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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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兵士にも王子にもなれない『おれ』は 3

 お城に向かうつもりだったが、今行っても全身傷だらけで怖がらせるだけだし、助けたくても歩くのもやっとな状態だったので、一先(ひとま)ず身体を冷やす為に川へ向かう事にした。盗みが見つかって折檻された時も、冷やしたら沁みるけど楽になる事は知っていた。


 ボロボロのままいつもの川辺につき、使うのは少し嫌だったが、薄黄色い布を水に浸して、特に痛む傷口を押さえる。でも間に合わず、少し考えてそのまま川に飛び込んだ。布は流されないように重石を乗せて川辺に置いた。

 魚を捕るためによく川に入るので、水深が一番深くて腰あたりまでと知っていた。肩まで浸かって、頭も血を洗い流す為に水を被り、ついでに全身の汚れも少しでも綺麗にならないかと懸命に擦る。ソフィアリアに会う前に、少しでも綺麗になりたかった。


 早朝から川の水を被るのは暑い季節とはいえとても寒く、我慢出来なくなった頃に上がって日向でそれを乾かす事にした。薄黄色い布を握り締め、石に腰掛けながらぼんやりと空を眺める。これは昔からの癖だ。

 ぼんやりしながら考えて、果たして今の全身傷だらけで赤い服も着ていないラズを、ソフィアリアはラズだと気付いてくれるだろうかと不安になった。それに会えたとしても昨日あれだけ酷い事を言って、地面に転ばせてしまったのだ。絶対嫌われたし、許してくれないだろう。自業自得とはいえそれがとても悲しく、またポロポロと涙が溢れる。


 なんであんな風に責めてしまったのだろうと後悔してももう遅い。言った事は取り消せないし、やり直しなんて出来やしない。悪人の住むという忌々しいお城に住んでいるという事実に驚いて、幸せを自分の手で振り払ってしまった。


 泣いてヒクつきながら、でもそうしていても仕方ないのでゴシゴシと目元を擦って、涙を止める。そして辺りを見まわし、尖った石を探した。

 一つ見つけたのでそれを持ち、木の側にいつも置いてある長い棒の先にズボンの紐で括り付ける。万が一ソフィアリアがお城に捕まっていたのなら、これで助けてあげなければいけない。魚を捕る時にしか使わないけれど、きっと武器になる筈だ。


 武器と薄黄色い布を持ってお城へと向かう。許してくれなくてもいい、嫌われてもいいから、まずは謝りたかった。謝って、必要だったらお城から助け出すのだ。


 綺麗なソフィアリアは絶対悪人なんかではない。自分をお姫さまだと言っていたし、こんな汚いラズなんかにもとても優しかった。都合がいいかもしれないが、頭の冷えた今だとそう確信している。あんな事を言ってしまって後悔しかない。


 優しいお姫さまのソフィアリアは、けれどお城に住んでいるのだ。その事が人にバレたらラズのように誤解して悪意をぶつけ、悪人ジジイみたいにやっつけようとする人がいるかもしれない。だからラズが誤解を解いて護ってあげたかった。


 顔も見たくないくらい嫌われたのなら、ソフィアリアから見えないくらい遠くから、もし許してくれたらたくさん謝って、傍で堂々と護ろう。ふわふわしていて綺麗な子だったから、人以外からも狙われる事があるかもしれない。あらゆる危険からソフィアリアを護ってあげる事が、名前を貰ったラズの使命で生きる意味だと思った。


 万が一お城から助け出さなければならないなら、連れ出してどうしようか。綺麗なソフィアリアはスラムには連れて行きたくない。赤い服を盗った暴力野郎みたいな危険な奴もいるし、綺麗だから盗まれるかもしれない。それは絶対ダメだ。

 せめて村で暮らしてほしいが、ラズは家に住む方法を知らない。畑や店みたいなところで働くというのをぼんやり知っているが、そこからどう暮らすのかがわからない。ソフィアリアは物知りだから知っているだろうか? 知らなければ、誰か村の人に聞いてみなければいけない。


 そう考えると、悪人を退治した後お城に引っ越してきて、そこで普通に暮らしているというのが一番いい。綺麗なお姫さまなのだから、お城で暮らすのが当然だ。悪人に間違われるかも知れないが、そこはラズが護ってやればいいだけの話である。

 確かお城を護る兵士というのがいた筈だ。ラズはそれを目指す事にした。兵士になって、お城の庭の隅にでも住まわせてもらえば嬉しいが、ダメならスラムから通えばいい。ソフィアリアは昨日一緒にお部屋で暮らすと言ってくれたが、少しだけそれも夢見ていいだろうか。


 歩きながら色々な可能性を考えて、自然と口元に笑みが浮かんでいた。許されれば絶対的な幸せが、許されなくても遠くから護れるのだから、今よりは幸せになれる。そう浮かれていたのだ。


 ――だがすぐに絶望に叩き落とされる事になると、この時はまだ知らずにいた。


 幸せな気分でお城へと向かっていたら、突然目の前に夜空のような大きな鳥が現れた。本当に突然だったので思考が追いつかず、目を見開いてポカンとマヌケにも口を開ける事しか出来なかった。


『なかなか心地よい気を感じたが、そなたが原因か?』


 頭に直接言葉が響き、ようやく頭が働いたが、恐怖で後ずさる。こんな大きな鳥も、こんな変な声も、ラズは知らない。


「な、なんだよ、あんたっ……⁉︎」


『うむ、その気概もよいのぅ。気に入ったぞ、ラズよ。そなたを今代の……余の代行人に任命してやろう』


 大きな鳥はニンマリと鋭い目を細める。どうやらこいつが喋っているのだと気付き、戦慄(せんりつ)した。布と武器を握り締めたまま、恐怖で腰が抜けてその場で尻餅をついてしまう。


「なにっ、何を言って……なんで名前……⁉︎」


『余は神だからな。当然であろう? さて、そうと決まればさっそく連れて行かねばな』


 愉快と言わんばかりの上機嫌な声音でそう言われ、フワッと身体が宙に浮く。驚いて武器は落としてしまったが、薄黄色い布だけは絶対手離さなかった。

 恐怖と驚きで声も出ず、あっという間に大きな鳥の首の上辺りに座らされる。状況が理解できず目を白黒させたまま、だが次の瞬間、視界がぐんと高くなった。


 意味もわからないまま、気がつけば大きな鳥に攫われて空にいた。地面が――お城が遠ざかる。


「待って…………」


 届くはずもないのに、思わず手を伸ばす。遠ざかって、石より小さくなって、やがて見えなくなって……


「待ってっ!おれはあのお城に行かないとっ‼︎」


『ならぬ。ラズは余の代行人になるのだ。そなたにはやらねばならぬ事があるのだからな』


 絶望感で目の前が真っ暗になった。そして――意識を手放した。


『……ふむ。まあ、ラズは代行人だからな。騎族(きぞく)ではないから、気を失っても契約は成るか。安心せよ。ラズの姫は立派になったら迎えに行けばよい。ソフィアリアという娘は、いずれそなたと余の妃にしようぞ』


 そう呟いた言葉は、意識のないラズには勿論(もちろん)届かなかった。





 ラズは大きな鳥の背に乗せられて、幸せな『夢』を見ていた。


 お城につくとソフィアリアは待っていて、ラズの姿を見るとぱっと明るい笑顔で駆け寄って来てくれる。


『ラズくんっ‼︎』


 そう言って両手を握り締めてくれたので、ラズも握り返し、真剣な表情をソフィアリアに向けた。


『その、昨日は酷い事を言ってごめん。悪人の居るお城に住んでる事に驚いて、色々今の生活にイライラしていたから、ソフィアリアも悪人なのかもと思ったら、辛く当たってしまったんだ。そんな訳、ないのにな……』


 しょんぼりと気落ちしながら謝ると、ソフィアリアは首を横に振って、ニコニコ笑う。その表情が、ラズはとても好きだった。


『いいわよ。じゃあ仲直りね? 今度こそ、ソフィ達と一緒のお部屋で楽しく暮らしましょう!』


『……いいの?』


『もちろんよ! だってラズくんはソフィのお城の兵士さんになるのだもの。側にいてくれないと困ってしまうわ』


 許されて、一番幸せな結末を迎えられてフワッと気持ちが浮つく。ラズは今まで一度もした事のない、笑顔という表情を浮かべていた。


『絶対護るよ。ずっと傍に居て、どんな悪人からもお姫さまを護ってやる』


 ソフィアリアもその表情を見て、嬉しそうに笑う。


『嬉しい! じゃあこれからは、ずーっと一緒ね!』


 手を握り合って、ソフィアリアと過ごす幸せな未来を予感しながら顔を見合わせてくすくすと笑う。そんな幸せな『夢』だった――

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