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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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伴侶と婚約者 5

「失礼します。王鳥様や大鳥様に関する書物をお持ちしました。このあたりの本がわかりやすいかと思います」


「まあ! ありがとう、プロムス。手間をとらせたわね」



 止まらない王鳥と代行人の取っ組み合いをぼんやり眺めていたら、代行人の侍従――プロムスがやって来て、要望通り王鳥や大鳥に関する本を数冊持ってきてくれた。

 名前を呼んでお礼を言えば、プロムスは驚いたように目を見張る。



「私の名をご存知でしたか」


「ええ。昨日あなたの可愛い奥様から聞いたわ。昨日はきちんと挨拶しなかったわね。わたくしはソフィアリア・セイド。出来れば名前で呼んでくれた方が嬉しいわ。アミーには我儘(わがまま)を言って友人になってもらったの。大切な奥様に負担を強いる主人でごめんなさい。そしてあなたにも、友人として仲良くしてくれればと思っているわ」



 笑顔でそう言うとプロムスも口元に笑みを貼り付け、胸に手を当てて恭しく礼をする。アミーはまだ少々ぎこちなさがあるが、プロムスは侍従になって長いのか、高位貴族に仕える侍従と言われても納得出来る程には所作が洗練されていた。まあ代行人は貴族よりも上の存在だからそれが当然なのかもしれないが。



「こちらこそ、ご挨拶もせず申し訳ございませんでした。申し遅れましたが私はプロムス。妻と同じく平民出の為家名はありません。代行人様と妻を通して、妻共々ソフィアリア様に仲良くしていただける事は身に余る光栄です。どうぞよろしくお願いいたします」


「ふふ、アミーをとても愛しているのね。ええ、よろしくお願いね」



 暗に代行人とアミーを介してなら仲良くしてくれると言われてしまった。距離を置かれたというより、やたらと『妻』を強調するあたりアミーに義理立てしての事なのだろう。アミー以外の女性とは深く仲良くなるつもりはない、といったところか。

 その言葉を聞いてソフィアリアはプロムスに対してますます好感を抱いた。アミーを何よりも大事にする彼はきっといい人だ。なら、ソフィ呼びは潔く諦める事にする。


 昨日聞いた話だとプロムスはアミーの二つ上の十八歳。シャンパン色の髪を後ろに撫で付け、銀縁眼鏡をかけている。

 キリッと切れ長でありつつも柔らかさを感じるように()()()目はアミーより暗めのオレンジ色で、ソフィアリアより頭一つは高い高身長に端麗な顔立ち。所作の丁寧さも相まって高位貴族のご落胤(らくいん)では?と疑う程平民離れしており、なかなかハンサムだ。

 そして既婚者の証であるオレンジ色のピアスを右耳に着けている。アミーと対称的にしたらしい。

 ハンサムなのにフラフラせず、ずっとアミー一筋なのだから素晴らしい。アミーの成人と同時に速攻で籍を入れる程、彼は一途なのだ。


 だが、昨日アミーから話を聞いて知っている。そんなプロムスの本当の素顔を。



「……ちょっと。あんた騎族(きぞく)なら旦那様方を止めてよ」



 さり気なくプロムスの隣に並び、(いささ)か頬を赤く染めたアミーが小さな声でそう言ってプロムスを見上げる。妻という単語の連呼ですっかり照れてしまったようだ。

 プロムはニヒルに笑って明後日の方向を向き



「あのお二方を止めるとか無理に決まってんだろ」



 ボソリとそう返していた。

 表向きは礼儀と人当たりよく接しているが、本当は口と態度が悪い下町っ子で、眼鏡はそれっぽいから付けた伊達眼鏡らしい。アミーに言わせるとただのカッコつけなのだとか。


 小さな声で交わされたやり取りを微笑ましく思いながらソフィアリアはソファに浅く腰掛けて本を(めく)り、今朝から何度か耳にしている単語の項目を探す。目当ての単語はすぐに見つかった。


騎族(きぞく)』――正式名称は鳥騎族(とりきぞく)

それは大鳥と契約を交わす事の出来た人間の総称で、契約を交わした大鳥の背に乗る事を許され、人間を上回る身体能力と、限定的ではあるが大鳥が側に居れば『魔法』を行使する事が出来るようになるという。そして契約を交わした大鳥の声が直接聞けるようになるのだとか。

 大雑把に言えば王鳥と代行人の関係が、大鳥だとそう名称が変わるというところか。


 鳥騎族が行使出来るようになる魔法は契約した大鳥の力量に依存し、そよ風や蝋燭(ろうそく)に火を着ける程度の弱火、コップに水を満たす程度の魔法を使えるのが『男爵位』。鳥騎族はここが一番多いらしい。


 髪を乾かす程度の風と暖炉に火を着ける程度の中火にバケツ一杯の水を満たす事が出来る魔法を使えるのが『子爵位』。


 人が倒れる強風と一瞬で家を燃やす程度の強火に大浴場一杯程度の水を即座に満たす事が出来、更に光源が出せるようになる魔法を使えるのが『伯爵位』。


 子爵位と伯爵位の鳥騎族は十数人に一人程度の割合で比較的レアな方ではあるようだ。


 木々を薙ぎ倒す嵐に村を火の海に変える程度の火を起こせ、洪水を起こせる大量の水の行使と眩しいくらいの光源を発生させる他、先程代行人がやったように何もない所から武器を発生させる魔法を使えるのが『侯爵位』。ここは数百年に一人程度しか選ばれず、歴代でも両手で足りる程度しかいない。


 もう一つ上に『公爵位』もあるのだが、これは王鳥の子に与えられるらしい。が、今まで一度も居た事がなく、力量も行使出来る魔法も不明なのだとか。おそらく力量は侯爵位以上王鳥未満だろうと推定されている。


 そして言わずと知れた万能の『王鳥』。力も未知数で、王鳥と契約した場合のみ鳥騎族ではなく代行人となるのは既にお馴染みだろう。


 大鳥や王鳥、代行人の存在は浅く広く知られているが、大鳥と個人的に契約出来る事や大鳥の力量が爵位によって振り分けられている事、鳥騎族の存在などはソフィアリアは初めて知った。大鳥に騎乗出来、能力を爵位に当てはめているから『鳥騎族(とりきぞく)』とは上手く考えたものだ。

 鳥騎族になるには様々な厳しい条件に加え、大鳥に選ばれなければならないのでかなり狭き門らしい。平民だと比較的なりやすく、貴族は高位であればある程難しいようだ。それはこの大屋敷に足を踏み入れる事も一緒である。

 鳥騎族の存在はある程度教養がなければ知らず、学があっても貴族では難しく、平民はその学力自体がそもそもあまり高くないので知られておらず、結果的に少ないという所だろうか。増やす必要性がないから募集もかけていないようだ。

 ざっと流し読み終えたので顔を上げ、プロムスを見る。



「先程聞こえたのだけれど、プロムスは鳥騎族(とりきぞく)なのかしら?」


「はい。侯爵位の大鳥様と契約を結んでいただいております」


「まあ! 凄いのね」



 目の前の彼は数百年に一人の逸材だったようだ。思わず尊敬の眼差しで見つめると、プロムスは何処となく誇らしげに胸を張っていた。それをアミーは呆れたように見つめている。



「見つけた時はまさか侯爵位だとは思わなかったのです。ですが絶対に彼女がいいと、熱心に口説き落としました。時間はかかりましたが、念願叶ってよかったですよ」


「契約を結んだ大鳥様は女性なの?」



 頬に手を当て目を見開く。ソフィアリアの知識では大鳥には性別はなかった筈なのだが、実際は違ったのだろうか。

 だがプロムスは首を横に振った。



「私がそう勝手に思い込んでいるだけです。私の大鳥様はとても愛らしい、キャラメル色の君ですので」


「あらあら」



 思わず笑ってしまった。そして意味ありげに、プロムスの隣で真っ赤になって俯いているアミーを見つめる。



「いつかお会いしたいわね」


「ええ、ぜひ。現在は単独で島の見回りに出ておりますが、明日には帰ってくる予定ですのでご挨拶させていただきます」


「楽しみにしているわ」



 そう言って本に視線を戻す。火急に知りたい事がもう二つほどあったのだが、片方は自分の知識と差異はなく、もう一つは見つからずで首を傾げた。どうやら直接代行人に聞いてみるしかなさそうだ。



「……ソフィアリア様は肝が据わっていらっしゃいますね」



 一区切りついたのがわかったのか、プロムスが不意にそう尋ねてくる。視線は(いま)だ争い合う王鳥と代理人を、いつ終わるのかと言いたげな遠い目で見つめていた。



「マイペースでぼんやりしてるとよく言われるわ。それに、あの二人は楽しそうだから放っておいても大丈夫よ」


「楽しそうですか?」



 不思議そうな目で見つめてくるアミーに笑みを返しながら、自信を持って頷く。確かに武器や魔法まで行使しながら激しく揉み合う姿は客観的に見て楽しそうとは程遠い。だが二人のそんな姿をしばらく見ていたので多少わかる事はあった。



「少なくとも王鳥様は楽しんでいるわ。きちんと大きな怪我はしないよう力を調整しているみたいだし、子供同士のじゃれ合いよりきっと安全よ。楽しそうなのだから邪魔するのも悪いわ」


「「子供同士のじゃれ合い……」」



 声を揃えて同じような渋い顔をするこの夫婦は、とても仲が良くて微笑ましいなと思ったソフィアリアだった。

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