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右手と左手

「認められない二夫一妻1」でダイジェストで飛ばされた頃のお話。王鳥視点。

「そういえば君達にずっと聞きたい事があったのだよ」


 執務室にいつもの五人で集まって各々仕事を片付けている最中に、フィーギスが唐突にそんな事を言い出した。

 全員声のした方向に視線を向けると、フィーギスは執務机で書類整理をしているオーリムと、その後ろにいる王鳥を見ていた。二人は同時に首を傾げる。


「なんだ?」


「いやなに。大した話ではなくちょっとした疑問なのだけどね。王もリムもセイド嬢と結婚するのだろう? 自分の妃を誰かと共有するのは嫌ではないのだろうかと思ったのだよ」


『共有とは、絶妙に嫌な言い方をするのぅ……』


 ジトリと睨んでやったが、飄々(ひょうひょう)と笑っているだけだ。特に訂正する気はないらしい。


 王鳥の答えは決まっているが、返答は腕を組んでどう説明しようか悩んでいるオーリムに任せてみる。オーリムの気持ちがわかるプロムスも少し悩んでいるようだった。


「逆にセイド嬢の気持ちの方はわかるのだけれどね。複数人のパートナーを出来るだけ平等に、偏らないように愛するというのは心構え一つで出来る。誰かにときめきを感じたら、全員にときめける場所を探す。安らぎを感じたら、安らげる場所を探す。人格者と苛烈とか極端な性格をしていない限り、そうやって気持ちを平らに(なら)すというのは案外やれるのさ。まあ、そういう役割だからと割り切る必要があるから、それを純粋な愛と呼べるのかは疑問だけれどね」


「なんだそりゃ。オレは無理だけど、政務で共闘担当、癒し担当とか役割分担ではダメなんか?」


「悪くはないけどオススメしないかな。自分にないものを別人に求めていると妃同士が嫉妬して揉める。そもそも、王族みたいな重婚出来るパートナーに下手な独占欲を抱くくらいなら、結婚自体を見直した方がいいんだけど。まあ私は側妃は絶対娶らないし、マーヤにも愛人なんて認めないけどね!」


 胸に手を当てて堂々と言い切る。人間の王族は本当に面倒だなと呆れたような視線を向けた。


 そもそも王鳥には、人間の王侯貴族が何よりも重視するのが血統というのが理解不能だ。先祖代々同じ血が流れていようが所詮は他人。優秀な親の子が優秀とは限らないのだから、無意味な事にこだわるなと思ってしまう。

 だからフィーギスの言うように、役割だからと愛情の形を無理矢理捻じ曲げてまで重婚する習慣を理解出来ない。そもそも義務で好きでもない誰かと結婚し、血を次代に繋ぐという行為自体が意味不明だ。


「……セイド嬢は何故そんな帝王学じみた覚悟まで備えているのだろう?」


「ふむ。それは私も気になるけどね? まあ、簡単には教えてくれないのだろうけど。ほんと、妙に気を惹くのが上手いご令嬢だ」


「フィアは俺と王が居て手一杯だ。フィーの入る隙間はない」


 嫉妬心丸出しでキッと鋭く睨み付けるオーリムを見て、他の三人はどこか安心したように笑う。妙に生暖かい視線を向けたられたオーリムは睨むのをやめ、居心地悪そうにソワソワしていた。


「……なんだ?」


「いやなに、リムに活力が戻ったようで安心しているのだよ。春先までの君は、それはもう酷いものだったからね」


「セイド嬢との仲も順調なようで何よりだ」


 そう言われて、どこか複雑そうな表情をしていた。順調と言えば順調なのだが、このオーリムはまだソフィアリアに愛の言葉一つ返してやれていないのだ。まったく、本当に何を無駄に考え込んでいるのやらと呆れたように溜息を吐く。


「というか、そう思うくらいなら独占欲がない訳ではないのだね?」


「当たり前だ。むしろ俺と王は人一倍強い自信がある。フィアを誰かと共有なんて考えたくもない」


『誰かの横槍なぞ欠片も許すつもりはない。当然であろう?』


「でも実際、王とリムで共有しているではないか」


 その指摘にオーリムは考え込んでいた。なかなか自分の中の感覚を伝える言葉が思い浮かばないらしいが、ポツポツと思うがままに語り始める。


「……俺と王が別人だという意識がそもそも薄い」


「というと?」


「それぞれ別の人格があり、自分の意思で動いているという自覚はもちろんある。けど、なんだろうな……。感覚として、どこか同一人物だって思っている節もあるんだ。俺が好きな物は王も好きで当たり前で、俺の物は王の物でもあるし、逆もそうだって思ってしまう。……少し説明が難しい」


 ぐしゃぐしゃと髪を掻き回したので、手慰みでその髪を(くちばし)()いてやる。けれどオーリムに嫌そうに押し退けられた。


「オレはわかるぜ、その気持ち。多分大鳥様と契約しなければこの感覚は難しい。サピエさんは身体能力の強化や魔法の行使を含めて、一種の暗示や洗脳の類なんじゃないかって話していたな」


「能力強化や魔法が使えるのは、暗示や洗脳で済む話か?」


「人間にとっては未知の魔法はともかく、人は案外思い込みだけでなんでもやれるものなんだよ。それこそ、さっき話していた複数人を平等に愛するというのもそうさ。自分は大鳥に選ばれて力を与えられたという万能感が身体能力を向上させたと言われれば、多少は納得するけどね。で、どうなんだい?」


 フィーギスにそう問われたが、ニンマリと目を細めるだけで沈黙を返した。


 大鳥の研究者は今までたくさん居たが、サピエはああ見えて一番核心に迫っている。それは大屋敷に出入りし、鳥騎族(とりきぞく)に選ばれ、代行人が自分の意思を持ち、史上初の王鳥妃(おうとりひ)が選ばれたという恵まれた環境下にあるというのもあるが、単純に発想が斬新なのだろう。


 人間に教えてやるつもりはないが、実際大鳥と契約するという事は、それに近い事をやっている。

 まず声を届ける為に、人間に大鳥の気を少しだけ馴染ませる。声を届けるまではそれでいい。

 契約が成立すると人間の身に大鳥の気を完全に染み込ませる必要があるのだが、人間は(もろ)いのでそのままだと自我が潰れてしまうのだ。だから大鳥は契約した人間の内部を弄って耐えられるように作り変える。

 そうすると意思は契約者のままで、半大鳥半人間という存在が出来上がる。身体能力が上がるのはそうやって大鳥が作り変えるからだ。


 魔法の行使もそうなのだが、気を感じられない人間には魔法の才能がないので、使える力量は人間でいう大鳥の爵位というものに依存する。まあ、使えなかったものを微かにでも使用出来るようになるのだから御の字だと思ってもらう他ないだろう。


 そうやって契約した大鳥に存在を作り変えられるから、自分は作り手である大鳥と同一の存在かもしれないというある種の錯覚を覚えるのだ。作り変える過程で契約者の気を大鳥の内部に取り込むから、契約した人間の気持ちが大鳥に伝染する。好みを共有するとはそういう事だ。


 ただし、全てではないのだ。お互いに共有しない部分を残しておかなければ弱い人間は自我が潰れ、見た目は人間でも中身は大鳥という歪な存在が出来上がって面倒な事になる。まあ、この辺りは人間に説明しても理解出来ないと思うので知る必要はない。


 たまに大鳥が認められない人間を鳥騎族(とりきぞく)が伴侶に選ぶのはそういった理由だ。その場合、人間は大鳥か伴侶かを選ぶ事になるのだが、ここで伴侶を選べば人間から大鳥の気を抜く為に、また契約者を作り変える必要がある。

 完全に契約前の姿に戻す事は不可能なので、人間を模倣した何かという妙な存在が出来上がるのだが、人間は気を感じられず、見た目さえ人間であれば誰もその事に気が付かないので誤魔化せていた。


 それを誤魔化せないのが大鳥だ。大鳥がそうしたとはいえ、その人間を模した何かを大鳥は受け入れられない。だから伴侶と別れたとしても、この大屋敷に入る事も、再契約を結ぶ事も不可能になるのだ。


 大鳥と契約するという事は自我を保ちながら存在の再構築といっても過言ではないが、人間は他とは違う生き物を迫害する傾向にあるので教えてやらない。契約出来たと単純に喜んでおけばそれでいい。どうせ人間では真理に至る事は不可能なのだから。


「……沈黙か。いいよ、わかっていたさ。王はそう簡単に答えを教えてくれないからね。……話を戻すけど、自分達は同一の存在であるという意識が根本にあるから、二人でセイド嬢を共有しているつもりはないという事かい?」


「ああ」


『仕方ないから教えてやるが、人間にもわかりやすく言うと余とラズは同じ人間の右手と左手なのだ。両腕は確かに違いがあり、バラバラに動かす事が可能だが、同じものを右手は好いて左手は(いと)うなんて事ないであろう? 例えば伴侶に右手で手を握るのは好きだが、左手で握られるのは嫌だと言われると何故だと疑問がわく。どちらも好きになって欲しいと思うだろうて。その感覚が一番近いかもしれぬな』


 適当に思いついた事だが、案外わかりやすくていいのではないだろうかと思わず自画自賛した。オーリムも納得しているようだし、今度から説明を求められればそう答えればいいだろう。


「なるほど、王とリムは同じ人間の右手と左手という感覚なのだね。ああ、確かに見た目も多少の違いはあるし、バラバラに動かす事も可能だが、左右の手に好みの違いはないし、どちらも対等に扱ってほしいと思うね。そう言われてなんとなく理解したよ」


『うむ。まあ独占欲はないが、利き手というものはある。だから自分を優先して欲しいという気持ちだけは変わらず残っておるけどな』


 くつくつ笑ってやると、心当たりのあるオーリムは渋面を作っていた。オーリムがソフィアリアにやっていない事を先に王鳥がやると怒るのは、これが原因だろう。


 王鳥は譲ってやる寛大さを持ち合わせているが、たまに先を行ってやりたくなる。それは二人の前に立たねばならないという使命感(ゆえ)なのか、オーリムの反応が愉快からか。もしくは、ソフィアリアに一番に見てもらいたいという欲も少なからずあるのかもしれない。


 元々ソフィアリアに先に目をつけたのはオーリムだ。だからある程度二人を見守るポジションに落ち着くつもりだったのだが、気が付けば王鳥自身もソフィアリアに夢中になってしまっていた。恋愛とは、なんともままならない。


「左右の手な。まあ気持ちはわからなくないが、なら、なんでうちのキャルはああなんだ?」


 腕を組み首を傾げるプロムスを見て微妙な顔を浮かべてしまった。たしかにキャルはプロムスの妻であるアミーに夢中で、契約者であるプロムスには関心が薄い。だからかは不明だが、プロムスはキャルに振り向いてもらおうと必死になっていた。

 右手が左手に関心が薄いのも必死に気を引こうとするのも不思議といえば不思議なのだが、この二人には少々禁忌に抵触しそうな秘密があるのだ。今代限りは見逃したが、もう二度とこんな真似はやめてほしいと願うばかりだった。




番外編1作目の『二人の旦那様』の対になるようなお話と、今後の伏線てんこ盛りな話でした。何故番外編でこれをやった?


右手左手とはちょこっと本編でも王鳥が言っています。二人の関係を説明するのにこれが一番わかりやすいかなと思いました。

だから旦那様二人でもセーフという事にしておいてください(小声)


鳥騎族について、それは洗脳か?と思う怖い事を言っていますが、王鳥は洗脳程度の事と思ってます。人間に知られたらマズいとは理解しつつ、怖い事だとは思っておりません。だって神様だから……。


プロムスとキャルの秘密については、アミー含めた三人のスピンオフにて。多分碌でもないよ!

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