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鳥騎族の練習試合

「認められない二夫一妻1」でダイジェストで飛ばされた頃のお話。ソフィアリア視点。

 カラッと陽の光が容赦なく照りつけるとある日。ソフィアリア達は大屋敷別館の裏手にある、広大な広場に来ていた。殺風景なここは、地面が剥き出しで木も何もない。

 そんな広場の周りには今、武装した鳥騎族や彼らと契約した大鳥、そして見学者など人が集まっていた。


「こんにちは、クム様、グラン隊長。今日は晴れてよかったですね」


 ソフィアリアはまず見知った大鳥と今日の催し物の責任者にそう声を掛けると、大柄な二人は振り向き、ニカっと豪快な笑みを浮かべて応えてくれた。


「ソフィさんじゃないすか。今日は見学で?」


「ピピ」


「ええ、勿論(もちろん)ですわ。だって未来の旦那様が参加するって聞いたんですもの。かみさんとしてはぜひ見ておかないと、ですね」


 口元に手をやって楽しみを隠しきれない表情で笑う。グランも目を細めて笑ってくれ、彼の大鳥であるクムも手を差し出せばすりすりと擦り寄ってくれた。


 今日は鳥騎族(とりきぞく)の練習試合がある日だ。彼らは国に所属する騎士や兵士ではないが、国を護る武人である事には変わりないので毎日のように訓練をし、武を極めんとしている。

 そのモチベーションを維持する為に一季に二度ほど、こうして大掛かりな練習試合を開催しているらしい。順位に応じて贈答品(ぞうとうひん)の他、特別休暇権が与えられたり、食堂の食券が貰えるようだ。

 そしてなんと言っても上位に勝ち抜ければ注目を浴び、女性にモテる。ほとんどこれ目当ての人が多いのではないだろうか。

 鳥騎族(とりきぞく)はこの大屋敷だとそれだけでモテるらしいのだが、契約した大鳥にも認められなければならないので伴侶探しは大変なのである。


 それに、鳥騎族(とりきぞく)は身体能力が人外レベルにまで跳ね上がるので、派手でカッコいいのだ。

 それを見に休暇中のメイドを中心に使用人や下働きの人。鳥騎族(とりきぞく)関係者や希望者など様々な人が見物に来る。


 あと娯楽の少ない大屋敷での貴重な催し物だ。このあたりはもう少しなんとか出来ないかなとソフィアリアも思っている。今度オーリムと相談してみようか。


「ピ!」


「あら、王様」


 二人と話していたら側に王鳥が姿を現した。思わずパッと明るく笑うと王鳥も目を細めて笑みを返してくれ、ソフィアリアの手をスリスリしているクムを押し除けて、自分がそのポジションにおさまる。それには困った様子で笑う事しか出来ない。


「もうっ! 横入りはダメですよ?」


「ビー」


「わがまま言うな、王」


 もう一人、別館の方から現れた人物にも同じように愛情を込めてふわりと笑みを向けると、目を微かに見開いて、照れ臭そうにやんわりと笑みを返してくれた。


「こんにちは、リム様」


「あ、ああ……」


 ポリポリと頰を掻く。そんな様子を見て、後ろのプロムスも声を殺して笑っていた。


 ちなみにプロムスの大鳥キャルはいち早くアミーに駆け寄って既にじゃれている。いつもながら微笑ましいアミー愛だ。肝心のアミーはスンッとした無表情だが。


「代行人様とプロムスは本当に決勝戦から除外でいいんで?」


「ああ」


「俺達、決勝戦まで勝ち抜けると思うんですよね。正式には鳥騎族(とりきぞく)じゃないですし、試合に参加はしますが順位からは除外してください」


 さも当然のように話すプロムスの言葉を聞いて、二人はとても強いんだなと思った。身体能力強化は大鳥の爵位関係なく一定だと聞いたが、王鳥と現在最高位の侯爵位のキャルと契約している二人はやはり特別なのか。まあ二人の努力の賜物かもしれないが。


 時間が来たので、鳥騎族(とりきぞく)の皆様が整列して隊長であるグランが開会の挨拶をする。それを王鳥やオーリムと少し離れたところから聞いていたのだが、一言挨拶を求められて驚いてしまった。

 オーリムがすべきでは? と隣をみるが、オーリムに促されたので少し困惑しつつも前に出る。

 そして緊張を見せないように笑みを浮かべて、立ち姿を正して言った。


「グラン隊長よりご紹介にあずかりました王鳥妃(おうとりひ)であるソフィアリアから皆様に、簡単にではございますが、ご挨拶させていただきます。――怪我をしないように、とは申しません。武器を手に取り、人と刃を交えるという事はある程度危険が伴って当然で、それに立ち向かう皆様の勇気を誰よりも頼もしく思います。どうか今日この善き日に皆様が最善を尽くし、そして結果に問わず全力を出せたと笑顔になれるよう、心からお祈り申し上げております。……皆様、頑張ってくださいませ」


 最後だけ気を抜けるよう(おど)けた表情をして見せ、グッと胸の前で拳を握れば笑ってくれたので、これで良かったのだろう。挨拶を求められるなら事前に相談して欲しかったが、拍手をもらえたので良しとした。

 丁寧に礼をした後、オーリム達のところに戻る。王鳥に頬擦りされて、オーリムに慈しむような笑みを向けられたのでソフィアリアも満足だ。


「もうっ! リム様が行くべきではないの?」


「俺が行くよりフィアが(ねぎら)う方が喜ぶだろ」


「ピ」


 そういうものだろうか。


 グランに名前を読み上げられた四組ずつが、充分なスペースを取って対戦していく。離れた所から人間離れした動きで試合をする鳥騎族(とりきぞく)達に感嘆の息を吐きながら見守っていた。


鳥騎族(とりきぞく)の皆様の身体能力って本当に凄いわねぇ」


「まあな。人間離れした身体能力もそうだが、全然武器を手にした事がない奴でも、鳥騎族(とりきぞく)になれば基礎程度は扱えるようになる。そこから先は努力次第だが、大体弱い奴でも近衛騎士くらいの強さにはなるんだ」


 さらっと言ったが、近衛騎士は騎士の中でも王族を護る為、選りすぐりのエリートである。


 やがてオーリムが呼ばれた。


「ふふっ、見守っているわ。頑張ってね」


「うっ、あ、ありがとう。……勝ってくる」


 照れを誤魔化す為にそそくさと試合場に歩いて行き、途中で魔法で剣を出現させた。思わず頰に手を当て、目をパチパチと瞬かせる。


 試合開始と共に相手に猛スピードで駆け寄り、一振りで相手の槍を弾き飛ばす。相手もその速さに驚いているが、ソフィアリアも色々とビックリだ。

 試合終了と共に戻ってきたオーリムは何事もなかったかのように平然としていて、息切れ一つ起こしていない。


「……お疲れ様さま?」


「なぜ疑問系? うん、まあ疲れてはないが」


「今日は槍じゃないのね」


「剣はあまり得意ではないから、使う練習をさせてもらった」


 なかなか相手泣かせな事を言うなと思いつつ、笑って誤魔化した。広場に視線を向けると、プロムスも同じように剣を一振りで試合を決めている。


 キャルに頬擦りされながらアミーはそれをしっかりと見ていて、他の侍女も鳥騎族(とりきぞく)の勇姿にはしゃいでいるようだ。


王鳥妃(おうとりひ)さ〜ん!」


 と、呼ばれたので振り向いた。そう呼ぶのは大屋敷に一人なので正体はすぐに察する。案の定、サピエがグランと一緒にこちらに向かってきていた。


「お疲れ様でした、グラン隊長、サピエ様」


「さっそく負けちゃったっスけどねぇ〜。まさか一回戦でグラン隊長と当たるとは思わなかったっスよ。おいら、武術はあんまりなのに酷くないっスか?」


「ははっ、悪いな、サピエ」


 どうやらオーリムの試合に気を取られた隙に終わってしまったらしい。見たかったのにと少ししょんぼりしてしまう。


 ――そうやって試合をこなし、順位付けをしていく。オーリムとプロムスはやはり規格外に強いらしく、誰が戦っても、三振りともたなかった。


 それは準決勝で当たったグランも一緒で、三回目の打ち合いの末に剣をへし折るのだから相当だろう。


「お疲れ様、リム様」


「あ、りがとう……」


 一度戻ってきたオーリムの頰に流れる汗をハンカチで拭い、そのまま浮かんでいた汗を拭き取っていく。さすがの連続試合と夏の陽射しで暑くなってきたのか、袖を(まく)ってボタンを一つ外していた。

 顔を拭かれたオーリムは真っ赤になって視線を逸らしていて、オーリムの後ろでプロムスが羨ましそうに見、アミーに意味ありげな視線を投げかけていたが、無視をされていた。


 水分補給の為の短い休憩の後はいよいよ決勝戦。対戦者は予告通りオーリムとプロムスだ。


 オーリムは槍を構え、プロムスも今まで使っていた剣ではなく、身の丈半分以上もありそうな刀身の大剣を構えている。


「まあ! プロムスの本来の得物(えもの)は大剣なのね」


「ええ。大きい方がカッコいいから、だそうですが」


 隣のアミーは呆れたように溜息を吐き、けれど熱い眼差しをプロムスに送っている。その横顔が微笑ましくてニッコリ笑った。


 大会としてはグランが優勝で決定なのだが、代行人とその侍従の試合は珍しいらしく、この場に居る全ての人が二人に注目しているようだ。二人はいつもこの練習試合に参加する事はなかったらしい。――オーリムがソフィアリアにいい所を見せたくて出る事にしたと、先程プロムスがこっそり耳打ちしてくれた。


「――勝負はじめ!」


 二人の審判役であるグランが号令を出すと、オーリムが真っ先に駆け寄る。何度か試合を見て思ったが、オーリムは先行特攻するタイプらしい。


 プロムスはその場でオーリムを待ち構えて、大剣で向かってきた槍を軽くいなし、蹴り飛ばした。

 蹴りが直撃したのが痛そうで、思わずお腹の前で組んだ手にギュッと力が入る。


 蹴り飛ばされながらも槍を投擲(とうてき)するが避けられ、体勢を立て直すと槍を出現させ、プロムスにまた向かっていく。


 今度は近寄る前にプロムスがその大きな剣を軽々と振るって牽制するが、オーリムは跳躍(ちょうやく)し、その刀身を踏み台に上に跳んで素早く後ろに回り込むと、振り向きながら槍を背に打ち付けた。棒の部分とはいえ、とても痛そうだ。


 プロムスは大剣を盾にしてスライドさせ勢いは殺せたようだが、当たった事には違いなく、振り向きざまに遠心力を利用して大きく横薙ぎに振るうも、二本の槍を交差したオーリムはそれを受け流す。いつの間にもう一本出したのか。


 そのままお互い後ろに飛んで距離を取り、撃ち合う。一振り、二振りと武器の応酬を繰り広げるのをアミーと二人、固唾を飲んで見守っていた。


 なんとなくだが、オーリムは素早く攻撃を繰り出すタイプで、プロムスはここぞというタイミングで重い一撃を決めるタイプなのかなと思った。ここに来るまで勝負は即決だったので全然気が付かなかったが、オーリムは身体能力を駆使しよく動き回っている。それがわかるくらい二人の力量は拮抗(きっこう)しているという事か。

 やはり二人の動きは他の鳥騎族(とりきぞく)から頭一つ以上飛び抜けているように思う。どこでも武器を出せて、鳥騎族(とりきぞく)(ゆえ)の身体能力を把握し、持てる力を最大限に行使しているのではないだろうか。……残念ながらソフィアリアには武術の心得はないので、見たままの感想でしかないが。


 二人の試合を見守る観客も独特な熱気に包まれていた。特に鳥騎族(とりきぞく)達からの羨望の眼差しは熱い。キラキラと輝く彼らの表情は、微笑ましいくらいだ。


 やがて大きく横に払ったプロムスの大剣がオーリムの横腹に直撃して吹き飛ばされ、地面に倒れる。思わずあげそうになった悲鳴をなんとか飲み込み、口元に手を当てて必死に抑えた。


「――それまで! 勝者、プロムス!」


 グランが下した判決に、わあっと歓声があがる。プロムスは大剣を地面に突き立て、高らかに拳を上げて歓声に応えると、拍手が鳴り響いた。


 ソフィアリアも拍手をしつつ、直撃した横腹を押さえて地面に寝転んだままのオーリムの元に駆け寄る。


「大丈夫、リム様っ⁉︎」


 冷静を心掛けたが、焦った様な声音が出てしまった。心配なので仕方ないかと諦めて、感情のまま振る舞う事にする。


「ど、どこかお怪我を……あの、骨とかっ……⁉︎」


「このくらい平気だ。俺は頑丈だからな。けど……カッコ悪い」


 はあーっと目元を覆って溜息を吐くオーリムの姿にホッとする。負けたのが悔しいだけみたいでよかったと思った。


 しかし、あんな力一杯振るっていた大きな刀身が直撃しても頑丈だから平気で済ますとは、代行人や鳥騎族(とりきぞく)の身体能力の高さは改めて凄いなとしみじみ思う。


「そんな事ないわよ。素早い動きでプロムスと撃ち合うリム様はとてもカッコよかったわ。はぁ〜、ますます恋に落ちてしまいそう」


「うぐっ。そ、そうか……。なら、まあ、いいけど」


 目元を覆っているのでわからないが、見える顔は真っ赤だ。ソフィアリアも恋に落ちていいのかと、心がふわふわする。


「ビーピ」


「いってっ⁉︎ し、仕方ないだろっ! わかった、もっと訓練に身を入れるからやめろっ‼︎」


 だが王鳥は負けたのを許してくれないらしい。その腕を(くちばし)で執拗に突いていた。そしてスパルタが加速するようだとくすくすと笑う。


 遠くではプロムスがアミーの肩に腕を回して、鳥騎族(とりきぞく)と何か楽しそうに話している。彼は顔が広いのだ。アミーもどこか顔が赤いし、そんなアミーに振り向いてもらおうとキャルは必死だし、あちらも幸せそうでなによりである。


 



 ――この日からグランに誘われた二人は、たまに鳥騎族(とりきぞく)の訓練や練習試合に参加するようになる。

 その様子を見に行くソフィアリアとアミーが二人の姿を見惚れるのを、他の侍女や鳥騎族(とりきぞく)達からは微笑ましく見られていた。




ダイジェストに書いてあったけどまだ触れてなかった鳥騎族と訓練云々のお話でした。

第一部では戦闘がなく鳥騎族そのものが死に設定だったので、戦闘シーンが書けて楽しかったです。

クム様とグラン隊長も久々の登場でした。


オーリムが強いのは王鳥の指南を直々に受けているから、そんなオーリムよりプロムスの方が強いのには理由があるのですが、アミーとプロムスのスピンオフが書けたらなと思います♪

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