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大鳥との交流と鳥騎族誕生

「認められない二夫一妻1」でダイジェストで飛ばされた頃のお話。ソフィアリア視点。

 とある日の昼下がり。ソフィアリアは大屋敷本館の側面、客室棟の前にある広大な広場へとやってきた。


 ところどころ不思議な大きい木が生えている以外は何もない、ガランと殺風景に見えるここでは、大鳥達が思い思いに過ごしている。

 半分は誰かと仲良く遊ぶでもなく単独行動をしており、もう半分は二羽で身を寄せ合ったり遊んだりイチャイチャしている。距離の近さを考えれば、二羽でいる子は夫婦なのかもしれない。


 数は少ないが、ここでウロウロと動き回っている人達は鳥騎族(とりきぞく)希望者なのだろう。歩き回るだけだったり、思い切って声を掛けたりと彼らもなんとか大鳥に見初められようと頑張っていた。そんな彼らには心の中でエールを送る。


 広場にソフィアリアが姿を現すと、数羽の大鳥がさっそく飛んで来てくれた。日傘をアミーに任せふわりと微笑むと、右手を差し出しながら挨拶をする。


「こんにちは、大鳥様」


 そう言うとみんな「ピィ」と様々な声音で返してくれる。王鳥とは違う丸くて黒い目には喜びが見えるようで、より愛しさが溢れた。

 その挨拶だけを聞いて飛び去ってしまう子もいたが、残ってくれる子が大半だ。だからまず、ソフィアリアから見て一番右の子から順番に話しかけていく。


「あなたははじめましてですね。わたくしはソフィアリア。よろしくお願いします。お昼の時間はたまにここに来るので、またお話出来たら嬉しいですわ」


「あら、今日も会いに来てくれたのですね。昨日もらった綺麗なお花はお部屋に飾っているんですよ。ありがとうございます」


「ふふ、昨日木から滑り落ちてましたが、お怪我は大丈夫ですか?」


「ようやくお話ししに来てくれたんですね。いつも遠くから見ていてくれた事は知っていましたよ。わたくしでよければ、またお話ししに来てくださいな」


「まあ! とても立派なひまわりですね。これをわたくしにくださるの? どこに飾らせてもらおうかしらねぇ。ありがとうございます、大鳥様」


「あら、とても美味しそうなヤマモモですね。お店や畑から取ってきてないですか? ――なら、あとで美味しくいただきますね。ありがとうございます、大鳥様」


「ふふっ、あなたはナデナデが本当にお好きですねぇ」


 はじめましての子には自己紹介を。また来てくれた子には前回の様子や遠目で見た話を。


 たまにプレゼントをくれる子もいて、お店や畑から取ってきたものじゃないか確認して、違えばお礼を言って受け取る。

 最初の頃は明らかにお店から取ってきた子もいて困ったが、ソフィアリアと王鳥が言い聞かせたのでもうだいぶ少なくなった。

 ちなみにお店から持ってきた子はお詫びの書状と一緒に返却に行かせる事にしている。大半はそれで済むが、稀に下の検問所に抗議が来るのらしいので、その時は謝罪と買い取りを色をつけて申し出るようにお願いしていた。本当はソフィアリアが行くべきなのだが、許可は下りなかった。色々と嫌な仕事を増やしてしまい申し訳ない。

 一番多いプレゼントはお花だ。一輪(つぼみ)のまま持ってきて、目の前で魔法を使って咲かせるのが大鳥の間で流行っているらしい。最初にそうやって貰った時、褒めちぎったのがみんなに伝わったようだ。


 そうやって一羽一羽丁寧にお話をしていく。目を見れば大体の感情はわかるような気がするので、こうやって交流するのは純粋に楽しいと感じていた。


 終わった頃にはバスケットいっぱいになったプレゼントを、最近ついてきてくれるようになったアミー以外の侍女にお願いして花瓶に生けてもらったり、厨房に持って行ってもらう。食べ物は全ては食べきれないけど、必ず一口はソフィアリアの口に入るようにして、残りは好きなようにお裾分けしていた。


「……本当に、よく見分けがつきますね」


 アミーから感心の声をあげられる。他の侍女の子もうんうん頷いているし、前回雑談でオーリムにも話すと不思議そうな顔をされたのを思い出した。


「毎日見ていればなんとなくわかるようになるわよ。大鳥様も人間と同じようにそれぞれ個性があるもの。認知されると喜ぶのも、人間と一緒ね」


 思い出してくすくすと笑う。領地にいた頃も領民の名前や顔を覚えていると驚き、喜ばれたりもしたが、大鳥にもそれは当て嵌まるらしい。

 名前の代わりに前回会った時の事や見かけた様子を話すと喜んでくれたので、こうして話している間にも観察は絶対怠らないようにしている。元々記憶力には自信があるのだ。


 そんな事をするからか毎回来てくれる子もいて、一部はすっかり友達気分だ。もちろん贔屓する気はないので平等に扱うが、それでも仲良くなれるのは単純に嬉しい。


 広場を歩き回るとそこでも声をかけてくれる子がいるので勿論(もちろん)それにも応える。そうやって大鳥と仲良く話すからか、鳥騎族(とりきぞく)希望者から羨ましそうな視線をよく感じる気がしていた。


 と、今日は少し気になる光景を見かける。


「こんにちは。鳥騎族(とりきぞく)希望の方でお間違いないでしょうか?」


「ぅおっ⁉︎ えっと、はいっ!」


 一人の男性に声を掛ける。ここにいるのだからそうだろうとは思ったが、一応確認しておく事にした。


 何度か見かけた事はあるが、話しかけたのは初めてだ。急に声をかけたものだから相手は驚いていた。

 それはそうだろうが、ただの小娘相手に過剰反応されると少ししょんぼりしてしまう。眉を八の字に下げ、困ったように微笑んだ。


「急にごめんなさいね。わたくしは王鳥妃(おうとりひ)に選んでいただきましたソフィアリアと申します。肩書きは大層なものですが、ただの小娘ですのでそう身構えないでくださいな」


「は、はぁ……」


 ボリボリと困ったように頭を掻いて視線を彷徨(さまよ)わせているところを見ると難しいらしい。まあ、ソフィアリア個人をどうこう思って欲しい訳ではないので、深追いはしない事にした。


 ソフィアリアは男性から遠く離れた場所でこちらを見つめる大鳥に視線を向けると、コクリと(うなず)く。


「たしか昨日もいらっしゃいましたよね? 昨日からあの子があなたに声をかけたそうにしているように見えたので、どうかなと思ったのです。よかったら一緒に声をかけに行きませんか?」


「えっ⁉︎ ほ、ほんとですかっ⁉︎」


 クルッとソフィアリアの視線を追って振り向くと、ようやくこの男性もあの大鳥を認知してくれたらしい。その表情を見るととても嬉しそうだったので、声をかけたのは正解だったようだ。


 お互いに目が合った事でソワソワし始めた大鳥にゆっくりと近付いていく。


「ふふっ、あの子はとても恥ずかしがり屋さんなんでしょうね。前に一度だけご挨拶をさせていただいた事があるのですが、少しお話ししただけですぐ飛び去って行ってしまったんですよ」


「そうなんですね。……僕とパートナーになってくれると嬉しいのですが」


「あんなに熱い視線を向けるくらいですもの。きっと仲良くなりたいんですよ。あとはあなた次第です。頑張ってくださいませ!」


 グッと胸の前で握り拳を作ると、期待を込めた表情でほわりと笑って頷いてくれた。ソフィアリア達は少し離れた所で立ち止まり、あとは邪魔しないように遠くで二人の様子を見守る事にする。


 向き合って、どうやら何か話しているらしい。思わず隣のアミーの両手をギュッと握ってしまい、他の侍女達からもわあっと声が上がった。


「わたくし、鳥騎族(とりきぞく)誕生の瞬間って初めて見るわ!」


「私も、ロム以外では初めてです」


 無表情ながら目はキラキラしているアミーは、プロムスとキャルが契約した瞬間にも立ち会ったらしい。その話は後日聞き出すとして、今はあの二人に注目する事にした。


 男性が一瞬、大鳥と同じ色の光に包まれる。どの本にも書いていなかったが、あれも契約の証だろうか。そしてふわりと魔法で浮かび上がり、大鳥の首の後ろあたりに(またが)った。


 そのまま静かに空へと飛び立っていく。初めて空を飛ぶ時は選定中とわかりやすくする為に姿を消さないと本で読んだが、どうやら本当らしい。そのまま大屋敷の上空を自在に飛び回るのを、固唾(かたず)を飲んで見守っていた。


 ここで集まっていたからか広場に居る鳥騎族(とりきぞく)希望者達も集まり、二人を見上げていた。その目は羨望が大いに混ざり、どこか眩しそうに二人の結果を見守る。


 しばらく飛んで満足したのか、颯爽と降りてきた。大鳥は充実感溢れる表情をしているように見えた。


 地上に降り立って男性が気を失っていなければ契約は成るのだ。その結果をドキドキしながら見守る。


 男性は大鳥の背から降ろされ、地に足がつく瞬間ドサリと尻餅をついた。その事に驚き、見守るだけにするつもりだったが、思わず駆け寄ってしまう。


「大丈夫ですか?」


 心配で声を掛けると、男性は震えながらも顔を上げた。気を失っていないとわかり、満面の笑みになる。


「ははっ……ええ、なんとか。これで僕も、鳥騎族(とりきぞく)になれたんですかね?」


「ああ、歓迎しよう」


 と、突然ここに居なかったはずの人の声が聞こえる。後ろを振り向くと王鳥と一緒に巡回に出ていたはずのオーリムが背中から飛び降りる所で、鳥騎族(とりきぞく)誕生を察知して帰ってきたのだろうなと思った。


 王鳥は素早くソフィアリアのもとに来ると、いつも通りピタリと身を寄せる。


「おかえりなさいませ、王様、リム様。わたくし、とても貴重な場に立ち会わせてもらったわ」


「そうか。まあ、珍しい事なのは間違いないからな」


 ソフィアリアを見ると柔らかく目を細め、だが仕事中なので表情を引き締めて、今しがた鳥騎族(とりきぞく)になったばかりの男性に視線を向ける。


 男性は初めて見た王鳥と代行人の姿に目を見張り、立ち上がろうとしたけれど、まだ腰が抜けて動けないらしい。酷く焦った表情をしていた。


「そのままでいい。……私は代行人で後ろは王鳥。君達の名と、大鳥の位は?」


 こういう外向きの澄まし顔は久々に見たなと思った。少し威厳を感じる風貌に男性は頷くと、大鳥を見上げた。王鳥を前にしたからか大鳥は先程からビクビクしていて、けれど契約者の視線にはきちんと応えて目を合わせている。


「あのっはじめまして、王鳥様、代行人様。僕はクルスで、彼はティメオ。位は男爵位だそうです」


 大鳥の声が聞けるオーリムがこうして名前と位を聞くのは、きちんと契約が成立したのか確認する為だと聞いた事がある。聞くだけなら自分で聞けるのにあえて尋ねるのだそうだ。


 オーリムは二人の紹介に頷いた。


「ああ。君は鳥騎族(とりきぞく)として就職希望で間違いないか?」


「はい!」


「わかった。立ち上がれるようになったら別館の方に詳しい話を聞きに来るといい。場所はティメオが知っている。……私は仕事に戻る」


「は、はいっ! これからよろしくお願いします!」


 それだけ言うとオーリムは(きびす)を返し、ソフィアリアに淡く笑みを見せて屋敷の中へと帰って行った。


 ソフィアリアは何も言わず、手を振って笑顔で見送る。仕事中に引き留める理由もない。

 背中を充分見送った所でもう一度振り返り、二人にニコリと笑みを向けた。


「改めまして。鳥騎族(とりきぞく)任命おめでとうございます、クルス様、ティメオ様。今日からよろしくお願いしますね」


 そう言ってスカートを摘み、カーテシーをする。大鳥も鳥騎族(とりきぞく)も言うなればソフィアリアの民で、敬意を払うべき相手だ。侍女達もたくさん練習した通り、姿勢良く頭を下げた。


 男性――クルスは照れたように笑い、その場で頭を下げる。


「あの、ありがとうございました、王鳥妃(おうとりひ)様。あなたが仲介してくれたおかげで、僕の夢が叶いました」


「ふふっ、どうか気安くソフィと呼んでくださいな。みんなにそう呼んでもらっているのです。それに、わたくしは仲介なんて出来ませんわよ。ただティメオ様の様子が気になっただけなので、夢が叶ったお礼はクルス様を見初めたティメオ様に言ってあげてくださいませ」


 そう言うとクルスとティメオはお互いに見つめ合い、とても幸せそうに笑っていた。こんな光景が見られただけで充分だ。



 

 これ以降、鳥騎族(とりきぞく)希望者からもよく声を掛けられるようになり、直接の仲介は残念ながら出来ないけれど、大鳥から注目を浴びるソフィアリアに話しかけた人間という意味で大鳥の目に留まる人が増える事になる。


 それによって少々困った事になるのだが、それはまた別のお話――



 


ソフィアリアは大鳥とどのように友好を深めているかというお話と、鳥騎族誕生の瞬間のお話、ちょっと伏線を添えてでした。

王鳥とオーリムは全体を上手くまとめますが、王鳥妃であるソフィアリアは個人(個鳥?個神?)と向き合ってます。

推しの握手会と認知されて喜ぶオタクみたいな感じになってますが、気にしないでください(笑)


鳥騎族はあっさり決まるみたいな感じに見えますが、飛行段階で8〜9割は気絶して脱落しますのでこんな上手くいく事は稀です。風圧も揺れも感じず目に見えない力で固定されているとはいえ、命綱なしで空を飛び回るのは相当怖いと思います。

つまり初見でキャッキャしていたソフィアリアはかなりの変わり者です。

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