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妃との蜜月

「黄金の水平線の彼方1」の王鳥視点

 むくりと起き上がる。昨夜の事を考えて身悶えていたり絶望感を感じたりと気分の昇降が激しかったせいで寝るのが遅く、疲れが取れていないのか妙に身体が重い。何をやっておるのだと溜息を吐く。


 気分をスッキリさせる為に浴室へと向かい、魔法で湯を出しサッと汗を流す。ついでに身支度を整え、着替え終わった頃に部屋にノックの音が響いた。


「リムー? 起きてるかー?」


 そう言われたので扉を開ける。プロムスを見上げねばならぬこの身体に溜息を吐き、ニッと勝ち気に笑った。


「おはよう、ロム。今日は妃と二人っきりで朝食を摂る。誰にも邪魔されたくないから、全てテーブルに用意せよ」


 そう言うと目を大きく見開いて、ポカンと間抜け面をするのだから面白い。昔はもっとガキ大将を絵に描いたような派手な装いだったのに、今はカッチリ堅苦しい装いをしていてしっくりこない。まあ、わざわざ口出ししてやる事でもないが。


「……王鳥様?」


「二度は言わぬ。しばし待ってやるから、さっさと行くがよい」


 すっと目を細めて圧を放てば、プロムスは少し顔を青くしてきっちりとした礼をする。洗練されたいい角度だ。


「かしこまりましたっ!」


 礼に反して物言いは焦りが見え、あまり美しくないなと思った。この程度の圧、プロムス程の実力があるなら耐え流してほしいものだ。今度鍛えてやろうか。


 ソファで悠然と寛ぎつつ、長くて鬱陶しい前髪を掻き上げ、必要最低限の調度品しかないオーリムの部屋を見渡す。こんな部屋で暮らすくらいならばさっさとソフィアリアと共に主寝室に移り住めばよいものを、オーリムは頑なに拒否をした。


 せっかく三人で寝起きを共にする為の愛の巣だって用意したのに、婚前で、しかも外で寝かせるわけにはいかないと絶対に譲らず駄々をこねる。何故伴侶を得たのに一人寂しく寝なければならぬのだと納得がいかない。

 寝顔を誰にも見せたくないとオーリムが言った通り、誰にも見られぬように天蓋(てんがい)も用意したし、暑さも寒さも感じぬ心地よい温度だって魔法で保つ。シーツもクッションもずっと洗いたての干したてのようにふかふかで、散らした花は心地よい眠りをもたらす効果のある香りと気を放っている。もちろん虫一匹通さない完全防備なのにだ。


 人間のようにそういう欲があるわけでもなし、王鳥の姿で寝起きを共にするくらいいいではないかと思うのに、どんなに脅しても首を縦に振らない。

 添い寝が照れるならオーリムだけは結婚してからでもいいと妥協してやったのに、王鳥とソフィアリアが二人っきりも絶対ダメらしい。オーリムがソフィアリアとまだやっていない事を先にやると拗ねるのだ。(しゃく)なのである程度は先を越させてもらうが、まったく、面倒な奴である。

 最悪強引に引き込んでもいいが、オーリムは盛大に不貞腐れるだろう。追いつめられたり場の雰囲気が整っていれば案外なんでもやれる奴なのに、普段は卑屈で根暗なヘタレだった。


 諦めて、仕方がないから言っている通り二人の婚儀まで待ってやっている。王鳥はそんな横暴を許すほど、優しく寛容なのだ。

 まだあと半年以上は続く独寝(ひとりね)に憂鬱な溜息を吐くと、部屋にノックする音が響いた。


「王鳥様、準備が整いました」


 ようやく終わったらしい。扉を開けて部屋の外に出ると、そのままソフィアリアの元へ向かう事にした。普段オーリムは何故か迎えには行かないのだ。一分一秒でも共に居たいという気持ちは王鳥と同じくらい持ち合わせているクセに、何故こんなどうでもいい所で躊躇(ためら)う必要があるのか。


 しばらく歩いているとソフィアリアも食堂へと向かう最中だったのか、部屋の近くでアミーと歩いていた。向かいからやってくるのが見え、あちらも気がついたらしくニコリと笑う。その自然な笑顔が、王鳥は好きだった。


 ふと、少し悪戯心が湧く。考えてみればソフィアリアと直接話すのはこれが初めてだ。今はオーリムの姿だし、言わなければいつ王鳥だと気付いてくれるだろうか。


「おはようございます、リム様。どこかへ行かれるのですか?」


 当たり前だが一見では見抜いてくれないらしい。まあ、仕方がないだろう。


「フィアを迎えにきただけだが?」


 だからニッと勝ち気に笑ってそう言ってやった。オーリムがやらない表情だからか、ソフィアリアは不思議そうに目をパチパチさせている。近くにいるのに触れ合わぬのが気に食わなくて、膝裏を片手で抱え上げて、ヒョイと人間の子供のように抱っこをしてやった。歩きやすくて触れ合う面積もそこそこ。これから申し分ないだろう。


 突然抱き上げて驚いたのか、目を白黒させ、じっと見てくる。もう気付いてくれたかもしれぬと期待して、でもはぐらかすように前を向いて、堂々と歩く。


「……王鳥様ですか?」


「うむ、早かったな? さすが()の妃よ」


「わかりますわ。表情も雰囲気も、リム様とは全然違うではありませんか」


 そう言って先程よりも幸せそうにふわりと笑った。思わず見惚れそうになる極上の笑みを向けられてとても気分がいい。察しもよくて、素晴らしい妃だ。


「ふふっ。おはようございます、王鳥様。直接お話出来て嬉しいですわ」


 どうやらソフィアリアも直接会話出来る事を嬉しいと感じてくれたようだ。ニっと笑みが深まり、鷹揚に頷く。けれどひとつだけ面白くない。これは、さっさと指摘し直してもらわねばならない。


「余もだ。しかし、その呼び名はいただけぬな? 許す。そなたも王と呼べ。ああ、敬語はそのままでよいぞ。余とこやつ、どちらに話しかけているのか、その方がわかりやすいからな」


「ええ、ええ王様。ではそのようにいたしますわ」


 理解が早くて助かる。オーリムのように変なところで照れて躊躇(ためら)われ、説得なんて無駄な時間を過ごす事は基本的に好きではない。いつでも楽しく幸せにイチャつける事が最優先だ。


「歩きにくくはございませんか? 申し訳ございません、わたくしの代わりに歩かせてしまいまして」


「気にするでない。余がこうしたいのだ。しかしこやつは全然背が足りぬなぁ? 抱え上げてこんなに見上げるようではまだまだよ。まったく、嘆かわしい」


 先程プロムスを見上げた時にも思ったが、まだ成長期真っ只中なせいか、オーリムの身体を借りると人を見上げる事の方が多い。年齢相応とはいえ、それがあまり面白くなかった。


「成長期だから大丈夫ですよ。小さかったわたくしの弟も、たった一季で並んで、追い越して、今ではリム様と同じくらいになりましたもの。わたくしはもうこれ以上伸びないようですし、こうして抱えて、少し見上げるくらいまでには差が縮まりますわ」


「そうか。はよう伸びるよう言っておかねばな」


「ふふっ。言われても言い争いになるだけですわよ。ほどほどになさいませ」


「むぅ〜。余に説教をするとか、そなたはほんとに豪胆(ごうたん)よのぅ」


 思わずジトリと睨みつける。繋がっているオーリムはこのくらい平気だが、フィーギスは口角をヒクつかせる程度には怖いらしいこの表情は、だがソフィアリアにとっても恐怖は感じないらしく、笑顔のまま子供を宥めるように頭を撫でられてしまった。

 ソフィアリアに撫でられるのは好きだ。気分的にも感触的にも心地よく、つい目を細めて身を委ねてしまう。もっとしてほしくて、無意識にギュッと強く抱き寄せていた。


 歴代の王鳥は大鳥のように伴侶を得ていた事がない。それは大鳥とは寿命が違ってしまうせいだ。大鳥は伴侶と寿命を共にするので、王鳥は大鳥とは伴侶にならない。代行人も今までは自分の意思がなかったので当然全員が未婚だった。

 だから王鳥は、こうして伴侶を得た際に感じる多幸感を知らなかったのだ。きっかけはオーリム――ラズと同調した事だったが、今は王鳥として、ソフィアリアを愛しく想っていた。


 大鳥の繁殖は身体を引っ付け合ってお互いの気を馴染ませ合う事なので人間のような欲は一切抱けないが、その分スキンシップが多い。こうして身を寄せ合う事、食糧の食べさせ合いにキス。隙あらばずっとやっていたい事ばかりだ。

 身を寄せ合う以外はオーリムがなかなかしない癖に勝手にやると怒るだろうが、今は蜜月中なのだ。もう必要以上に我慢してやらない。怒ろうが勝手にやるだけだ。


 キスは仕方ないからオーリムの為にもう少し待ってやるが、ソフィアリアは今から食べさせ合いをするのだと知れば、貴族特有の落ち着きを崩して少しは焦ってくれるだろうか? 出来ればオーリムみたいに真っ赤になって照れた顔を見たいとニヤリと企みつつ、抱えたまま二人っきりの罠へと誘い込んだ。




ソフィアリア→オーリムと続いたのでせっかくだから王鳥視点のお話でした。本編でもなかったので新鮮!

ものすご〜く斜め上にセクシー感を醸し出す感じになりました。だって彼は神様だから……(照れ)

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