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【第三部番外編連載中】王鳥と代行人の初代お妃さま  作者: 梅B助
第一部 黄金の水平線の彼方
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幸せなダンスを 2

 ソフィアリア達の住む大屋敷から王城までは、馬車で一時間程かかる。ソフィアリアとオーリムの二人きりの馬車と、後続にはアミーとプロムスと侍女三人を乗せた馬車の合計二台でその道を走っていた。


「そういえばわたくし、地に足をつけて大屋敷から出たのは一季半振りだわ」


 なんの気無しに思った事を口にする。ずっと忙しく、出たいと思った事もなかったので気付いていなかったが、考えてみれば今まで外に出た事がなかった。

 それでも夜デートではよく空を飛び回っているし、やりたい事も特にないので問題はないのだが。


「す、すまないっ! 気が利かなくて。その、どこか行きたいか?」


 それに慌てたのがオーリムだ。そんな事は思っていなかったので首を横に振る。


「特に出たいと思った事もなかったし、観光も考えてなかったもの。気にしないでくださいな。……でも色々落ち着いてからでいいから、いつか明るいうちに街中でデートというのもしてみたいわね?」


 そんな幸せな事を思い浮かべてしまい、思わず頬が火照って表情が緩む。オーリムも赤くなって視線を逸らし、けれどコクンと頷いた。


「……ああ。いつか必ず行こう。その、俺も王も大屋敷からあまり出ないから、聖都も島都もあまり明るくないけど」


「わたくしも全然知らないから、みんなで一緒に調べて計画を立てましょう? ふふっ、楽しみだわ。……でも、王様とは一緒にいけないわよね?」


 当たり前のように三人一緒だと思っていたが、よく考えれば王鳥が街中で姿を現すと大変な事になるだろう。それに大きいのでお店に入る事も出来ない。少ししょんぼりしてしまうと、オーリムも同意らしく、寂しそうに微笑した。


「三人一緒でというのは難しいかもしれないが、王はずっと俺を通して様子は見ているし、最悪身体を乗っ取るだろ。だから、いつか行こう――――王も行きたいって言ってる」


 そう言って真剣な表情をする。二人とも本気で行きたいと思ってくれたようで、それが嬉しくて気持ちがふわふわしてきた。思わずはにかんでしまい、勢いよく首肯する。


「ええ!」


 と、そんな話をしているうちに人通りの多い所まで来たのだろう。カーテンを下ろしているので外の様子は見えないが、相当な騒めきが聞こえる。それはそうだろうなと苦笑する他なかった。


「凄く目立っているみたいね?」


「だよな」


 オーリムも王鳥の目線を見る為か、目を瞑ってそう答える。


 実は今、この馬車の上には王鳥が姿を現しながら乗っているのだ。外から見た際の見た目のインパクトは相当だろう。

 これは代行人と王鳥妃(おうとりひ)がこの馬車にいると周りに知らしめる為であり、この馬車を狙う輩を牽制する為でもある。

 この国を守護する大鳥の関係者が乗る馬車が狙われるなんて思いたくないが、居ないとも限らない。普通の馬車なら狙えても、上に王鳥が止まった馬車を狙える人は居ないだろう。そう思いたい。

 馬は大鳥の姿を感知しないらしく、重さも感じさせないような魔法を使っているそうだ。なら、走るのも問題はないのだろう。


 ちなみに後続の馬車にはキャルが上に乗っている。十中八九アミーを護る為に勝手に待機していて、王城に着いて行かないようにと説得していた王鳥はそんなキャルにげんなりしていたが、渋々許可したようだ。ソフィアリアはそんなキャルの様子が微笑ましく思った。


 という訳なので、婚約者同士であっても馬車で男女二人きりというのは本来好ましくないのだが、アミーとプロムスはキャルの乗る馬車に乗る必要があるし、侍女三人の誰かが一緒に乗ろうとしたが、王鳥が嫌がったので、この馬車にはソフィアリアとオーリムの二人しかいないのだ。

 まあ厳密に言えば王鳥も含めて三人だし、ほぼ毎日夜デートなんてしているので今更である。大屋敷には平民が多いので三人きりが普通だと思われているし、そもそも国王より上の位に立つ三人を咎めらる人なんていない。


 外の(ざわ)めきを気にしないようにしながらオーリム、オーリムを通じて王鳥と三人で会話していたらあっという間に王城に着いたらしい。いつ王城の門を潜って中に入ったのかはわからなかったが、停止して扉が開けられる。オーリムが先に降りて、出会った日と同じように手を差し出され、その手に自分の手を重ねた。


 馬車から降りると王城の前では正装をしたフィーギス殿下とラトゥスが待っており、胸に手を当てながら礼をされた。


「お待ちしておりました、王鳥様、代行人様、王鳥妃(おうとりひ)様」


 王太子が(かしず)くという行為に遠巻きから騒めきが聞こえたが、オーリムは頷き、ソフィアリアは笑みを崩さないまま王鳥から貰った扇子を広げる。


「ありがとうございます、次代の王。今日はよろしくお願いしますわね」


「ええ。ご案内いたします」


 フィーギス殿下は満足そうに笑う。何の打ち合わせもしていなかったが、合っていたようで一安心だ。


「ピピ」


 王鳥はソフィアリアの側に着地すると、一度労うように肩に頭を擦り付けてきたので、ソフィアリアもそんな王鳥を周りのみんなに見せつけるように、慈しみを込めて撫でる。


「ここまでついてきてくれてありがとうございます、王様。すぐ帰りますから、待っていてくださいませ」


「ピ!」


 王鳥は少し顔を上げると、まるでキスをするかのように(くちばし)の先をソフィアリアの右頬に柔らかく当てた。いや、実際キスのつもりなのだろう。ソフィアリアは突然の触れ合いに目を見開き、思わず硬直してしまった。


「っ⁉︎ 王っ‼︎」


「ピー」


 眉を吊り上げたオーリムに馬鹿にしたような鳴き声を返した後、王鳥は飛び立ち、姿が見えなくなってしまった。


「あらまあ」


 右頬を押さえながら王鳥が消えた方向をポカンと見つめていた。多分顔が少し赤い気がする。オーリムの姿でやられた事は一度だけ食堂であったが、王鳥の姿では初めてだ。


 後続の馬車ではキャルがイヤイヤしてアミーから離れたがらなかったが、王鳥が何かしたのか渋々王鳥の後に続く。プロムスが溜息を吐いたのが見えた。


 一連のやりとりを見ていたフィーギス殿下が先導して王城の中へと入って行ったので、少し不機嫌なオーリム、オーリムにエスコートされたソフィアリアもついていく。みんなもその後ろに続いた。

 しばらく無言のまま歩き、一際豪奢な扉の奥まった控室へと案内されたので全員で中へと入り、扉を閉めた。道中ついてきたお城の騎士達は部屋の外だ。


「……フィーギス殿下ってばお人が悪いですわ。王太子殿下が直々にお出迎えだなんて、聞いておりませんでしたよ?」


「いやぁ〜すまないね。けど、代行人を迎えに出る事なんていつもの事さ。なあ、リム?」


「ああ。これが普通だ」


「リム様まで……」


 何かおかしいか?と首を傾げるオーリムに溜息を吐く。確かに身分を考えれば当たり前の事だ。けれどソフィアリアは王鳥妃(おうとりひ)として王城に来たのは初めてだったので、そこまで考えが及ばずに驚いてしまった。動揺は他の人達にはバレてないと思いたい。


「にしても、また随分と派手な登城だったね? むしろこちらの方が驚いてしまったよ。執務室から遠目で見えた時は、思わず二度見してしまったくらいだ」


 それには笑って誤魔化した。そう言われても、あれもソフィアリアは直前まで知らなかったのだ。むしろ街を騒がせてしまった分、こちらの方が驚かせた罪がより重いだろう。悪気はないとはいえ、少し申し訳ない。


「殿下。そろそろソフィ様の準備に取り掛かりたいのですが、よろしいでしょうか?」


 時間を気にしていた侍女達を代表して、アミーが口を開く。


「うむ。一度出直そう。ではリム、いつもの場所に来たまえ。あとで迎えに行くよ」


「わかった」


 フィーギス殿下はそう言ってラトゥスを伴い、部屋から出て行ってしまった。それを見届けた後、侍女達はホッと息を吐き、窓にカーテンが掛かっている事を確認すると、頭から被っていた黒いヴェールを取り外す。

 実は侍女達三人には顔を隠してもらっていたのだ。三人の中には大屋敷の外から通っている人も居て、普通に街にも出るので、王城で顔を覚えられて街中で声を掛けられないようにとの配慮である。もちろんフィーギス殿下から許可は取っている。


「うわー、やっぱお城の部屋って凄いですねー! 豪華絢爛で意味わかんないって感じです」


 一人はベーネ。十九歳で元気な子だが、気と押しの強さは侍女の中では一番だ。ちなみに今日ソフィアリアの部屋から王鳥を追い払ったのが彼女である。


「まさかお城の中に入れる事になるとは思いませんでしたわぁ〜。ふふ、子供達に自慢出来るかしら?」


 もう一人はパチフィー。四十代でマイペースなマダムだ。ソフィアリアの侍女希望がまだ少なかった時からそれを気の毒に思って、気を使って侍女になってくれたとても優しい人だ。彼女はソフィアリアととても気が合う。


「ソフィ様、さっそく花を髪に挿しますので鏡台の前へ。……これ、何の花かわからないけど本当に野花ね」


 最後の一人はモード。流行に敏感で、おしゃれについて一番詳しい侍女だ。年齢不詳の美人だが、使用人として二十年以上前から大屋敷で働いていたらしいので色々お察しである。王城に来ればドレス見放題という事で、唯一今回の同行を自ら立候補してくれた。


 この三人は最初に侍女希望を募った時に来てくれた三人だ。今はもう少し増えたが、やはりアミーを含め初期メンバーだけあって結束が固い。


 そしてこの案内された部屋はリビングルーム、寝室、侍女の控室にクローゼットルーム兼お色直し用の化粧室に簡易の厨房、浴室にお手洗いまである広々とした部屋で、おそらく高位貴族や他国の王族用の部屋なのかもしれない。最近は少し馴染んできたとはいえ、豪華絢爛過ぎてベーネと同じく意味がわからないと思ってしまう。


「――――部屋に防壁を張っておいた。それと厨房も防壁で封鎖しておいたから、使えなくなっている。扉も窓も内からは開くが、外からは触れる事すら出来ないし、防音になっていて一切の音が聞こえないし、漏れない。悪いが、何があっても出ないでくれ」


 化粧室の外からオーリムが侍女達にそう忠告している。中に入るのは(はばか)られるらしい。別に脱いでいる訳ではないから気にしなくてもいいのに、律儀な人だ。


「はいはーい。音聞こえないのはちょっと助かりますねー。脅しも聞こえないなら何も気にしなくていいですし」


「大屋敷の料理長にたくさんお菓子や軽食を作ってもらって、水出しでも美味しい紅茶もいっぱい用意してきたから厨房は使えなくて大丈夫ですよぉ〜。お水一滴使わないわぁ〜」


「お手洗いもあるなら出る必要もないですわね。あっ、窓は開けないのでカーテンを開けて外を見てもよろしいでしょうか? 他の方のドレスが見たいのですけれど」


 モードの発言にオーリムは渋い顔をして、腕を組んだ。

「――――外からは中の様子が見れないようにしておいた。おそらく無人に見えるはずだ。が、そう言うなら内からは視界は遮断出来ないから、外に人が居ても、矢が飛んできても弾くけど、驚くなよ?」


「充分ですわ。ありがとうございます、代行人様」


「矢が飛んでくるとかマジかー。お城怖っ」


「でも矢が弾かれる瞬間は、少し見てみたいわねぇ〜」


 大きなバスケットには何が入っているのかと思えば、三人は思い思いに過ごしてくれるらしい。王城に連れてきて閉じ込める形になるのを心苦しく思っていたので、退屈をさせなくて済むようでホッとした気分だ。


「三人とも、絶対外に出てはダメよ? お城がなくなってもこのお部屋は安全みたいだから、慌てないで待っていてね?」


「りょーかいです! ……ん? ここ三階なんですけど、その場合この部屋宙に浮くんですか?」


 ベーネの指摘に、そういえばどうなるのだろうかと少し気になったが、お城が吹き飛ぶ想像はフィーギス殿下の胃にも穴が開きそうな気がしたので、深く考えるのはやめる事にした。

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