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恋する乙女達のお菓子作り

「認められない二夫一妻1」でダイジェストで飛ばされた頃のお話。ソフィアリア視点。

「ふふふ、どう? 似合うかしら?」


 スカートを摘んで笑顔を振り撒き、カーテシーをして見せる。目の前の友人兼侍女のアミーは少し言葉を詰まらせ複雑そうな表情をしたが、パチパチと軽く拍手をして、淡々と賛美をくれた。


「お似合い……と言ってしまっていいのかはわかりませんが、その、お綺麗です」


「お似合いでも嬉しいわよ。ありがとう、アミー先輩」


「アミー先輩……?」


 少し頰を染める可愛らしいアミーの反応に満足そうな笑みを浮かべて、改めて今の自分の装いを見る。

 足首までの黒のロングワンピースと白のエプロン姿は誰の好みなのか、大変可愛いらしいデザインだとずっと思っていた。いつもは前に流している髪も、今だけは邪魔になるので後ろで緩く三つ編みをしている。

 そう、何を隠そうこの大屋敷指定のメイド服姿なのだ。アミーとお揃いになれたのが嬉しくて、ついニマニマしてしまうのは致し方ない事だろう。


「ふふ。着せ替えごっこも楽しいけれど、いつまでもここを占領していては邪魔よね? 早く作ってしまいましょうか」


「そうですね」


 おやつ時の少し前。比較的忙しくないだろう時間を狙った大屋敷本館の正面棟、厨房にて。ソフィアリアとアミーは料理長にお願いをして、お菓子作りをする事にした。

 理由はソフィアリアの夜デートの際、槍の訓練後のオーリムがお腹を空かせている様子だったからだ。作ると約束したので実際に作りに来ていた。

 身体を動かすからとはいえ、夕飯もソフィアリアの倍近くを平らげているのに、お腹が空くんだなと感心する。成長期の男の子らしい食べっぷりだ。


「今日は簡単にクッキーでも作りましょうか」


 おいてある食材や器材は自由に使っていいと言われたが、初めて使う厨房を好き勝手にするのも気が引けるので、まずは簡単に作れて日持ちするクッキーでも作る事にした。食材を眺めて、味はどうしようか考えていると――


「……クッキーは簡単に作れる物なのですか?」


 アミーが言う言葉に、思わずきょとんとしてしまう。視線を向ければスカートをギュッと握り締めて、困ったような顔をしていた。


 ふと、もしかしてと思う。


「お菓子作りはした事がないのかしら?」


「いえ……料理全般、野菜の皮剥きしかした事がありません」


 気まずそうにそう言うアミーに、今度は目を瞬かせてしまった。頰に手を当て、首を傾げる。新婚さんが不思議な事を言うものだ。


「プロムスの方が料理がお好きなの?」


「……私よりましですが、ロムもあまり……」


「毎日のお食事は?」


「ここに来てから毎日、使用人棟や別館の食堂を使っております」


「あらまあ」


 そういえば、大屋敷内の食堂は結構安かった事を思い出した。美味しくて安いのだし、作らなくても困らない環境で育てばそうなるのだろう。それは仕方のない事だ。

 まあこの辺はどちらも働いているのだし、当然なのだろう。料理を作るのだって重労働ではあるし、安くて楽できるのならその方がずっといいと思う。万年貧乏で自炊せざるを得なかったソフィアリアから見れば羨ましい限りだ。


 ふと、少しのお節介がむくむくと湧き起こる。


「ねえ、アミー。お料理はお嫌いかしら?」


 ニンマリ笑ってそう問えば、アミーはその表情と言葉に困惑したような表情を見せた。


「いえ、した事がないだけで、なんとも……」


「だったら一緒に作りましょう? わたくしは王様とリム様の分を、アミーはプロムスとキャル様の分を。お友達と一緒に恋する殿方へのプレゼントを作るなんて、とっても楽しそう!」


 幸せいっぱいと言わんばかりのキラキラした表情で笑えば、アミーは目を見開いて、ボンッと赤くなってしまった。なかなか好感触のようだ。


「っえっ⁉︎ あのっ!」


「プロムスもキャル様も絶対喜ぶわよ。だって可愛いアミーから貰う初めての手作りお菓子だもの」


 あわあわと立ち尽くしているアミーの手を引いて、小麦粉と砂糖、塩、バターを渡す。今ある材料を眺めて、ソフィアリアは考えた。


「プロムスは甘い物はお好きかしら?」


「いえ、あまり」


「お酒はお好き?」


「ええ」


「なら、お酒の(さかな)になる方が喜んでもらえそうね」


 そう言って粗挽き黒胡椒(くろこしょう)とパルメザンチーズ、卵を抱えて台の上に運ぶ。アミーもまだ困惑しながらもついてきてくれた。

 ボウルと軽量用のスプーンを渡すとおずおずと受け取ってくれたので、興味はあるらしい。彼女だってもう結婚したとはいえ、恋する乙女には違いないのだと同志を見つけた気分になり、にっこり笑った。


「お菓子は決められた分量さえきちんと守れば簡単に作れるわ。あとでレシピも渡すから、恋しい旦那様達に喜んでもらいましょうね」


「………………はい」


 視線を逸らし、真っ赤になりながらボソリと言った返事に頷くと、作業に取り掛かる。


 クッキーはお菓子の中でも簡単な方だ。ボウルにバターと砂糖、塩をひとつまみ入れて混ぜ、絡んだところに卵黄を入れ、更に混ぜる。小麦粉をふるいにかけながら入れ、粉状に削ったパルメザンチーズと粗挽き黒胡椒(くろこしょう)を入れて、生地になるまで練る。ソフィアリアは少し堅焼きにしたくて、練る前にほんのちょっと水を混ぜた。

 出来た生地を麺棒で均一に伸ばし、型抜きなりナイフで四角く切り分けるなりすれば、あとは焼くだけである。クッキーしか焼かないのに(かま)を温めるのは勿体ないと感じてしまうので、使用人棟の厨房の(かま)を使わせてもらう事にした。ここはいつでも稼働しているのだ。


 レシピを書いたりお喋りしながら待ち、焼けたら完成である。粗熱を取って冷ましたら、個包装か瓶詰めにでもすれば立派なプレゼントだ。ソフィアリア達は量が多いので瓶詰めを選んだ。

 部屋に戻ってアミーにリボンを押し付け、いかにもプレゼント用という感じに仕上げる。初めて渡すのだから、きちんとした物を渡して喜んでもらえればいい。


「今回は時間がなかったからやらなかったけど、生地になってから最低一時間、出来れば一晩寝かせると、生地がサクサクになってもっと美味しくなるわ」


「勉強になります」


「今回はおつまみ用にしたくて甘さ控えめのチーズクッキーにしたけれど、甘いクッキーのレシピも渡しておくわね。よかったら自分用に作ってみてくださいな」


 コクコクと頷く目が輝いているので、初めてのお菓子作りは楽しんでもらえたようだ。アミーはきっちりしているから、分量通りに作るお菓子やパン作りの方が向いているような気がするけれど、どうにか理由を作って普通の料理も教えてあげたくなってしまう。


 時計を見ると十六時だった。おやつとしては遅い時間だが、アミーが頑張ったのだから、早く渡してあげたくなってきた。なら、行動あるのみだ。

 パンっと手を叩き、ウキウキとした気分でアミーを見る。


「せっかくだし、少しお邪魔して渡しにいきましょうか?」


「えっ⁉︎ いえ、あのっ、帰ったら渡せますから……」


 そうは言うがモジモジしたところを見ると、なかなか渡せないのではないかと察する。幸せを先延ばしするのも勿体無いし、ソフィアリアも渡す現場を見たいという野次馬根性に駆られて行く事にした。

 すくっと立ち上がり、バスケットを持つとアミーの手を引いて部屋から出る。幸い執務室はソフィアリアの部屋から近いのだ。


「あの、ソフィ様……?」


「わたくしもご報告したい事があるの。ふふふ、観念してね?」


「…………はい」


 説得は無理だと諦めてくれたのか、バスケットを取り上げられる。ソフィアリア的には別にいいのだが、主人に荷物持ちをさせる侍女は問題だろうからとお願いする事にした。


 執務室についたのでノックを三回。扉を開けてくれたのはプロムスだったので、外出していなくてよかったと思った。


「ソフィアリア様?」


 ガタリと部屋の中から音がする。オーリムが反応してくれたのだろうかと頰が緩みそうになったが、その前に謝るべきだと思い、眉尻を下げ、申し訳なさそうに微笑んだ。


「ごめんなさいね、お仕事中に先触れも出さずに来てしまって。五分くらいお時間をいただいてもいいかしら」


「どうしたんだ、フィ……フィアっ⁉︎」


 駆け寄ってきたオーリムも顔を出し、けれど思っていた以上に驚かせてしまい、首を傾げる。確かに無作法だったが、そんなにまずい事だっただろうか。


「……お邪魔だったら出直すわ?」


「ちっ、違うっ! ちょうどひと段落したところだから別にいい。けど、その格好は……?」


「格好? ……あら」


 見下ろして思い出したが、そういえば室内ドレスで厨房に立つ訳にはいかないからと、メイド服を借りていた事を今更思い出す。気が急いてうっかりしていた。


「ふふ、ごめんなさい。驚かせてしまったわね? わたくしはアミー達とお揃いで可愛いと思っているのだけれど、あまり似合っていないかしら?」


 スカートを摘んでイタズラっぽくポーズを決めて見せる。オーリムは微妙な顔をしていたが、耳が赤いあたり悪いとは思っていないようだ。


「……メイドの服を似合うと言うのは、その、少し抵抗があるが、変ではない」


「旦那様に気に入っていただけて、大変光栄に存じますわ」


「やめてくれ」


 渋面を作ってしまったので、主従ごっこはあまりお気に召していただけないらしい。少し楽しかったのにとしょんぼりしたら、オーリムが気を取り直すよう咳払いをし、首を傾げる。


「何かあったのか?」


 と、遊んでいる場合ではない事を思い出した。今のオーリムはお仕事中なのだ。時間も勿体無いし、さっさと用事は済ませなければならない。


「わたくしは王様とリム様にご報告を。アミーはプロムスに用事があるのよね?」


 ソフィアリアの背中に隠れるように立っているアミーに視線を向けると、気まずそうに視線を逸らす。顔が大変真っ赤である。


「どうした? 具合でも悪ぃのか?」


 そんな調子だったからプロムスは心配して、慌ててアミーの側に回り込んできた。そうやって逃げ道を塞いで、勤務中だから時間もあまりかけられないとわかっていながら、わざとやった。我ながらなかなか意地が悪いものだ。


 やがて意を決したのか、大きく深呼吸してバスケットからクッキーの瓶詰めを取り出すと、プロムスに押し付けるように渡す。クッキーを押し付けられたプロムスは意味がわからないのか、ぽかんと呆けていた。


「ソ、ソフィ様に教えていただいて作ったのっ。こ、小腹が空いた時にでも、食べれば、いいんじゃないかしらっ! じ、じゃあ私っ、ソフィ様のお部屋に仕事、残してるからっ!」


 ギクシャクと搾り出すような声音でそう(まく)し立てて、アミーは逃げるように先に部屋に戻ってしまった。否、恥ずかしくて本当に逃げたのだろう。まったく、なんて可愛い子なのだろうと、二人の様子を眺めていたソフィアリアはくすくすと笑う。本人は逃げてしまったし、少しフォローをする事にした。


「お仕事中に本当にごめんなさいね。アミーがあまり料理をしないと聞いて、だったら一緒に作りましょうって誘ったのよ。もちろん、ここに連れてきたのはわたくしの勝手。プロムスとキャル様の事を想って一生懸命作っている姿が眩しかったから、お節介を焼いてしまったわ。だから怒らないであげてね」


「これを、アミーが、ですか?」


「ええ。あのバスケットの中にはキャル様の分もきちんと用意しているのよ? あんなに嫌がっている様子だけれど、なんだかんだいって大好きなのね」


 ソフィアリアは確かに最初、プロムスとキャルに作ってはどうかと提案したが、もしかしたらキャルの分は聞かなかった事にするのではないかと思っていた。その時は作ってあげるよう言うつもりだったのだが、当たり前のように用意し始めた所を見ると杞憂だったらしい。ソフィアリアが感じた以上に、アミーはキャルの事も大切だったようだ。


 プロムスは瓶の中のクッキーを見つめ、やがてふわりと愛おしげに笑う。初めて見るその表情に、心が和やかになった。


「なあ、リム。早退していいか?」


「……別に構わないが」


「サンキュー。ついでに明日は昼からでいいよな?」


「まあ、いいけど」


 ニンマリと妖しげに笑うプロムスにオーリムはジトリとした視線を投げかけつつ、けれど溜息を吐いて渋々頷く。ソフィアリアはあらあらと呟いて、少し照れて頰に手を当てた。


「アミーはああ言ったけれど、わたくしの側でするお仕事は他の侍女希望の子の見守りしかないから、もう連れて帰って大丈夫よ。明日の朝はサピエ様の講義だし、あの子もお昼からでいいわ」


「色々とご配慮感謝致します、ソフィアリア様。では、御前を失礼いたします」


 そう言って綺麗な礼と艶々した笑顔を向け、プロムスはアミーのあとを追いかけた。ソフィアリアはそんな背中を手を振って見送る。


「ロム、結婚式の時みたいな顔してた」


「リム様はアミーとプロムスの結婚式にも参加したの?」


 というか平民が結婚式を挙げる事自体珍しい事だ。まあプロムスは鳥騎族(とりきぞく)でオーリムの侍従だから並以上は稼いでいるだろうし、アミーのドレス姿を見たがる様はありありと想像がつくが。


「ああ、俺が神父役をやらされてな。あとは王とキャル、フィーとラスで小さな式をやった。アミー側は……攫うように連れてきていたから、参列者はいなかったが」


 何気に二人の結婚式はとんでもない顔ぶれだったようだ。アミーに内緒にしてサプライズ結婚式を挙げたようだが、事前に知っていたとして、はたしてアミー側の参列者は緊張せずにいられただろうか。


 それはそれとして。


「リム様の神父様姿、見たかったわ」


「……もう二度とごめんだ」


 本気で嫌そうに渋面を作り、不機嫌そうに腕を組む。それは残念である。


 まあ仕方ない。次の式では主役の一人なのだから、神父役なんてやる暇はないし、ソフィアリア的にも御免被る。彼にはソフィアリアと並んでもらいたいのだ。


「……その、フィア」


 少し見上げたオーリムはあからさまにソワソワしていた。その期待に満ちた眼差しに、ふふっと笑みが浮かぶ。


「美味しく出来たから夜デートにご期待くださいなってご報告に来たの。王様と三人で、今夜も楽しみましょうね?」


 アミーがソフィアリアと一緒にクッキーを作ったと聞き、また先程の二人の様子を見て、オーリムも自分の分のクッキーを期待したのだろう。残念ながらソフィアリアの作った分は夜までお預けだ。


「そ、そうか。うん、楽しみだ。――――王も期待しているぞ、だとさ」


「あらあら」


 少しガッカリして、でも目を輝かせた幸せそうな表情を向けられたから、ソフィアリアも幸せだった。

 そんな表情を見られるなら、これからもずっと旦那様達の為にお菓子を作っていこう。もちろん、恋する乙女仲間のアミーも、ちゃっかり巻き込むのを忘れずに。




本編で話していたお菓子作りのお話にアミーとプロムス夫婦も添えて。というかそちらがメインになっていた気がしなくもない。

アミーとプロムス+キャルの馴れ初めは第二部連載中にでも中編(で済むといいね!)で別タイトルとして連載予定です。


オーリムは仕えられるより仕えたい下っ端気質なので、ソフィアリアにメイドをさせて喜ぶ性癖は残念ながらなかったようです。

あと、メイン三人のお菓子の反応は次回をお楽しみに♪(次回予告)

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