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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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幸せなダンスを 5

 新たな曲が始まると、今度は強引に手を取られる。 


 甘さの余韻を引き摺ってか今度は随分と大胆だなと思ったが、その表情を見てふわりと困ったように笑った。

 彼は巧みなリードをしながら、大胆に、何よりも華麗に踊ってみせる。ソフィアリアはそれに遅れを取らないように懸命についていきながら、ふふっと笑ってしまった。


「とてもお上手ですのね、王様?」


「当然。余を誰だと思うておる」


「凛々しくて優しい、わたくしの恋しい旦那様のお一人ですわ」


 その返答に満足したのか、オーリムの身体を借りた王鳥はニヤリと不敵に笑った。まるで悪戯をするかのようにくるりと立ち位置が反転したが、それで遅れをとるソフィアリアではない。


「これにもついてくるか。さすが余の妃ぞ」


「お褒めいただき光栄です。意外とダンスは得意なんですのよ?」


 先程オーリムと踊った時とは違い、王鳥の動きは素早く大ぶりだ。跳ねるような動作もするから、(はた)から見れば大層目立っている事だろう。


 なお、今が国王陛下夫妻のファーストダンスで、こちらの方がかなり目立ってしまっているという事は、精神衛生上よろしくないので考えない事としよう。


「王様ともこうして踊れるとは思いませんでしたわ。とっても幸せです」


「余は寛大だからファーストダンスは譲ってやっただけの事。こやつが妃と踊るのに余は踊らぬなど、ありえぬよ」


「ええ、ええ、そうですわね。……そういえば王様、先程はキスでお見送りしていただき、ありがとうございました。とても心に響きましたわ。ふふっ、あら嫌だわ、思わずニヤけちゃう。王様とは二回目ですのに、こういう事は慣れませんね」


 思い出してポッとしていると、王鳥はニンマリと目元を三日月型にして、いやらしく笑った。


「いや? 余とは初めてだぞ」


「まあ! お忘れですの? 初めて食堂でご一緒した時、別れ際にしてくださったではありませんか」


 ジトリと拗ねたようにそう言うと、王鳥はふっと鼻で笑う。その笑い方はいくらなんでも酷いのではないだろうか。


「余は触れる直前にこやつに意識を返したぞ? どさくさに紛れて妃の頬に吸い寄せられたのは、こやつ自身だ」


「……あらまあ」


 なんて事だ。全く気が付かなかった。てっきり王鳥が触れたまま交代して、起きたらキスをしていたオーリムが驚いて硬直していたのかと思ったら、そもそもオーリムから触れたのか。いや、故意ではなく無意識だったのかもしれないが。

 どちらにしろ、伴侶と婚約者からキスを贈られたのは事実だ。顔の火照りは、激しいダンスのせいだけではあるまい。


「……ようやっと腹は決まったか?」


 ソフィアリアの表情の変化を見取ってか、王鳥は優しげな表情と声音で尋ねてくる。ソフィアリアは笑顔で首肯した。


「ええ。わたくし、待ちきれないから迎えに行こうと思いますの。でも黄金の水平線の彼方はとても遠いので、王様の立派な翼をお貸しくださいな」


 晴れやかな表情でそう言えば、顔を近付けられコツンと額が触れ合う。周りに見えないくらい一瞬の事だったが、ダンス中になかなか大胆な事をするなと、ますます赤くなってしまった。


「まったく、そなたらは世話の焼ける事よ。くだらぬ事でぐずぐずと足を止めよって。余のお膳立てを無に()するつもりなのか」


 拗ねたような表情と物言いに笑ってしまう。くすくすと笑いながらギュッと握る手に力を込めた。


「申し訳ございません。ですが、わたくしもリム様も弱い人間なのです。これからは二人で力を合わせて王様と並び立ちますので、どうか見捨てないでやってくださいな」


 少し甘えた声で言えば、王鳥は慈愛の表情で頷く。そしてグッと強く引き寄せられた。


「……そなたらは余を置いて、二人っきりの世界に入るのかと思うたぞ?」


「まあ! 絶対ありえませんわよ。先程のお話は聞いていたのでしょう? リム様はこれからもずっと王様と一緒だと信じて疑っておりませんし、わたくしももう、お二人に恋心を向けなければ物足りないと思ってしまうのです。そんなわたくし達が寂しがり屋さんの王様を置いていくなんて事、する筈ないではありませんか」


「はっ! 余を寂しがり屋と評するか。ほんに妃は豪胆よのぅ」


「だってわたくしはあなた方に選ばれた、初めての妃ですもの」


 リードをされながら大きくターン。ふわりと靡くドレスが舞い上がり、中が見えていないかと少し慌てた。


「見せぬよ。当然であろう? ……さて妃よ、余を足に使うのだ。人間の用事など、さっさと終わらせてくるがよい」


 スピードが落ちる。ここでの楽しく幸せな時間は、どうやらもう終わってしまうようだ。その事に少し寂しさを感じながら、でもソフィアリアの居場所はここではないので、そんな気持ちはグッとねじ伏せる。


「ねぇ、王様? ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 首を傾げてそう問えば、王鳥はニッと口角を上げ、頷いてくれた。


「許す。申してみよ」


「ありがとうございます。王様はこれからわたくしが何をしても、変わらず愛してくださいますか?」


 手が離れる。その直前に見た情熱的な瞳と柔らかな表情を見て、その答えに安堵した。


 曲が終わる。向かい合って礼をすれば、その途中、きょとんとしたオーリムの表情が見えて頬が緩むのだった。

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