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覗き行為

「伴侶と婚約者」のオーリム視点。

 ソフィアリアがこの大屋敷にやって来た。


 オーリムは、案内したソフィアリアの部屋の前で言ってしまった言葉と態度はあまりにも酷かったのではないかと、今更執務室で頭を抱えていた。八年振りに会えて、感動と緊張をしていたとは言え、このままだと自分はラズだと正体を明かす前に嫌われてしまうような気がする。オーリムとしても嫌われてしまえば、もう立ち直れる気がしない。


「リムー? 今日こそはちゃんと仕事しろ仕事。ここ数日ソワソワしていて全く手を動かさなかったせいで、溜まりに溜まってんだぞ。だから姫さんが来てくれた初日に、夕飯は別なんて事になるんだ。第一声もアレだったのに部屋の前でもああなんだから、印象最悪だぞ?」


 侍従であるプロムスにそう溜息と呆れたような視線を向けられて、最悪という言葉が胸に刺さる。自業自得とはいえ、何故こうも失言ばかり繰り返してしまうのか。


 それに、オーリムだって初の夕飯くらい一緒に食べたかった。……とはいえ、知らない相手と夕飯を食べるのも億劫なくらい疲れているかもしれないとも思っているのも確かだ。オーリムは馬車で移動する事なんて王城へ行く時くらいしかないが、一時間乗るだけでも辛いのだ。いっそ王鳥に乗って行きたいと行く度に思うし、そんな馬車に揺られながら二日もかけて移動するなんて想像を絶する。

 いっそ飛んでいる間は気絶でもしてもらって、王鳥の背に乗り運んだ方がソフィアリアも楽だったのでは……と妄想しかけて、慌てて首を横に振った。


「……わかってる」


 とりあえず、やらかしを挽回する為にも早く仕事を終わらせなければどうにもならないだろう。それに、明日の夕飯もフィーギス達が来るのだ。さすがに来て二日目で王族と食事を共にするなんて困惑させてしまうだろうからと明日の夕食も諦めていた。だからせめて、明日の朝食くらいは一緒に摂りたい。明後日以降は仕事をきちんと終わらせ、夕飯も一緒に過ごすのだ。


 決意も新たにせっせと溜まっていた数日分の書類を捌き、手を動かしつつも思い出すのはソフィアリアの事だった。今頃部屋で落ち込んでいないだろうか、帰りたいと嘆いていないかと気になってしまい、どうしても手が疎かになってしまう。


 少しだけ……と魔が差し、まだ部屋にいるだろう王鳥と視界を共有する。プロムスから溜息を吐かれるが、少しだけなのだから許してほしい。


 王鳥はやはり、まだ部屋にいるようだった。だがソフィアリアの姿が見えず、王鳥が意図を察してくれたのか下を向いてくれた。が、思わずギョッとしてしまう。


「っ! 王っ‼︎」


「うるせー」


 思わず怒ってしまったが、プロムスに逆に怒られた。ごもっともである。


 ソフィアリアはアミーの身の上話を聞き出しながら楽しく過ごしているようだった。どうやらこの短時間で仲良くなったらしい。これから主人と侍女として長く過ごすのだから、いい事だと思う。……少しアミーが羨ましくあるが、それはいいのだ。

 問題は、王鳥がソフィアリアの背にピッタリと引っ付いる事だ。いきなり何をしているのだと青筋が浮く。


『人間とも気を馴染ませ合えぬか試しておるのだ。難儀ではあるが、出来ぬ訳でもなさそうだぞ?』


 ニンマリと笑みを浮かべていそうな声音に顔を顰める。それは伴侶を得た大鳥同士がやる事ではないか。ソフィアリアが意味なんて知るはずもないが、婚前に一体何をしているのだ。


『大鳥同士よりずっと時間が掛かるからな。それに、余は婚約期間など知らぬ。ここに来たのだから妃はもう余とは伴侶だ。だから何も問題あるまい?』


 大アリだと悪態をついても無視をされた。どうにも説得出来る気がしないので、溜息を吐いて諦める事にする。言い争いなんて、オーリムが勝てるはずもないのだ。


『そう拗ねるでない。妃が余と気を馴染ませられれば、そなたと同じように余や大鳥達と直接話せるようになるのだぞ? 次代の王は余としか話せぬし、世界でたった二人きり、同じ能力を持てるとか、そなたが喜ばぬ筈があるまい?』


 ソフィアリアとオーリムが持つ世界でたった二人きりの能力。その魅惑的な(うた)い文句に、思わず頰が緩む。オーリムの表情を見たプロムスに変な顔をされたが、気分がふわふわしているオーリムは気付かなかった。


『だから明日以降、朝食後から昼食までの間は余と温室で過ごすと伝えよ。よいな?』


「わかった。……ロム。明日から朝食後から昼食までの時間、セイド嬢を温室に案内しておいてほしいとアミーに伝えてほしい。王が今日みたいに過ごしたいらしいと言えば伝わる筈だ」


「りょーかい。んじゃ、オレは定時で帰るからな。今も遊んでるし、リムは徹夜だぞ」


「……わかってる」


 渋々頷いて、仕事に戻る。途中何度か気になってソフィアリアの様子をつい覗き見てしまったが、夕飯前に王鳥が側を離れてしまったので、仕事に集中する事にした。夜になると宣言通りプロムスは帰ってしまい、オーリムが仕事を終えたのは、結局陽が昇る直前だった。

 軽く仮眠をとった後、うっかり早く食堂に来過ぎてかえって気を使わせてしまったり、再三言われたのにエスコートをし忘れそうになったりしたが、待望の一緒に朝食も摂る事が出来てご満悦だ。一緒に食事を摂るだけの時間がこんなに幸せだとは思わなかった。


「婚約者同士の朝の会話なのに、ほぼ業務連絡みたいた話しかしてなかったけどな」


「うるさい」


 上機嫌だったせいか、プロムスに心のうちを読まれてしまう。気の利いた会話を振る事が出来ればよかったが、残念ながらオーリムは話術はからっきしだ。ソフィアリアが会話を回すのが上手いので、つい甘えてしまっている。


 プロムスに書庫から大鳥に関する本を選んでソフィアリアに届けてほしいと頼み、執務室で今日も仕事を(こな)しつつ、今頃王鳥はソフィアリアと引っ付いて楽しい時間を過ごしているんだろうなと考えてしまい、あまり面白くなかった。つい目を瞑って王鳥と視界共有すれば、今日は引っ付くだけではなく擦り寄っていて、更にイラッとする。イチャついていいとまでは言ってない。


『ふはっ。そう怒るでないわ。一番気が馴染みやすいのは何処か探っておるだけの事』


 そうは言ってもくっくと笑うものだから、説得力がない。ソフィアリアも(じゃ)れつかれて嬉しいのか、楽しそうに笑っていた。そんな表情に目が離せなくなる。

 王鳥は肩口が一番気の馴染みがいいと判断したようだ。まるで後ろから抱き締めて肩に顔を埋めているような視界は色々と目に毒だが、見ているだけでも幸せなので止めたくない。……それを俗に覗き行為というのだが、本人は気付いていなかった。


 ――――ビリッ


 ……一瞬何をしたのかわからなかった。ソフィアリアも同じように思ったのか、笑ったまま硬直し、全てを見ていたアミーが珍しく焦っている。


 王鳥の視界では、(くちばし)でソフィアリアの肩のパフスリーブを摘んだ後、魔法で割いてしまったように見えた。どうやら素肌の触れ合いの方が効率がいいらしい。ソフィアリアが胸元を押さえる前、一瞬見えた中の布の正体は、色々とよろしくないので考えないようにする。


 理解するとカッと頭に血が上った。勢いよく立ち上がり、猛スピードで一階にある温室へと向かう。執務室は二階――天井が高い為、実質的な高さは三階相当――なのだが、玄関ホールの手すりを飛び越えて軽々と下に着地すると、温室まで走る。使用人に何事かと見られたが、気にしていられなかった。


 温室の扉が見え、蹴破る勢いで扉を開け、怒鳴り込む。王鳥と代行人は別人であるというのをやんわりと誤魔化している事だとか、色々な事が頭から抜け落ちていた。


「王っ‼︎」


 



 ――後日、視界共有は集中しないと出来ないとうっかり話してしまい、ならあの時あんなに早く来られたのは何故なのかとソフィアリアに不思議そうに尋ねられたが、なんとか誤魔化した。……誤魔化せたと信じよう。

 なお、覗き行為によって仕事に支障が出ていたので、それ以来王鳥に午前中の視界共有を遮断されてしまったのは言われるまでもない。




出会って早々やらかしまくっていた代行人ことオーリムの裏事情でした。

許してください、彼はスーパーなダーリンさんではなく思春期のボーイなんです。余裕はないけど必死に一生懸命なんです。

色々残念ですが、可愛い子だと思って書いてます。色々残念ですが(二度目)

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