに笑って、ギュッと抱きしめられた。


「さすがは余の妃だな」


 耳元でその言葉を囁かれ、身体にゾクッと甘い痺れが走る。思わず真っ赤になりながら、不思議な虹彩を持つ目を見つめると、ニンマリ笑ってコツンと額をくっ付けられた。


「その顔は特に()いのぅ」


「……わたくしも、王様にさすがって褒められるのは好きみたいですわ」


「そうか。が、安売りはせぬよ。それなりに頑張った褒美に言ってやるから、せいぜい期待に応えてみせるがよい。……さて、そろそろ食べ終わるし、名残惜しいが此奴(こやつ)と変わろう。またあとでな」


「ふふっ、ええ。また温室でお会いしましょう?」


 そう言って笑いながら最後の一口を与え合い、もう一度ギュッと抱き寄せられると、しばらくそのままの体制で時間が過ぎる。


 聞こえる心音がだんだんと早くなるのを、くすくすと笑いながら聞いていた。


「おはようございます、リム様。よくおやすみになれたかしら?」


「〜っ! 〜〜っ⁉︎」


 声にならない叫び声をあげたのを聞いて、名残惜しいが腕と膝の間から抜け出して立ち上がる。


 自分の席についてオーリムの方を見れば、耳まで真っ赤で大変可愛らしかった。まあ口に出すと拗ねるので、思った事は心に留めておくが。


「おっ、王! だからフィアと朝食を取りたければ前日に教えろって何度も言っているだろっ⁉︎ 起きて早々腕の中にフィアがいる事に平然としていられる程、俺は慣れてないっ‼︎ ――――そういう問題ではないだろっ! 大体――」


 そう言って一人で……正確には、遠くにいる王鳥と二人で言い争い始めたので、(かえり)みられないソフィアリアは一人寂しく朝食を食べ始める事にした。寂しくても泣かないのだ。


 この応酬も毎度の事である。きっと王鳥はこの反応が面白くてずっと黙っているのだろうなと笑みが浮かんだ。


 ニコニコしながら見守って食べていると、オーリムはようやく落ち着いたのか静かに食べ進める。眉根が寄っているあたり、また無理矢理押し切られたらしい。


 ふと、先程の王鳥の言葉を聞いて気になった事があったので聞いてみる事にした。


「さっき王様がね、わたくしが作って食べさせた物はどんなものでも極上の美味だっておっしゃっていたの。もしかしてリム様もそうなのかしら?」


 それが気になっていたのだ。そう言ってくれるなら嬉しくない訳はないが、美味しく作って食べてもらうという醍醐味(だいごみ)がなくなってしまうのは少し寂しいと思ってしまう。


 オーリムは少し考えて、首を横に振った。


「俺は王みたいに気を食べている訳じゃないから、そうでもないと思う。けどフィアの作ってくれたものは、たとえ苦手なものでも食べたいとは思うな」


 少し照れながら言われた言葉が嬉しくて、ソフィアリアも笑顔になる。


「あらあら。ふふっ、嬉しいわ」


 それは惚れた弱みというものだろうか。オーリムに惚れられているかは微妙だが、どんな形であれ好かれてるとはわかるので、そう言われて悪い気はしない。


「ちなみに参考までに、リム様は何か苦手な食べ物はあるの?」


「……生の魚を丸ごと。食べられなくはないが、見た目で少し抵抗を覚える」


「う〜ん、そうなのね。お魚料理はともかく、お魚さんそのものは作れないわねぇ」


「フィア?」


 苦手な物克服作戦は失敗に終わってしまった。生魚丸ごとは、残念ながらソフィアリアには作る事は出来ない。ガッカリだ。

 思わず口に出した事により作戦がバレ、オーリムにはジトリと睨まれてしまった。


 まあソフィアリアはこれからも、二人に美味しいと言ってもらえるような料理を、心と愛情を込めて作るだけである。




久々のオーリムin王鳥と給餌イチャイチャ。

ただイチャイチャさせようと思ったのですが、勝手に設定説明回に変わりました。あれ?


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